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5.パンドラの箱
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予定通りの時間に龍崎専務は現れた。
レジ前に立つ専務は、まだ私に気づかない。
会計を済ませてようやく振り返った専務は、私を見た途端に破顔した。
「おっ、いいな」
専務の服装はネクタイとポケットチーフ、シャツもパーティっぽく変わっている。髪型は、ヴァンパイアのあの夜のようにオールバックだ。
ああもう、なんてかっこいいんだろう。
ハロウィンの夜の情熱的なキスを思い出して胸が熱くなる。ドキドキし過ぎて目眩がしそう。
「よく、似合ってる」
うんうんとうなずきながら、専務は私を横から後からチェックする。
こんな高級なドレスを着るのは生まれてはじめてだ。
友達の結婚式に着ていくよそいきのワンピースとは根本的に違う。触り心地もデザインも、これが本物なんだよと、私の知らなかった世界を教えてくれるよう。
「いいな、大人っぽくて、素敵だ」
にっこり微笑みながらそんなことを言われると、どうしていいのかわからなくなる。
「ありがとうございます」
俯く私の頬は、真っ赤だろう。
専務の指先が、私の左手に触れたと思ったら――。
薬指にはめられたのは指輪。
小さなダイヤモンドが並んだプラチナリングは、ただ輪になっているだけじゃなくて少しV字型になっていて、とっても綺麗だ。
結婚指輪?
「これでお前は俺の妻だ」
トクンと心臓が跳ねた。
俺の妻と、心を縛るように専務のバリトンボイスが声が木霊する。
「そしてこれは俺からのプレゼント。今日のお礼に」
手をとって載せてくれた紺色のケースには宝石が輝くイヤーカフが入っていた。
「ピアス開けてないようだからな、これならいいかと思ってね」
「あ、ありがとうございます」
ああもう、うれしくて泣きそうだ。
うっかり涙を流したら化粧が崩れてしまう。これは任務なのだと自分に言い聞かせながら、さっそく鏡を覗いて込みイヤーカフをつけた。
耳たぶに沿う花びらと、細い鎖が雫のような素敵なデザイン。片方の耳だけが出るように髪をセットされたのはこういう理由があったのかと、あらためて感動する。
「このあたりに付けボクロ、つくてくれる?」
「はい。わかりました」
専務からの要望で口元に付けボクロが追加された。
「どうですか?」
「あはは、いいねぇ。うん、いいよ」
すっかり気に入ったらしい。鏡を覗くと、ちょっと色っぽくなった仮の妻が恥ずかしそうに微笑んでいた。
少しかがんで私に顔を並べた専務が、鏡の中の〝妻〟に言う。
「内縁の妻ってことにするぞ」
「内縁?」
「そうだ。俺は正式に入籍したいのに、お前はなかなかうんと言ってくれない。困った女だ」
すでに演技に入っているらしく、耳もとにキスをする。
という、設定なのですね。
わかっていても切ない想いが込み上げる。
龍崎専務、お願いだからそれ以上私を誘惑しないでください……。
レジ前に立つ専務は、まだ私に気づかない。
会計を済ませてようやく振り返った専務は、私を見た途端に破顔した。
「おっ、いいな」
専務の服装はネクタイとポケットチーフ、シャツもパーティっぽく変わっている。髪型は、ヴァンパイアのあの夜のようにオールバックだ。
ああもう、なんてかっこいいんだろう。
ハロウィンの夜の情熱的なキスを思い出して胸が熱くなる。ドキドキし過ぎて目眩がしそう。
「よく、似合ってる」
うんうんとうなずきながら、専務は私を横から後からチェックする。
こんな高級なドレスを着るのは生まれてはじめてだ。
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「いいな、大人っぽくて、素敵だ」
にっこり微笑みながらそんなことを言われると、どうしていいのかわからなくなる。
「ありがとうございます」
俯く私の頬は、真っ赤だろう。
専務の指先が、私の左手に触れたと思ったら――。
薬指にはめられたのは指輪。
小さなダイヤモンドが並んだプラチナリングは、ただ輪になっているだけじゃなくて少しV字型になっていて、とっても綺麗だ。
結婚指輪?
「これでお前は俺の妻だ」
トクンと心臓が跳ねた。
俺の妻と、心を縛るように専務のバリトンボイスが声が木霊する。
「そしてこれは俺からのプレゼント。今日のお礼に」
手をとって載せてくれた紺色のケースには宝石が輝くイヤーカフが入っていた。
「ピアス開けてないようだからな、これならいいかと思ってね」
「あ、ありがとうございます」
ああもう、うれしくて泣きそうだ。
うっかり涙を流したら化粧が崩れてしまう。これは任務なのだと自分に言い聞かせながら、さっそく鏡を覗いて込みイヤーカフをつけた。
耳たぶに沿う花びらと、細い鎖が雫のような素敵なデザイン。片方の耳だけが出るように髪をセットされたのはこういう理由があったのかと、あらためて感動する。
「このあたりに付けボクロ、つくてくれる?」
「はい。わかりました」
専務からの要望で口元に付けボクロが追加された。
「どうですか?」
「あはは、いいねぇ。うん、いいよ」
すっかり気に入ったらしい。鏡を覗くと、ちょっと色っぽくなった仮の妻が恥ずかしそうに微笑んでいた。
少しかがんで私に顔を並べた専務が、鏡の中の〝妻〟に言う。
「内縁の妻ってことにするぞ」
「内縁?」
「そうだ。俺は正式に入籍したいのに、お前はなかなかうんと言ってくれない。困った女だ」
すでに演技に入っているらしく、耳もとにキスをする。
という、設定なのですね。
わかっていても切ない想いが込み上げる。
龍崎専務、お願いだからそれ以上私を誘惑しないでください……。
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