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◆恋と雪と
愛ってなに 2
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ちょうど目の前におしゃれなカフェがある。そこでいいかと迷わず入った。
通りに向かってガラス張りの店内は明るい。若い女性客が多いが、男性同士の客もいて賑わっている。仕切もなく開放感に溢れていて気分転換にはいい感じだ。
カフェの扉を開けた泉水は、自然な仕草で杏香が入るのを促してくれる。
照れ屋でぶっきらぼうだった少年時代からは想像できない変貌ぶりである。入ってすぐコートを脱いで畳む仕草もスマートだ。
同窓会では私服だったせいか、あまり感じなかったが、そこはビジネススーツのマジックなのだろう。しかも弁護士という職業柄もあってか、スーツの素材もよさそうだし、ビシッと整えた髪といい、全身清潔感にあふれている。
偉大なるコスチューム、ビジネススーツに万歳! などと心ではしゃいでみる。
「かっこいいな樋口。出来るキャリアウーマンって感じだ」
杏香もコートの下にはスーツを着ていた。ブラウンのパンツスーツにパステルピンクのタートルネックリブニット。スーツは颯天が買ってくれたブランド物という仕事モード。
彼ほどではなくても、同窓会のときとはイメージが違うかもしれない。
「あはは、ありがとう。そっくりお返しするわ」
泉水はメニューを開く。杏香は、最初から決めていた。
「決まった?」
「私、オムライス。ここのオムライスとっても美味しいの」
海鮮入りのホワイトソースをまとった絶品なのである。
「じゃあ俺も同じにしよう」
にっこり笑みを浮かべる泉水に素敵な大人の男性になったなぁ、としみじみ思う。
例の作戦はあきらめるしかなかったけれど、彼に恋人のふりをしてもらえたら楽しかったかもしれないな、と、ふと思う。
「もうすぐクリスマスだな」
店内に飾られた大きなクリスマスツリーを、彼は感心したように見上げた。
普段その場所にはなにがあったのか。不思議に思うほど大きくて立派なツリーはキラキラと輝いて、スマートフォンで写真を撮っている客もいる。
でも杏香には、そんな楽しげな気持ちは湧いてこない。むしろ、心が冷えていくようだ。
クリスマスが他人事に感じる理由は、去年の嫌な経験をどこかで引きずっているのかもしれない。
颯天は、誰とどう過ごすのだろう。
「――今年は週末なんだよね、クリスマス。実家に帰って手伝いでもしようかな」
ぼんやりと呟くように杏香は言った。
どうせ年末年始に帰るのだから、そんなにまめに行くこともないが、予定のないクリスマスをひとりで迎えるよりはずっといい。
「クリスマスに手伝いとは、相変わらずいい子だな樋口は。昔から隙きあらば旅館の手伝いしてるもんな」
目を細めて泉水は爽やかに笑う。
「もし帰ってくるなら、あいつのところで飲んでるから来いよ」
「へえ、いいなぁ、よくみんなで会ってるの?」
「みんなっていうわけじゃないが。田舎に帰ってから、ちょくちょく店に行って飲んでるんだ」
制服を着ていた子どもの頃、彼らはいつも一緒だった。教室でふざけあっている懐かしい光景が目に浮かぶ。
ふいに、思い立った。
「私も仕事やめて、帰ろうかな……」
「どうした? 都会に疲れたか?」
「うん。都会に疲れた」
あははと笑った泉水はうんうんと大きくうなずく。
「だよなぁ、俺たち田舎もんにはこの都会は眩しすぎるんだよなぁ。俺も田舎に帰ってホッとしたよ」
昔の彼ならいざしらず、今は都会の人にしか見えない泉水がしみじみ言うのがおかしくて、杏香もあははと笑う。
「泉水くんは全然そんなふうに見えないってば」
「ほんとだって。そういえばその後どうしたんだ? 付き合っているけど別れたい人だっけ?」
(あ……)
同窓会の夜。いい加減酔ったところで恋の話になった。
すでに結婚して子どもがいる人もいたし、二十五歳ともなれば結婚やら恋バナで盛り上がるのは当然だ。
