音よ届け

古明地 蓮

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目標への道と...

やるべきこと

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あの後、僕たちは水上さんとの交流を深めるために、いろんな演奏を行った。
水上さんは、どんな曲にでも、盛り上がりをうまく作る演奏をしてくれる。
ギターとボーカルという二大仕事をしている諒一の負担も減るような気がする。
でも、僕らにはあのイベントまでの時間が限られていることも、頭の隅に残しておかなければいけなかった。

次の日の部活の時間
僕らは真っ先に部室に行くと、ホワイトボードを取り出した。
約五カ月ぶりに姿を現したホワイトボードは、埃をかぶっていた。
前回使ったあの時から、それだけの時間がたってしまったんだ。

「このホワイトボード、久しぶりに見たね」

と、山縣がホワイトボードを拭きながら言った。
いつになく感慨深げに、諒一が答えた。

「これを最後に使ったのは、冬のコンクールの時だからね
 あれからもうそんなに経ったんだなぁ」

僕ら軽音部が目指している目標の一つとして、冬のコンクールがある。
一年生でも、冬のころになると少しは形になってくるんだ。
あの頃の僕らと言えば、

「まだ冬コンの準備の時は、全然ダメだったよね
 ドラムはリズム崩すし、ベースは緊張して音が震えるし」

まあ、こんな感じだった。
まだ全然練習してなかったから、うまくいくはずもなかった。
それでも、数カ月の練習で、それなりにうまくなった。
そのこともあって、それなりの自信が持てるようになった。

そして、今回これが出た理由は、

「去年は出られなかったからね
 今年こそ頑張ろう、文化祭!!」

学生の楽しみの行事の一つ
文化祭だ
クラスの出し物だけでなく、部活や仲間内で発表する人もいる。
文化祭の時にしか活動しない部活さえあるほど、大事な行事なんだ。

諒一は、ホワイトボードにでかでかと

「文化祭」

と書き込んだ。
それから、作曲担当とかほかのバンドとの調整役を決めようとした。
でも、いったんその手を止めて、近くにあった紙に何かを書き込んで水上さんに渡した。

「うちの文化祭って見たことある?」

そういえば、水上さんってどこから来たのか分かっていない。
うちの文化祭とかも、見たことあれば説明しやすいんだけど、そうじゃない可能性も高そう。
水上さんは、軽くペンを走らせると、諒一にその紙を返した。

「去年見に来たよ
 軽音もチラッとだけ見たよ」

と書いてあった。
おかげで、あんまり説明する必要はなさそうだ。
なんせ、うちの文化祭は少し特殊な時期に行われる。

「あと三カ月に迫った文化祭に向けて、色々決めていこう」

諒一は、水上さんにもわかるようにと配慮して、紙に書いて見せた。

うちの文化祭は、何故か七月に行われるんだ。
理由は、ちゃんとは分かっていなくて、毎回いろんな憶測が飛び交う。
秋にやるよりも、ほかの学校と重なりにくいとか、うちみたいな部活の三年生が、夏で部活を引退できるとか。
まあ、一番有力だと思うのは、秋に体育祭を写して、熱中症を減らすことだと思う。
それに、一年生にとっては、入学してすぐに文化祭純部に入ると、いろんな人の個性が分かって、その後が楽になる。

どんな理由にしても、夏に行われる文化祭に向けて、もうすぐにでもスタートを切る必要があった。
今回の分担は、主に三つだった。

作曲者
調整役
宣伝役

普通のバンドだったら、全部に二人ずつとか配分できるのかもしれないけど、残念ながらうちはそうはいかない。
多分うちの分け方は、2,1,1になると思う。
諒一は、ちゃんと空気を読んで水上さんに最初に聞いた。
水上さんは、

「私は作曲したい」

と返事をした。
水上さん以外全員は、その回答で安心した。
他の役割は、会議があったり、集客として声を出さなければいけないので、声が出せないと難しい。
それに、あれだけの演奏ができる人に作曲してもらえるのは、うれしいことだ。

