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少女は普通に少女を演じる

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 「願わくばカメラがいい証拠になってく―――――――――――」
 「うーん、グロッキー」
 私は何度も送られてきた映像を確認する。今日は学校が休みなので駅前のカフェに来ています。
 「ダメだ、フラペチーノの甘さがえぐくて頭回らん。抹茶に甘いもん入れるなんて発想を完全に舐めてたわ。これでよく捕まらないもんだね」
 「何言ってるか分かるようで分からないけど、みやこ、アンタはもう少し自分が女だってこと意識した方がいいよ」
 「そーですよー。頭も良くて顔もいいんだから将来モデルなれば売れますよー」
 「ああ、モデルは身内がなって文句ばっかり言ってるからパスかな」
 まあ本当は友達の波知はじ朽瑚きゅうこちゃんに連れられてきたんだけどね。というかこの私がカフェなんていうものに入るわけがない。ろくすっぽ消費を理解していない阿呆共のせいで起きている低賃金のインフレ(笑)なのだから大人しく家で金を使わないことに限る時期だというのに、コーヒーで500円超えるような店に入って何が楽しいというのだろうか。そんならゲーセンで音ゲーやった方が時間もカロリーもいい具合に消費出来るというものだ。ふん。
 (とは言っても今回の場合はこの方がいいんだけどね)
 こんなことを言っておいてなんだが、カフェに入ることを提案したのは私だ。なにせ、彼女たちとの今日の予定は完全にカモフラージュ。本当の目的は、
 (あれか)
 カメラの男が操られたと言っていた男、それが今、鏡越しの外にいる。ボロいコートにぼさぼさの頭、それに見ただけで不潔そうな汚れた服を着ている。あとなんか左右に揺れてる。
 (なるほど、これはスゴイ)
 男は、もう一度言うが、あからさまに汚い格好をしているのに、周りの人間は何もないようにその横を通り過ぎている。何に見えているのだろうか、スーツを着たサラリーマンだろうか。如何にも自分の来ている服に絶対的な自信を持っている顔をしているブスの姉ちゃんが男にぶつかった。でも姉ちゃんは謝らずに、そのまま出来ているかも怪しいモデル歩き(でいいのかな?)でスタスタと歩いて行った。
 (つまりアレはそこまで不自然な格好をしていないってことか)
 そこで。男は姉ちゃんを引き留めようと手を伸ばした。
 (そりゃあ肩にぶつかっといて謝らないのは失礼だからなぁ)
 などと常識人みたいなことを言ってみたけど、内心はワクワクしている。獲物が罠にかかる様子を見て喜ぶ狩人を映画みたいに客観的に見ている気分だ。
 でも、男は姉ちゃんを引き留めようとはしなかった。
 (え!?なにあの爪!??)
 ヌッと男はコートの中から手を出すと、人差し指だろうか、恐ろしく長い爪が現れた。
 正確には出てきた右手が異様に長いのだ。漫画でよくある骨を伸ばしてリーチを伸ばすとかではなく、ファンタジーでよく見る魔女の長細い手だった。枯れ枝みたいな色をしていれば魔女だと信じれたけど、明らかに肌色をしている。あれは幻覚じゃない、本物だ!
 (うわ、うわ、うわ、うわわわ!!)
 しかも手の、爪だと思っていた部分は爪じゃなかった。光の反射で白く見えていたけど、本当はフルートみたいな変な楽器と先端に刃物が付いてた。遠目でギリギリ分かったけど、至近距離だったら絶対に見分けつくだろうに。なんであの姉ちゃんは気が付かないのだろうか?
 「ねぇ邑、聞いてる?」
 「ん?なにが?」
 鏡に反射している波知が何かを聞いてきた。
 「え、あんた音楽聞いてても聞こえるって耳良すぎじゃない?」
 「違う違う、読唇術だよ。慣れれば小さい唇の動きでも分かる優れもの。どうです、一回習ってみませんか、お嬢さん?」
 「何言ってんじゃ、おのれは」
 視線を再び男の方に戻すと姉ちゃんが膝から崩れ落ちている瞬間が見えた。そしてその首が重力によって落ちて、地面に落ちるスレスレの瞬間に私はギョッと目を見開いてしまった。
 (しまった!?)
 ジャストタイミング、男は丁度こちらを見ていた。けど運は私に味方をしてくれた。
 「キャーッ!!茶虎ぁー!!しかもめっっちゃ可愛いーーー!!」
 目の前に茶虎の野良猫が通り過ぎたのだ。しかも首輪無しの子猫だ、絶滅危惧種だ。
 「ちょ、ちょっと邑!ここカフェだよ!?そんな叫ばないでよ!」
 「だって茶虎だよ?しかも野良!三毛猫ばっかり多いのに野良茶虎!スゴイ、首輪もない!完璧オブ完璧の奇跡でしょ!!」
 「わー本当だー。どこのネコちゃんですかー?あっ、これガラス越しでしたわ」
 チラリと周りを見渡す。視線は痛いけどあの男は私の視界内にはいなかった。スマホの自撮りをONにして、猫を撮るフリをしながら死角もしっかりチェック。問題なし、多分スルーされた。
 「あーんネコちゃんが行っちゃいますー・・・」
 「あーあ、ドンマイ朽瑚。また会える時は会えるよ」
 「そうだよ朽瑚ちゃん!子猫がいるってことは親猫がいるってこと、つまり後々我々はあの猫の親と遭遇して衝撃の結末を迎えるって寸法よ!」
 「そんな・・・あんまりですー・・・!!」
 「いや、どうしてそうなるんだよ。というかそこから来る衝撃の展開って何なんだ・・・」
 「え?それはまあ捕まって三味線になるとか?」
 「容赦ねぇな!?動物愛護団体に捕まるぞ、それ!?」
 「やーん、三味線やーん・・・」
 泣きそうになる朽瑚ちゃんを宥めてから再度店内を確認する。どうやら男が店に入った様子はない。
 (とりあえずおっちゃんに連絡しておこ)
 そう思ってトイレに行くと言おうとした直後、





