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◆新しい恋をしましょう
社内恋愛の掟 8
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「営業の志水だよな?」
ハッとして目を剥いた。まださっきの事件は続いているのか。
「ち、ちが! な、なんでもありません。な、なにもないです、か、彼とは」
「彼?」
もはや鬼だ。いや悪魔かもしれないと本気で思う。
「あ、いえ、し、志水さんとは偶然、倉庫で。ちょっと手伝っていただけで」
「へえー、あのままあそこでなにかしそうに見えたけどな」
「あれはっ! あ、あれは、なんか、でも私は別に」
あの場に颯天が現れなければ、もしかしたらなにかが起きたからもしれないが。いざとなれば股間を蹴り飛ばしてでも逃げたはず。少なくとも自分は被害者で、彼に責められるのはおかしい。
むくむくと湧き上がる不満に頬を膨らませた。
「ああいう事はよくあるのか?」
「えっと……? ああいうこと?」
誘われる経験ならあるにはあるが。
「男に犯されそうになること」
驚きすぎてソファーから腰を浮かせた。
「ちっ、ちょっと! な、なんてこと言うんですか! あるわけじゃないですかっ! 会社ですよ? ここ」
犯そうとしたのは自分でしょうにと睨み返す。
「それより専務、さ、さっきのは、な、なんですかっ! セクハラどころの騒ぎじゃないですよっ」
訴えてやるぞ! と心で叫ぶ。
本当に訴えてやりたい。
「お前は俺の女だからいいんだよ」
「――へ?」
心臓が、いや、時間が一瞬止まったと思う。
そして、耳を疑った。今彼は何と言ったのだろう?
(――オマエハ、オレノ、オンナダカライインダヨ? は?)
「ふ、ふざけないでください!」
「ふざけてねぇーし」
(あ――。ひ、ひらきなおった)
背もたれに大きく両手を伸ばした颯天は、つーんと横を向く。
「……」
開いた口がふさがらないが、とにかく、いつまでもこうしてここにいるわけにはいかない。何カ月もかけてようやくこの男の呪縛から逃げ出すことができたのだ。俺の女だのなんだという言葉は聞かなかったことにしようと決める。
視線を落とした杏香は、ふぅーっと息を吐いた気持ちを落ちつかせた。
あくまでも専務と平社員。その関係を貫かなければ。
「わざわざ総務まで、すみませんでした。どのようなご用件だったのですか?」
なのに――。
「忘れた」
横を向いたまま、ふん、と、不貞腐れたように彼は言う。
「は?」
しれーっとして、杏香が置いたレポート用紙に手を伸ばした颯天はパラパラと捲りはじめた。
「あ、あのですね。専務がなんの用事だったのか、わ、私は席に戻ったら報告しなくちゃいけないんですっ! 真面目に答えてください」
「おい、真面目に仕事の話をしに行ったのに、チャラチャラと男とイチャついてたのは、どっちだ。え?」
眉をひそめて睨むその目は、どうみても本気で怒っている。
ふざけているとは到底思えないド迫力の怒りの目だ。
「だ、だから、それは……も、もういいです。思い出したら内線電話で言ってください」
恐怖が半分、いたたまれなさ半分。とにかく早くここから出たい一心で、杏香はすっくと立ち上がって、大股で扉に向かって歩いた。
「杏香、俺は許さないからな。よく覚えておけ」
その言葉と一緒に突き刺さるような視線を背中に感じながら、扉を開けて廊下へ出て、一目散にエレベーターに向かう。
ここは会社で人が沢山いて、彼も追ってはこないとはわかっているが、それでもとにかく逃げた。
ハッとして目を剥いた。まださっきの事件は続いているのか。
「ち、ちが! な、なんでもありません。な、なにもないです、か、彼とは」
「彼?」
もはや鬼だ。いや悪魔かもしれないと本気で思う。
「あ、いえ、し、志水さんとは偶然、倉庫で。ちょっと手伝っていただけで」
「へえー、あのままあそこでなにかしそうに見えたけどな」
「あれはっ! あ、あれは、なんか、でも私は別に」
あの場に颯天が現れなければ、もしかしたらなにかが起きたからもしれないが。いざとなれば股間を蹴り飛ばしてでも逃げたはず。少なくとも自分は被害者で、彼に責められるのはおかしい。
むくむくと湧き上がる不満に頬を膨らませた。
「ああいう事はよくあるのか?」
「えっと……? ああいうこと?」
誘われる経験ならあるにはあるが。
「男に犯されそうになること」
驚きすぎてソファーから腰を浮かせた。
「ちっ、ちょっと! な、なんてこと言うんですか! あるわけじゃないですかっ! 会社ですよ? ここ」
犯そうとしたのは自分でしょうにと睨み返す。
「それより専務、さ、さっきのは、な、なんですかっ! セクハラどころの騒ぎじゃないですよっ」
訴えてやるぞ! と心で叫ぶ。
本当に訴えてやりたい。
「お前は俺の女だからいいんだよ」
「――へ?」
心臓が、いや、時間が一瞬止まったと思う。
そして、耳を疑った。今彼は何と言ったのだろう?
(――オマエハ、オレノ、オンナダカライインダヨ? は?)
「ふ、ふざけないでください!」
「ふざけてねぇーし」
(あ――。ひ、ひらきなおった)
背もたれに大きく両手を伸ばした颯天は、つーんと横を向く。
「……」
開いた口がふさがらないが、とにかく、いつまでもこうしてここにいるわけにはいかない。何カ月もかけてようやくこの男の呪縛から逃げ出すことができたのだ。俺の女だのなんだという言葉は聞かなかったことにしようと決める。
視線を落とした杏香は、ふぅーっと息を吐いた気持ちを落ちつかせた。
あくまでも専務と平社員。その関係を貫かなければ。
「わざわざ総務まで、すみませんでした。どのようなご用件だったのですか?」
なのに――。
「忘れた」
横を向いたまま、ふん、と、不貞腐れたように彼は言う。
「は?」
しれーっとして、杏香が置いたレポート用紙に手を伸ばした颯天はパラパラと捲りはじめた。
「あ、あのですね。専務がなんの用事だったのか、わ、私は席に戻ったら報告しなくちゃいけないんですっ! 真面目に答えてください」
「おい、真面目に仕事の話をしに行ったのに、チャラチャラと男とイチャついてたのは、どっちだ。え?」
眉をひそめて睨むその目は、どうみても本気で怒っている。
ふざけているとは到底思えないド迫力の怒りの目だ。
「だ、だから、それは……も、もういいです。思い出したら内線電話で言ってください」
恐怖が半分、いたたまれなさ半分。とにかく早くここから出たい一心で、杏香はすっくと立ち上がって、大股で扉に向かって歩いた。
「杏香、俺は許さないからな。よく覚えておけ」
その言葉と一緒に突き刺さるような視線を背中に感じながら、扉を開けて廊下へ出て、一目散にエレベーターに向かう。
ここは会社で人が沢山いて、彼も追ってはこないとはわかっているが、それでもとにかく逃げた。
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