薔薇と少年

白亜凛

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◆ふたりの警察官

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「この薔薇は本物ですかー?」
 年かさの警察官が声を張り上げた。
「ブリザーブドフラワーというらしいです」
 右崎も少しだけ声を大きくして答える。
「本物といえば本物なのでしょうが、加工された花ですね」
「へえ、そうですか。よく出来てるもんですなぁ。まるで生きている花みたいだ」
 ひとしきり感心した年かさの警察官は、ポケットからなにかを取り出しながら戻ってきて、「実は」と話を切り出した。

「倒れていた男性が昨日の夕方、通りの先にある花屋でこういう花束を買ったらしいんです」
 差し出された写真を見ると、薔薇の花束が写っていた。
 十本くらいだろうか。深紅の薔薇だけを包み込んでいる花束だ。ブーケのように開いて包んではおらず、まだほとんど蕾の薔薇を丈が長いまま包んである。

「ところが、男性は発見されたとき、その花束を持っていなかったのですよ。昨日の夕方から深夜にかけて、こんな花束を持った人を見かけてはいないですか?」

 右崎は写真を見つめたまま腕を組み「なにしろずっと店の中にいますのでね」と、肯定も否定もしなかった。

 うなづいた警察官は、別の写真を右崎とアキラにそれぞれ見せる。
「では、こういう制服の学生は? この辺りではよく見かけますか」

 これにも右崎はうやむやに答えた。
「うちは制服で来るお客さまはいらっしゃいません。夜だけのバーですから」

 首を傾げた年かさの警察官は、右崎を見つめる目を意味深に細めたが、次の瞬間には弾けたようにハハッと笑う。
「そうですよね。お忙しいところすみませんでした」
 なにか気づいたことがあれば、すぐそこの交番でもかまいませんので連絡してくださいと軽く頭を下げて、ふたりの警察官は店を出ていった。

 アキラがなにか言いたげに振り返ったが、右崎はサラダ用の玉ねぎのみじん切りに勤しみはじめる。
 現在開店二分前。警察官の話は気になるが開店時間は待ってくれない。アキラも賄いの皿を片付け、右崎が仕込みで使ったシンク内の鍋や皿を洗い始めた。

(それにしても……)
 よりによって薔薇と制服の少年か――。
 トントントンまな板を叩きながら、右崎は「まさか、な」と口内でひとりごちる。
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