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第4章-2
しおりを挟む「まずはこれを見てください」
「・・・・なんだこれは」
机の上には一つの人形と青く塗りつぶされたラップを先端に付けた懐中電灯、そして3枚の紙にデスクライトが置かれていた。
「ママゴト、ではないんだよな」
「分かりやすい例は大体子供の知育玩具で表現できるもんなんですよ」
なるほど、子供でも分かるは本当にいい表現だと思う。
「しかしなぁ・・・それは上司を馬鹿にしてるように取れるとも思うんだが」
「状況は緊迫してるからこそボケて忘れないようにしてるんですよ!こっちだって必死なんですから!」
我聞はううむと胸の奥が痛むのを感じながら、沢渡が自分の為に用意してくれたことに感謝する。
「すまないな」
「いえいえ、そろそろ説明しますよ」
「うむ」
「まず原理としてはカセットデッキを人間でやっているようなものです」
「ほう?」
「陣矢君の症状から『特定の日時に起きた行動の再現』ではなく、『昨日の日時に起きた行動の再現』と言うことが分かりました」
「ふむ」
沢渡は二枚の紙にそれぞれ言葉を書く。一枚目には『学校に行く』、二枚目には『休日だから休む』。そしてその上に曜日を書いて、人形を二枚目の紙の上に配置する。
「本来であれば土曜日の行動はこの紙に書かれている通りに動いたとしましょう。しかし、彼はこれが出来なかった」
沢渡は懐中電灯のライトをオンにして、人形を青く照らす。
「この光はスマホのライトだとします。少々大きいですけどこれは目だけの光としてください」
「まあ、それはな」
流石にそのくらいのことは我聞でも理解できたが、話を遮る行為はしない。
「彼は一日の何処かで確実にこの光を浴びていた。彼のスマホの痕跡から彼がインプレゾンビであることは間違いないですから」
(インプレゾンビ?)
我聞はその言葉の意味を一切出来なかったが、とりあえずスマホの症候群とだけ認識して、小さく頷く。
「そして彼は次の日に同じようにスマホを開きますが、厳密には彼はこの段階で『再現』出来る状態ではないです」
「・・・・・・・何故だ」
「スマホはあくまでも仲介なんです。真の目的はとある行動をさせることにあります」
「・・・・・・・・?それはなんだ」
沢渡はデスクライトの電気を付け、人形を照らした。
「太陽光を浴びさせることです」
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
やはり分からない。我聞は首を傾げて、沢渡の顔を覗く。沢渡は困った様子ではなく、軽く頷いて話を続ける。
「太陽光には7つの光があります。赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色あり、この中でも有名なのが紫外線と赤外線ですね」
「ああ、よくお世話になっているもんな」
鑑識にはそこそこ顔を出していた我聞はそこで紫外線で指紋を見つけたり赤外線で色々やっていたことを思い出す。
「この中にもあるのがブルーライトです」
「7色の中に含まれているからな」
「そしてこのブルーライトの効果として『起床後に浴びると体内時計をリセットする』らしいです」
「らしい?」
「ああ、すみません。ちょっと鑑識に連絡出来なかったんでネットで軽く調べました」
「・・・・・・・・・・・・・」
我聞は既に沢渡はアウトなのでは?と判断したが、今の所SNS以外では問題ないようなのであえて口にはしなかった。
「そんな目で見ないでください」
ああ、目は口程に物を言うというのを忘れていた。
「こほん、話を戻すとホルモンとかの活動で夜にブルーライトを見ると人は昼と勘違いしてしまうとかなんとか言われています」
「なるほど・・・・・・いや待て」
そこで我聞は気が付いた。
「『体内時計をリセットする』と言ったのか・・・?」
「はい、そうです」
「リセットする時間とやらはこの場合だと半日程度・・・だよな」
しかし、ここまでの情報を整理するとこの事件の恐ろしさが鮮明になってきた。沢渡は我聞の表情からおおよそ察したことを理解する。
「本来ならばそれで合ってます」
「・・・・・・・・なるほど、つまりお前が言いたいのは」
我聞は口を閉じて思考を整理する。
「ブルーライトこそがこの事件における最大の要因と言うことだな」
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