35 / 92
6.俺とオッサンと若頭
26
しおりを挟む
チンピラたちが暴れてから数日が経った。
さっそく武原さんが何か動いてくれたのか、みわ子のところへのケーキ攻撃も鳴りを潜めたらしい。みわ子曰く、特上コロッケの売り上げが落ちた、と苦笑いしてた。でも、芦原のおっさんにつきまとわれるよりは、よっぽどもいいと俺は思う。
俺は着信履歴から何度か武原さんへ折り返し電話をしたけど、毎回、留守番電話になってしまった。仕方なく、最後の電話の時に感謝の伝言だけ残した。本当は直接お礼を言うべきなんだろうけど、忙しい中、俺みたいな小僧相手に時間をとってもらう方が申し訳ない気がした。
一方で、オッサンは相変わらずで、ほとんど無言で牛丼大盛と豚汁を頼んでは、さっさと食べて帰っていく。その変わらなさ加減が、オッサンらしくてカッケェと思う。
いつものように牛丼を食べて帰ろうとしたオッサン。何も言わずに店を出ようとしたところを慌てて追いかけた。
「あ、あのっ」
俺の声に、すぐに振り向いた。また何かあったか? とでも言うように、訝し気に立つオッサンの目の前に、俺はビニール袋を差し出した。中身は、みわ子のところの特上コロッケ。
バイトに行く前に惣菜屋に寄ったらみわ子には驚かれたけど、お世話になった人に差し入れなんだ、といえば、そうか、と笑ってくれた。このいつもと変わらない笑顔を守ってくれた、武原さんとオッサンへの差し入れだとは気づいてないだろうけど。
「これは?」
「よ、よかったら食べてくださいっ」
武原さんと連絡を取ってくれたことと、この前のチンピラたちのことの感謝も兼ねて。たぶん、一人で食べるには量が多いはず。でも、オッサンの体格じゃ、全部食べきれてしまうかも? 少し焦った俺は、こそこそっとオッサンのそばに寄る。
「あ、あの、た、武原さんにも」
そう言うと、オッサンはちょっとだけ驚いた顔をした。いつも渋い顔をしているイメージだったから、少し新鮮。その上、ニヤリと笑うんだもの、やっぱ大人の男は違うな。
オッサンは俺からビニール袋を受け取ると、俺の頭をぐしゃぐしゃっと撫でて、何も言わずに帰っていった。
それ以来、店で俺と目が合うとちょっと目にはわからないかもしれない、口元の笑みを浮かべるようになった。たぶん、他の人にはわからない、微妙な感じ。でも、それだけで、なんだか俺がオッサンに気に入られてる、そんな気分になった。
ちょっと、こそばゆいような、ちょっと、嬉しいような優越感。
代わりに俺は、満面の笑みを浮かべて、オッサンに注文をとりに行くのだ。
さっそく武原さんが何か動いてくれたのか、みわ子のところへのケーキ攻撃も鳴りを潜めたらしい。みわ子曰く、特上コロッケの売り上げが落ちた、と苦笑いしてた。でも、芦原のおっさんにつきまとわれるよりは、よっぽどもいいと俺は思う。
俺は着信履歴から何度か武原さんへ折り返し電話をしたけど、毎回、留守番電話になってしまった。仕方なく、最後の電話の時に感謝の伝言だけ残した。本当は直接お礼を言うべきなんだろうけど、忙しい中、俺みたいな小僧相手に時間をとってもらう方が申し訳ない気がした。
一方で、オッサンは相変わらずで、ほとんど無言で牛丼大盛と豚汁を頼んでは、さっさと食べて帰っていく。その変わらなさ加減が、オッサンらしくてカッケェと思う。
いつものように牛丼を食べて帰ろうとしたオッサン。何も言わずに店を出ようとしたところを慌てて追いかけた。
「あ、あのっ」
俺の声に、すぐに振り向いた。また何かあったか? とでも言うように、訝し気に立つオッサンの目の前に、俺はビニール袋を差し出した。中身は、みわ子のところの特上コロッケ。
バイトに行く前に惣菜屋に寄ったらみわ子には驚かれたけど、お世話になった人に差し入れなんだ、といえば、そうか、と笑ってくれた。このいつもと変わらない笑顔を守ってくれた、武原さんとオッサンへの差し入れだとは気づいてないだろうけど。
「これは?」
「よ、よかったら食べてくださいっ」
武原さんと連絡を取ってくれたことと、この前のチンピラたちのことの感謝も兼ねて。たぶん、一人で食べるには量が多いはず。でも、オッサンの体格じゃ、全部食べきれてしまうかも? 少し焦った俺は、こそこそっとオッサンのそばに寄る。
「あ、あの、た、武原さんにも」
そう言うと、オッサンはちょっとだけ驚いた顔をした。いつも渋い顔をしているイメージだったから、少し新鮮。その上、ニヤリと笑うんだもの、やっぱ大人の男は違うな。
オッサンは俺からビニール袋を受け取ると、俺の頭をぐしゃぐしゃっと撫でて、何も言わずに帰っていった。
それ以来、店で俺と目が合うとちょっと目にはわからないかもしれない、口元の笑みを浮かべるようになった。たぶん、他の人にはわからない、微妙な感じ。でも、それだけで、なんだか俺がオッサンに気に入られてる、そんな気分になった。
ちょっと、こそばゆいような、ちょっと、嬉しいような優越感。
代わりに俺は、満面の笑みを浮かべて、オッサンに注文をとりに行くのだ。
1
お気に入りに追加
356
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる