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私の心ズタズタになっちゃうぞ!!
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街中を歩く。目的地は草原だ。リザードマンを倒さないといけない。数は5匹。順調に相手が見つかりさえすれば、すぐに帰って来られて、今日1日をそんなに不自由なく過ごせるだけの報酬も貰えるだろう。
「リザードマンを5匹……そんなに大変じゃなさそうだね、先生」
「……なんだその先生ってのは」
「えー? だって、なんだかんだ一緒に行かせてくれてるじゃん? これはもう、私を生徒にする気になったってことだよね、先生」
「先生じゃない。そんなのになったつもりなんか無いぞ。それに、リザードマン5匹が簡単だのなんだの……素人が偉そうなことを言ってるんじゃない」
冒険者志望なんです! と言う割には、シルスはちゃんとした造りをしているロングソードを持っていた。自分で買ったのか、誰かに譲ってもらったのか分からないが、ユーレンの持つ店売りの剣よりも上等なものだ。
このシルベルスの城下町に住んでいると言っていたが、だいぶ財力に余裕のある家に住んでいるんだろうか。人口は45万人程度いるのだが、16歳の女の子にこの剣をプレゼント出来る家がどれだけあるのだろうか。まさか自分で買ったわけでもあるまいし。
「えー? さっきのアレ、私が冒険者として大成するように連れてってあげるよって事なんじゃないの? あの……ほら、なんだっけ。つんでれ? ってやつだよ!」
「誰がツンデレだ、誰が。無理に異世界伝いの言葉を使わなくって良いし、誤解しないように言っておくけど、シルスの先生をやるつもりは全くない」
「ええーーっ!?」
「大体、冒険者したい理由もそうだけど、なんで俺なんだ? 他にもいるだろ」
「え? 有名だからでしょ、そんなの」
そんなものだろうとは思っていたけど、もう少しこう、ほとばしる情熱というか、こだわりというか、強い衝動というか、感情的な理由が欲しかったところだ。ただ有名だから選びました、というのは愛想ひとつ感じられない。
「スター・ライトのユーレン。シルベルス王国で先生にするなら、これ以上ないでしょ」
「──久々に聞いたな、その二つ名」
「え? そう? 他に何かあったっけ? スター・ライト以外に」
「無いけどさ。魔法の力がなくなってから、二つ名で呼ばれた事なんて無いからな」
ここ半年ほど、そんな風に呼ばれた記憶が無い。半年前に聞いたのだって、元々の二つ名に込められた尊敬の念は飛んでいて、あくまで侮蔑するような、見下すような、皮肉めいたような言い方だった。今のにはそれはなく、ただ純粋に言ってたように聞こえる。
「──最近、この国にセイクリッド・ギアのリーダーとエースが来ているらしいぞ」
「へぇ、何の用事で? アイシクル・ヴァリアントが来てるって事は、強い魔物でも出没したか?」
隣を通るときに、そんな冒険者の会話が聞こえる。セイクリッド・ギア。この国で最も有名で、最も実績を残しているチームの名前だ。アイシクル・ヴァリアントはそのチームに所属するエースのことだ。本名ではなく、二つ名だが。
ユーレンの記憶が正しければ、セイクリッド・ギアは今、この国の北にあるイオニウム家の領地に出没したドラゴン討伐をしていたはずだ。
「同じ二つ名付きでも、俺じゃなくて、ああいう有名な人に頼んでみれば良かったじゃないか」
「ん? 二つ名付きって? 今の人たちのお話に出てた?」
「アイシクル・ヴァリアントだよ。知らないのか? ここ半年で一気に名前が売れたじゃないか。新しい勇者の誕生だ! ってな。歳は……確かシルスと同じだったはずだけど」
「なにそれ? 私その人、知らないや。だから却下」
さも当然のように言う。
出会った時、シルスはこの城下町に住んでいると言っていはずだ。冒険者ではなかったとしても、アイシクル・ヴァリアントのように大活躍をしている人物の話題を耳にする事は必ずあるはずだ。スター・ライトは知っていて、アイシクル・ヴァリアントを知らないのは納得がいかない。ただ、彼女が嘘をついている様子はない。何とも不思議だ。
「少しは調べてから先生を選べば良いのに。きょうび、スター・ライトなんて二つ名は何の役にも立たないよ」
「調べましたよーだ。──16歳の子を指導するのはそんなご不満ですか?」
ほれほれ~、なんて言いながらシルスはユーレンの目の前でわざとらしくポーズを取ってみせる。力こぶなんて出せないくせに、顔を赤くして腕まくりしてムン! なんて言われても反応に困ってしまう。
「ど、どーよ。私の無敵ぱわー。将来有望でしょ……っ!」
「……ちっ」
