薔薇と少年

白亜凛

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◆ふたりの警察官

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「え、殺人事件ですか?」
 聞き違いと思ったのか、右崎がおうむ返しに聞いた。
 驚くのも無理はない。空き巣か痴漢なら耳にするが、この辺りはそれほど治安が悪いわけじゃない。まさか殺人があるとは思わなかったのだろう。

 驚いたのは右崎だけじゃない。
 カウンターの内側で隠れるように座っていたアキラは、ロールキャベツの最後のひと口を飲み込むと同時にゲホゲホと咳き込んだ。

 右崎と警察官ふたりはアキラを振り返った。
 制服の男は若く、くたびれたスーツの男はあと数年で定年を迎えそうなふたり組の警察官である。
 六つの目に見つめられたアキラは、グラスの水を口に含みゴクゴクと飲み干して、大きく息を吐き、「はぁー、びっくりした」とひとりごちる。
 
「息子さんですか?」
 そう聞かれて、右崎の口もとに浮かんだのは苦笑いだ。
「いえ、彼はこの店のアルバイトです」
 アキラは立ち上がり、顎を前に出すようにしてひょこっと頭を下げた。
「どーも、ごくろうさまです」
 その仕草はいかにも今どきの若者らしい。
 社会人では通用しないかもしれないが、少年らしさが残るアキラがそうすると人懐っこい可愛さが引き立って、むしろ好感がもてた。

「そうでしたか、それは失礼」
 年かさの警察官が失言を誤魔化すように顔を歪め、ポリポリと頭を掻き、言い訳がましく言葉を添えた。
「よく似ていらっしゃるので」

 右崎は眉をひそめ、アキラを振り返った。
 おどけたように肩をすくめる彼は、アッシュグレーの髪を今どきの若者らしくふわふわと毛先を飛ばし、意志が強そうに輝く瞳はアーモンド型で目尻がわずかに釣り上がっている。
 対して右崎は直毛の黒髪を乱れなく後ろに流し、目は真横に伸びる切れ長だ。
 四十半ばの年齢であるし、父親に見られても仕方がないとしつつも、右崎自身は親子と言われるほど似ているとは思えない。

「おふたりとも鼻梁が高く、鼻筋が通りすっきりとした顔立ちの美形ですのでね。そうして並ばれるとなおさらだ。バーテンのユニフォームがとてもよく似合っていらっしゃる」
 
 今度は具体的に言われて、右崎は再びアキラに視線を向ける。
 バーテンのユニフォームがよく似合うと右崎自身もよく言われるが、ここのバイトは皆ほとんど右崎と似たり寄ったりの体型だ。
 それはアキラも同じである。スマートな体型であるし、プレスされた真っ白シャツに臙脂のネクタイをして黒いベストにギャルソンエプロンというユニフォームがとてもよく似合っている。
 なるほどと思ったのは鼻だ。
 そうか、鼻が似ているのか?と思いながら己が鼻に手をあてると、アキラと目が合った。アキラも同じように思いながら観察していたのかもしれない。自分の鼻を指先で摘んで首を傾げる。
 照れ隠しなのか右崎は咳払いをして警察官に視線を戻した。
 
「我々とは似ても似つかない」
 ハハッと年嵩の警察官が笑う。
 なるほど彼はがっしりとした体型で、顔は角張り武骨な風貌である。若いほうはころころとよく太り、目が線のように細かった。
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