その後、僕と山縣と諒一の三人の分担を決めることになったんだけど、これはもう決まったようなものだった。
諒一は、僕らの顔を見ると、ホワイトボードの一段目、作曲者のところに自分の名前を無言でつけ足した。
ギターのように、コードを使える人が作曲してくれれば、いい感じのコード進行ができる。
それから、僕と山縣は、どっちがやりたいか聞き合った。
山縣は、

「僕は調整役がやりたい」

と申し出た。
もちろん、僕はそれでいいと答えて、僕が宣伝役をやることに決まった。
それから、僕らはとある場所に向かうことにした。
そのために、すべての荷物をもって学校を出た。

それは、僕らのためだけの練習場であり、作曲場であり、団らんできる場所。
前にも行った僕の家だ。
僕の家なら、いつだってなんだってできる場所。
まるで、昔求めていた研究室のような場所なんだ。

水上さんのことを考えて、ゆっくり僕の家に向かった。
この時間帯の電車に、人は全然乗っていない。
まだ本来なら、自分の仕事に熱中するべき時間帯だから。

僕らが部活の時間も僕の家に行くのは、周りにも僕らにもメリットしかないことなんだ。
他の軽音部のメンバーが活動できる時間も増えるし、僕らも練習したり作曲したりできる。
バンドごとに活動場所を遣える時間に制限があるから、その時間を譲っているんだ。

学校の教材などが入ったかばんは、始業式から間もないからか軽かった。
ふと周囲から自分たちがどう見えているか考えてみる。
それは、僕が僕の高校時代に求めていた姿かもしれない。

でも、なんで僕だけこんな目に合うんだよ。
神様は僕のことが嫌いなんだろうな。
願いをかなえないどころか、夢だけ持たせてさ。

僕の家に着くと、諒一と山縣はとりあえずいつもの部屋に荷物だけ置いてきた。
僕は、これからも使うだろうから、水上さんに軽く案内してあげた。
今回は、いつもは使わない部屋も使うことになるし、教えなきゃいけないことがたくさんある。

まずは、お手洗いやリビングの基本的な部屋。
次に、僕たちが練習で使う用の防音設備のある部屋。
そして、今回のような場合にしか使わない部屋に来た。
それは、大きくて暗い箱とモニターが置いてある部屋。

水上さんに、その部屋について教えようと思っていたら、諒一が来た。

「ひっさしぶりに秦野のパソコン使うな~
 こんな時にしか使えないから、なんとなく楽しみなんだよね」

今の僕らには、あんまり時間がない。
その中で作曲をしなきゃいけない。
しかし、今の時代なら作曲を楽にする武器がある。
それが、パソコンを使うやり方だ。

パソコンのソフトひとつで、楽譜を作ったり、その音を軽く演奏させることができる。
いちいちキーボードで弾いたり、ギターでコードの進行を確かめる必要もない。
これのおかげで僕らの作曲作業はかなり楽になったんだ。
だけど

「まあ、あとは俺らに任せといてよ
 秦野と山縣は、ポスターとか作っといて」

そうなると、この二人だけで作曲することになるんだ。
結果として、僕た山縣は別の部屋に追い出されることになる。
音楽の核心の部分のはずなのに、二人に任せちゃうのもどうかと思っちゃうけど、こればっかりはどうにもできない。
だから、結局僕と山縣は、僕の部屋に戻ることにした。

僕の部屋に入ると、僕は山縣の顔も見ずに自分のパソコンを点けた。
向こうの部屋に置いてあるのは、作曲専用なので日常用には使えない。
これから僕がやることは、ポスター作りだ。

パソコンを点けると、横から山縣がモニターを見ているのが分かった。

「秦野は何するの?」

「ポスター作りをしちゃおうと思ってね
 一応宣伝係だし」

と言って、画像編集ソフトを立ち上げた。
ポスター作りなんて、全然得意なことじゃないけど、ある程度はできるもんだ。
何せ、去年の先輩が作ったのを軽く子手入れするだけでも最悪できるんだし。

結局一時間ぐらいの間、山縣とあーだこーだ言い合いながらそれなりのポスターを作った。
見た目だけで音楽のものだとわかるように工夫しながら、僕ららしさを取り入れた。
宣伝役の仕事の半分は終わりを告げた。

残りの半分は成し遂げられるんだろうか。
いや、成し遂げなきゃいけないんだけどさ。
でも僕だからね...
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