          窓ガラスにキーッと引っ搔いたような音がした。
 

 
 
 「――――――――!?」
 反射的に後ろを向こうとして、無理矢理口の中の頬肉を強く噛む。ジンジンと、明日絶対に内出血になりそうな痛みを感じながら思考を回す。
 いる、これは確実にいる。これはマズい、ちょっと調子に乗りすぎたのだろうか。猫では流石に誤魔化しきれなかったかぁ・・・と内心で後悔した。もうちょっと迫真の演技が出来るように・・・無理だな。猫が可愛いからする迫真の演技ってなに?論文かけるぞ、そんな内容。それ書けば私もイグノーベル賞ぐらいにはイケる・・・かな。
 (でも、待って)
 そう、いるにはいる。でもなんで二人は気が付かないのか。二人も私が立ち上がったことに対して驚いたような視線を向けてはいる。しかし、後ろにいるはずの男に対しては視線を向けていない感じだ。もし、もしも反応するのであれば波知はツッコむし、朽瑚ちゃんは驚いてのびてしまうだろう。でも、していない。
 (ふーん、なるほどね)
 「あ、ゴメン。ちょっとトイレ。甘さがお腹をグルグル回って下り龍を特殊召喚しそうな勢いになってきた・・・!!フンム・・・」
 「おい、こら!最後の『フンム・・・』いらないからさっさとトイレ行ってこい!朽瑚、ちょっとそこ通してあげて!」
 「ああ、邑さん・・・お大事に・・・」
 「フフフ、朽瑚ちゃん・・・猫と私の腹のことは頼んだぜ・・・」
 「はよ行け」
 トイレに駆け込む瞬間に視界を広げて、男を視界の端に捉えた。やっぱり他の人達を男の存在に気が付いていない。それに加えて、男は爪の刃物を外して窓ガラスを爪で叩いていたのが見えた。
 トイレから戻ってきたら男は消えていた。二人に誰か来店したかを聞いたけど、誰も入っていないという。
 (とりあえず、対策を考えなきゃ)
 おそらく標的にマーキングされている。この事実はさっきの行動から判断できる。
 「うーん・・・」
 これに関しては川辺のおっちゃんだけじゃ対処は難しいだろう。
 「そうだ、別のおっちゃんを頼るか」
 スマホを開いて唯一登録している番号に電話をかける。確か昨日帰ってきたとか言っていたから今はいつものごっこ遊びをしているはず・・・
 「あ、もしもし?元気してる~?アタシアタシ、アタシだよ。もー忘れちゃったのー?」
 「トイレから帰ってきて早々に詐欺電話すんな、邑」
 波知に注意されちゃった。テヘペロ☆
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