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久しぶりの入院生活

明るい入院生活

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次の日も、いつも通りすぎていく。
また、朦朧とした意識の中で考える。
今の僕にできることはなんだろう。
この2日間彼方のことを見てきて、もっと頑張りたくなった。
でも、今の僕は何をしたらいいのだろう。
このまま退院して、高校受験をする。
それで高校に入れたとして、なんの意味があるのだろうか。
あ~もう
朦朧とした意識の中じゃ考えがまとまらない
ずっと、目を向けないできたこと
自分の生きる意味はあるのだろうか?
病人として、薬を飲み、機材を使い、何も出来ずに息絶える。
その事に意味はあるのだろうか
でも、なぜなんだろうか
同じ病人で、僕よりも長くは生きないであろう彼方の方が価値のある命の気がする。
僕らにはどんな相違があるのか
家族がいるかいないか
確かに結構な違いかもしれない
誰かの支えになっているのか
それは、これから暁さんの支えになるつもり
でも、そこなのかもしれない
今の僕じゃダメなんだ
変わらなきゃな

まだ、太陽が真南に見える頃に

「やっほ~」

と、暁さんは入ってきた。

「あれ、今日は早く来れたの?」

「ん
   学校が昼前に終わったからね
   受験前の特別期間だってさ」

「早く学校に行きたいなぁ」
 
「明日退院だってよ
   退院出来て良かったね」

「ホントだよ
   これで受験に行ける」

「そうだったね
   あと五日間あるから頑張ろうね」

「同じ高校入れたら楽しいだろうなぁ」

「そう成れるように頑張らなくちゃ」

気がついたら、彼方が起きていた。

「昼間から楽しそうだね
   私も混ぜてよ」

「あれ、まだ彼方にはこの話は早いんじゃないかな?」

「そんなことないもん」

「まあまあ
   彼方っていつ頃からここにいるの?」

「ん~
   たしかこれで4年目ぐらいじゃないかな
   小学三年生の時からいるからね」

「そうだったんだ
   僕がここに来た時にはもう居たから、気になったんだ
   彼方の誕生日っていつなの?」

「7月一日です」

「僕は七夕生まれだから、結構近いね」

「お姉ちゃんも6月生まれだよ」

「ここ3人は誕生日が近いんだね」

「そしたら、お祝いが連続するから楽しいね」

「ケーキとか大変だね」

「この3人で話していると楽しいよね」

「そうだね
   受検終わったら、なるべくお見舞いに多く来ようね」

「そうしよっか」

その後も楽しく雑談は続いた。
僕と暁さんだけだと真面目な感じであまり面白くはないが、彼方が混ざると話が弾む。
彼方はムードメーカーになってくれるのだ。
おかげで、いつもにない話の展開になって面白かった。
僕もこういう人になれたらいいな

勉強しなくていいのか心配になるほど、ギリギリまで話し込んでしまった。
日が暮れて、星空が見える頃になって暁さんは帰っていった。
早く暁さんちに行きたいなぁ
まあ、そういうことはなるべく顔には出さないようにしているが
きっと、彼方の方が家に帰りたいと思う気持ちが強いだろう
けど、悲しいことに彼方はどうしても家には帰れない
外出許可はなかなか降りないだろう
だから、家に帰りたいという思いは出せない

「ねね、八雲くん」

「ん、なに」

「八雲くんってお姉ちゃんと同居してるんでしょ?」

「そうだよ」

「それに、お姉ちゃんと同い年でしょ?」

「うん」

「わざわざ八雲くんって呼ぶのめんどくさいから、お兄ちゃんじゃダメ?」

「う~ん」

「良いよね?」

「はい」

一瞬気圧されてしまったが、これからお兄ちゃんと呼ばれるとは
まあ、確かに同居人の妹だし、感覚的にはわかるけどさ
でもやっぱ違うじゃん
まあもう訂正できなさそうなんだけど

「お兄ちゃんさ」

「ん?」

「明日帰っちゃうんでしょ?」

「そだよ」

「じゃあさ、これからもお見舞いに来てね」  

「もちろん」

「あと、わかってるだろうけど、お姉ちゃんをよろしくね」

「わかってるさ」  

「お姉ちゃんにとっても、私にとっても、お兄ちゃんは家族の一員なんだからね」

「家族、か」

家族という存在から無縁な僕にとって、いい響きの言葉だった。
家族の一員になったんだ

「じゃあさ、お兄ちゃんの家族の話を聞かせてよ」

「前に言わなかったっけ?」

「きっと伝えてないことあるんでしょ
   私にも、もしかしたらお姉ちゃんにも」

ちょっと寝返りを打ち、彼方と反対の方を向いて考えた。

彼女には伝えてもいいのだろうか
まだ、誰にも伝えていない家族のこと
暁さんにさえ、嘘で隠していることを
ここで彼方に伝えたら、暁さんを裏切ることになる気がする
でも、病人同士という理由か、凄く信頼している
だから、話してもいいかなって思ってしまう
まあ、彼方には伝えよう
この僕の家族について

「いいよ
   教えてあげる
   でも、暁さんには伝えないでね」

「わかった
   お姉ちゃんには言わないよ
   病人の絆って感じかな」

そして、僕は自分の家族の現状について全て語った。
今何をしているのか
なぜお見舞いにさえ来てくれないのか
なぜ家がないのか
その理由を

「なるほどね~
   そんな理由があったのか~
   それは大変だったね
   なんて、他人が言えることじゃないだろうけど」

「まあ、彼方だって病気のこととかもあるし、大変さは変わらないぐらいさ」

「ま、そしたら、なんかあったらお姉ちゃんに頼るんだよ
   それ以外の頼るすべもないんだろうし」

「充分頼ってるよ」

「そんな風には見えないんだけど
   まあ、これで家族だね」

「もちろん」

「それじゃあ、おやすみ」

「おやすみ~」

そうだ
もうこのことを伝えてしまったんだ
だからもう、家族と同様の信頼関係になれた
これで、安心してこの家族に頼ることが出来る

その清々しさは、雲ひとつ無い夜空と重なった。
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