「あ。舌打ちした! 傷つくぞ! 初対面なのに、私の心ズタズタになっちゃうぞ!!」
うわーめんどくさ、と返すのはやめておいた。今よりもっと騒ぎ出すのは、ちょっと話しただけでも目に見えてる。朝の早くから良く知らない人にこんな風に絡まれるのは、いくら相手が可愛かったり綺麗だったりしても疲れてしまう。舌打ちくらい許して欲しい。
ほんの少しの同情心、気の紛れ、後は、退屈しない為。ただそれだけで連れて来ただけなのに、もう後悔し始めていた。生徒にするなんてとんでもない。
「リザードマンを5匹……そんなに大変じゃなさそうだね、先生」
「……なんだその先生ってのは」
「えー? だって、なんだかんだ一緒に行かせてくれてるじゃん? これはもう、私を生徒にする気になったってことだよね、先生」
「先生じゃない。そんなのになったつもりなんか無いぞ。それに、リザードマン5匹が簡単だのなんだの……素人が偉そうなことを言ってるんじゃない」
冒険者志望なんです! と言う割には、シルスはちゃんとした造りをしているロングソードを持っていた。自分で買ったのか、誰かに譲ってもらったのか分からないが、ユーレンの持つ店売りの剣よりも上等なものだ。
このシルベルスの城下町に住んでいると言っていたが、だいぶ財力に余裕のある家に住んでいるんだろうか。人口は45万人程度いるのだが、16歳の女の子にこの剣をプレゼント出来る家がどれだけあるのだろうか。まさか自分で買ったわけでもあるまいし。
「えー? さっきのアレ、私が冒険者として大成するように連れてってあげるよって事なんじゃないの? あの……ほら、なんだっけ。つんでれ? ってやつだよ!」
「誰がツンデレだ、誰が。無理に異世界伝いの言葉を使わなくって良いし、誤解しないように言っておくけど、シルスの先生をやるつもりは全くない」
「ええーーっ!?」
「大体、冒険者したい理由もそうだけど、なんで俺なんだ? 他にもいるだろ」
「え? 有名だからでしょ、そんなの」
そんなものだろうとは思っていたけど、もう少しこう、ほとばしる情熱というか、こだわりというか、強い衝動というか、感情的な理由が欲しかったところだ。ただ有名だから選びました、というのは愛想ひとつ感じられない。
「スター・ライトのユーレン。シルベルス王国で先生にするなら、これ以上ないでしょ」
「──久々に聞いたな、その二つ名」
「え? そう? 他に何かあったっけ? スター・ライト以外に」
「無いけどさ。魔法の力がなくなってから、二つ名で呼ばれた事なんて無いからな」
ここ半年ほど、そんな風に呼ばれた記憶が無い。半年前に聞いたのだって、元々の二つ名に込められた尊敬の念は飛んでいて、あくまで侮蔑するような、見下すような、皮肉めいたような言い方だった。今のにはそれはなく、ただ純粋に言ってたように聞こえる。
「──最近、この国にセイクリッド・ギアのリーダーとエースが来ているらしいぞ」
「へぇ、何の用事で? アイシクル・ヴァリアントが来てるって事は、強い魔物でも出没したか?」
隣を通るときに、そんな冒険者の会話が聞こえる。セイクリッド・ギア。この国で最も有名で、最も実績を残しているチームの名前だ。アイシクル・ヴァリアントはそのチームに所属するエースのことだ。本名ではなく、二つ名だが。
ユーレンの記憶が正しければ、セイクリッド・ギアは今、この国の北にあるイオニウム家の領地に出没したドラゴン討伐をしていたはずだ。
「同じ二つ名付きでも、俺じゃなくて、ああいう有名な人に頼んでみれば良かったじゃないか」
「ん? 二つ名付きって? 今の人たちのお話に出てた?」
「アイシクル・ヴァリアントだよ。知らないのか? ここ半年で一気に名前が売れたじゃないか。新しい勇者の誕生だ! ってな。歳は……確かシルスと同じだったはずだけど」
「なにそれ? 私その人、知らないや。だから却下」
さも当然のように言う。
出会った時、シルスはこの城下町に住んでいると言っていはずだ。冒険者ではなかったとしても、アイシクル・ヴァリアントのように大活躍をしている人物の話題を耳にする事は必ずあるはずだ。スター・ライトは知っていて、アイシクル・ヴァリアントを知らないのは納得がいかない。ただ、彼女が嘘をついている様子はない。何とも不思議だ。
「少しは調べてから先生を選べば良いのに。きょうび、スター・ライトなんて二つ名は何の役にも立たないよ」
「調べましたよーだ。──16歳の子を指導するのはそんなご不満ですか?」
ほれほれ~、なんて言いながらシルスはユーレンの目の前でわざとらしくポーズを取ってみせる。力こぶなんて出せないくせに、顔を赤くして腕まくりしてムン! なんて言われても反応に困ってしまう。
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