高司専務の憂鬱 (完)

白亜凛

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◆恋と雪と

愛ってなに 3

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 酔ってはいても、そんな話をした覚えはある。

 当初の予定ならそこで泉水に恋人役を頼むはずだったのに、香る月を颯天が助けてくれたと聞いたあとなので、複雑な思いを抱えたままぼんやりと話したはずだ。

「あぁ……。まぁ相変わらずよ」
 同窓会があったときとなにひとつ変わっていない。

「この前酔っ払っていたから、あんまり憶えてないんだけど、別れたいのに別れられないんだよな? なんで別れたいんだっけ? 相手も独身なんだろう?」

「うーんまぁ独身だけど。付き合っていても、彼とは結婚できないし」

「なんで?」

 察しの悪い人ではないから、有耶無耶に答えればここで話は終わるはず。
 でもそうせずに正直に話してみる気になったのは、多分ずっと誰かに聞いて欲しかったんだと杏香は思った。

「いいとこのお坊ちゃんなのよ。結婚はどこぞの令嬢とするような人だから、私達には未来がないわけ」
 言葉にすると、状況を再認識できる。

「相手の男がそう言うのか?」
「言われたわけじゃないけど、でもそうなのよ。超がつく御曹司だし」

「もし、彼に結婚してほしいって言われたら? 樋口はどうなんだ?」
「そんなことありえない」

「だから、もしだよ」
「無理よ。上流社会のお付き合いなんて、私はできないもの」
 言いながら、努力家の泉水にはわかってもらえないかな、と思う。

「ふーん。まぁ、わかるけどな。実は俺もさ、こっちにいるとき付き合っていた彼女が、資産家の一人娘だって、後になってわかってさ」

「え、そうなの?」
 同窓会で会ったとき彼は、元カノについて口を濁したが、まさかそんな相手だったとは。

「でさ、彼女の親が、俺が婿になれば、都内に事務所を建ててくれるっていうわけ。もしくは一流の大手事務所に口利きするって」

「うわー、逆玉じゃないの」

「まあな。だけど俺は別に彼女の資産目的で付き合っていたわけじゃないし、当然のように言われてもな、俺だって一人息子だしさ」

 彼の両親なら杏香も知っている。地元で慕われる弁護士のお父さんと、優しいお母さん。彼が田舎に帰って、実家の両親はとても喜んでいると聞いていた。

「大手事務所に入って大企業の顧問弁護士とか俺は興味がない。別に贅沢はしなくていいんだ。父のように、地域の相談窓口みたいな役割をしたい」

「そっか……。彼女はなんて?」

 泉水は小さく微笑んだ。
「彼女が望むのは、都会で生活水準を落とさないキラキラした暮らし」

 通りに目を向ける彼に、どう返していいかわからなかった。

「まぁ色々あって、結局別れたよ。三年も付き合ったんたけどな……」

 三年は長い。一年だってこんなにつらいのに、三年も今のままなんて考えただけでも恐ろしくなる。

「泉水くんもしかして後悔してる? その彼女と別れて」

「いや、後悔はしていない。結果はどうあれ、彼女の気持も聞いたし、自分の気持ちも正直に伝えたし。なんていうか、彼女はさ、私を愛してるならが口癖みたいになって――。思ったわけ、愛ってなんだろうなって」

「それで、愛ってなんだって思ったの?」

 ハハッと泉水は笑う。
「食いつくなぁ」

「ごめんごめん、でも聞きたいんだもん」
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