上 下
45 / 92
7.オッサンとの距離感に困惑する俺

31

しおりを挟む
 キャバクラのママが差し出した傘を、無言で受け取ったオッサンに肩を抱えられながら、俺はフラフラと歩いてる。雨が降ってるせいで、少し肌寒いけど、俺の肩を掴むオッサンんの大きな手が、温かいなぁ、とか思ってる。
 どうも俺はちょっと飲み過ぎたらしい。いや、アルコールが高いのを飲まされただけだから、量を飲み過ぎたわけじゃない。うん。だけど、足に力が入らないんだ。なんか、情けない……。

「まっすぐ歩け」

 オッサンの呆れたような声が、ぼわんと聞こえる。
 
「す、すみましぇん……」

 情けないくらい呂律が回ってない。ここに海老沢がいたら、思い切り馬鹿笑いされてる。

 俺は、オッサンが怖い顔をして現れた時のことを思い出す。チンピラに絡まれた時ですら、それほど感情を露わにしなかったオッサンが、この時ばかりは、一瞬だけ俺の酔いが覚めるくらいに怖かった。そんなオッサン相手に『坊ちゃん』はどこかご機嫌そうで、酔った頭でも、この人も怖いもの知らずだな、と思った。

 オッサンは何も言わずに、目の前に止まってるタクシーに俺を押し込むと、その隣に大きな身体で乗り込んできた。ぼーっと窓の外を見ると、雨足はだいぶ落ち着いている。気が付くとタクシーは動き出していて、どこにいくんだろう? と酔った頭で考えた。その間、オッサンは何も言わない。だけど、問いかける気力も湧かない俺は、いつの間にか目を閉じていた。


 どれくらい経ったのか。時間の感覚もなくて、深い眠りに落ちていたようだ。

「政人」

 うん? 優しい誰かの声が聞こえて、徐々に意識が覚醒していく。

「ほら、起きろ」

 うーん? 誰だ。明らかに男の声だから、みわ子じゃない。俺は、重い瞼をなんとか開けようとするんだけど、まるで、粘着テープでもついてるんじゃないか? って思うくらい、開けられない。

「しょうがねぇなぁ……」

 ずるりと引き寄せられたかと思ったら、急にふわりと身体が浮いた気がした。

 ――あれ? 俺、抱きかかえられてる? てか、誰に!?

 その驚きで、バキンッと急に眠気が覚めて、バチッと目が開いた。

「起きたか」

 ええ、起きましたとも。目の前に、オッサンの精悍な顔がありますから。思いの外、穏やかな声にも驚いてますけどね。

「ほえっ、な、なんで?」

 情けない声を出しながら、だらしなく開けた口に涎が出てないか、無意識に手で拭う。辛うじて無事だったことにホッとしながら、改めて自分の今の状況に、慌ててしまう。
 ていうか、オッサン、俺を簡単に抱えすぎだろっ!

「あ、あの、降ろしてくださいっ」
「……ああ」

 ストンと地面に足をついて軽く体がふらつく。俺はなんとか踏ん張ると、周囲を見渡した。

「えと、ここ……どこですか?」

 タクシーはすでになく、雨はあがってる。夜中を過ぎているせいで、人影はない。そして目の前には背の高いマンションが建っていた。
 オッサンは俺の問いには答えずに、そのマンションの方へと向かっていく。俺はマンションを見上げながら、つい、うちの古びたボロアパートを思い出してしまう。

「早く来い」

 振り返って俺を呼ぶオッサンの声に、我に返る。

「え?」
「泊めてやる。早く来い」

 オッサンはぶっきらぼうにそう言うと、エントランスの中へ入っていく。ここまでくると、状況がよくわからないながらも、俺はオッサンを追いかけていくしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

処理中です...