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4.母親は山ほどのケーキに困惑する

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 オッサンはいつもの定位置に座ると、食券をカウンターの上に置いた。俺はすぐに目の前に立つと、注文の内容を確認する。

「牛丼大盛と、豚汁のセットですね」
「……」

 俺の方をチラリとも見ずにスマホを取り出すオッサン。煩くしてたのを嫌がられたりしなかったかな、と内心心配しながらも俺は急いで中に戻ると、宇井さんに「牛丼大盛と豚汁です」と声をかけた。

「あいよぉ」

 宇井さんの若干呑気な返事に、俺の方も肩の力が抜ける。和田くんはケーキの箱を抱えたまま、カウンターの様子を伺ってる。いつまで経っても、おっさんにビビってる和田くんに、俺も呆れてしまう。

「和田くん、それ、お姉さんたちにあげてくれば」

 どう見ても、お姉さんたちは食べ終わってる。和田くんの持ってるケーキ待ちだろ。どうせ、誰も食べないなら、持って帰ってもらってもいいだろう。捨てちゃうのは、やっぱり勿体ない。

「あ、う、うん」

 ビビりの和田くんはこそこそとお姉さんたちのほうに寄っていく。お姉さんたちは嬉しそうにケーキの箱を受け取ると、笑顔で手を振りながら、店から出ていった。
 俺はお姉さんたちの食べ終えた食器を片付けようと手を伸ばそうとしたが、お姉さんたちに手を振ってた和田くんが、そそくさと俺の手から奪おうとする。

「なんで」
「い、いや、すぐ牛丼できるし?」

 ――俺に運べ、ということ?

 うんざりしながら、調理場に戻ると宇井さんがなんともいえない笑みを浮かべながら、牛丼と豚汁ののったトレーを差し出した。
 素直にそれを受け取り、カウンターの方へと向かう。スマホをいじっていたオッサンが、俺の方に目を向けた。さすがに睨まれたわけでもないから、そんなに怖くない。むしろ、武原さんの関係者だと知ってからは、それほど怖いとも思わなくなってる。
 ……それって、駄目なパターン。のような気がしないでもない。

「お待たせしました~」
「……ん」

 オッサンはスマホをしまって、目の前に置かれた牛丼に目を向けると、すぐに箸を取り出した。ガッツクというわけではないけど、パクパクと食べていく様子は、『ヤ』のつく職業とか関係なく、普通の人と変わらないって思う。
 俺は中に戻る途中、ふと思い出した。みわ子に絡んでたあのおっさん。芦原とか言ってたか。また変な男に捕まって、悲しい思いをするんじゃないだろうか、と心配になる。
 そして、オッサンの食べている姿を見て思い出したのは、やっぱり武原さん。

 一度、相談したほうがいいんじゃないか。
 あの人だったら、みわ子のことを守ってくれるんじゃないか。

 調理場の出入り口に立って、オッサンが豚汁の椀を手にした様を見つめながら、俺はずっと考え込んでいた。

***

『閑話:オッサン、牛丼屋に通い始める』を入れるのを忘れておりました^^;;;
前の章に入っておりますので、そちらもお読みいただければ、と思います。
申し訳ございません^^;;;
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