『杏香は好きな人はいないの?』
『付き合ってる人なら、いるといえばいるけど……』
通りに向かってガラス張りの店内は明るい。若い女性客が多いが、男性同士の客もいて賑わっている。仕切もなく開放感に溢れていて気分転換にはいい感じだ。
カフェの扉を開けた泉水は、自然な仕草で杏香が入るのを促してくれる。
照れ屋でぶっきらぼうだった少年時代からは想像できない変貌ぶりである。入ってすぐコートを脱いで畳む仕草もスマートだ。
同窓会では私服だったせいか、あまり感じなかったが、そこはビジネススーツのマジックなのだろう。しかも弁護士という職業柄もあってか、スーツの素材もよさそうだし、ビシッと整えた髪といい、全身清潔感にあふれている。
偉大なるコスチューム、ビジネススーツに万歳! などと心ではしゃいでみる。
「かっこいいな樋口。出来るキャリアウーマンって感じだ」
杏香もコートの下にはスーツを着ていた。ブラウンのパンツスーツにパステルピンクのタートルネックリブニット。スーツは颯天が買ってくれたブランド物という仕事モード。
彼ほどではなくても、同窓会のときとはイメージが違うかもしれない。
「あはは、ありがとう。そっくりお返しするわ」
泉水はメニューを開く。杏香は、最初から決めていた。
「決まった?」
「私、オムライス。ここのオムライスとっても美味しいの」
海鮮入りのホワイトソースをまとった絶品なのである。
「じゃあ俺も同じにしよう」
にっこり笑みを浮かべる泉水に素敵な大人の男性になったなぁ、としみじみ思う。
例の作戦はあきらめるしかなかったけれど、彼に恋人のふりをしてもらえたら楽しかったかもしれないな、と、ふと思う。
「もうすぐクリスマスだな」
店内に飾られた大きなクリスマスツリーを、彼は感心したように見上げた。
普段その場所にはなにがあったのか。不思議に思うほど大きくて立派なツリーはキラキラと輝いて、スマートフォンで写真を撮っている客もいる。
でも杏香には、そんな楽しげな気持ちは湧いてこない。むしろ、心が冷えていくようだ。
クリスマスが他人事に感じる理由は、去年の嫌な経験をどこかで引きずっているのかもしれない。
颯天は、誰とどう過ごすのだろう。
「――今年は週末なんだよね、クリスマス。実家に帰って手伝いでもしようかな」
ぼんやりと呟くように杏香は言った。
どうせ年末年始に帰るのだから、そんなにまめに行くこともないが、予定のないクリスマスをひとりで迎えるよりはずっといい。
「クリスマスに手伝いとは、相変わらずいい子だな樋口は。昔から隙きあらば旅館の手伝いしてるもんな」
目を細めて泉水は爽やかに笑う。
「もし帰ってくるなら、あいつのところで飲んでるから来いよ」
「へえ、いいなぁ、よくみんなで会ってるの?」
「みんなっていうわけじゃないが。田舎に帰ってから、ちょくちょく店に行って飲んでるんだ」
制服を着ていた子どもの頃、彼らはいつも一緒だった。教室でふざけあっている懐かしい光景が目に浮かぶ。
ふいに、思い立った。
「私も仕事やめて、帰ろうかな……」
「どうした? 都会に疲れたか?」
「うん。都会に疲れた」
あははと笑った泉水はうんうんと大きくうなずく。
「だよなぁ、俺たち田舎もんにはこの都会は眩しすぎるんだよなぁ。俺も田舎に帰ってホッとしたよ」
昔の彼ならいざしらず、今は都会の人にしか見えない泉水がしみじみ言うのがおかしくて、杏香もあははと笑う。
「泉水くんは全然そんなふうに見えないってば」
「ほんとだって。そういえばその後どうしたんだ? 付き合っているけど別れたい人だっけ?」
(あ……)
同窓会の夜。いい加減酔ったところで恋の話になった。
すでに結婚して子どもがいる人もいたし、二十五歳ともなれば結婚やら恋バナで盛り上がるのは当然だ。
『杏香は好きな人はいないの?』
『付き合ってる人なら、いるといえばいるけど……』
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