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はじめの一歩

久しぶりの学校

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さて、どうしたものか。

小児病棟とはいえど、重症な人が集まる場所に僕はいるのだ。

そんな訳で、容易たやすく抜け出せるはずがない。

常に看護師が一人いるのだ。

ただ、看護師もいなくなるタイミングがある。
検診の後に、データを持っていく時だけは、この病棟からいなくなる。
それに、小児病棟は、本病院とは離れているため、看護師が帰るまでには、少し時間はあった。

とは言え、ほんの数分のため、今の僕にはかなり厳しそうだった。
降圧剤やら鎮痛剤やらで、副作用なのか体の動きがすこぶる悪いのだ。
まあ、そもそも病気のせいというのも否めないがけど。

そこで、僕はある策を思いつくのだった。
それは、お見舞いに来た人に変装して、抜け出すというものだ。
看護師が居なくなった数分に、普通の服に着替えて、出ていけばいいのだ。

そして次の問題である、受付をどう通るかについては、一つだけ方法を知っている。
ただ受付にバレなければいだけなので、医者や看護師用の出入口を使えばいいのだ。
そこは、そもそもは医者たちが残業の後に帰るときに、患者に気が付かれないで帰るためのものだった。
なぜ僕がその場所を知っているかというと、入院して最初は、そこまで体調も悪いわけではなかったため、自由に病棟内なら歩けたので、その場所については熟知していた。
この病室からは離れているが、受付を通らずに出られる場所だ。
しかも、人目に付きにくく、この方法ならだれにもばれない自信があった。

かなり完璧な作戦のはずだ。

そんな訳で、次の日の朝の検診の後に、早速作戦を挑戦することにした。
チャンスは一回きり。
でも、僕には、一回で成功させる自信があった。

看護師が健診データを持って行ったのを確認して準備を整えた。
去り際に、彼方に、

「行ってくる」

とだけ言って、持てるだけの荷物を持って職員用玄関を目指す。
医者や看護師が歩いていて、見つかるかと思ったけど、なるべく堂々と歩いた。
堂々としている方が、案外ばれにくいのだ。

そして、僕は何とか職員用玄関から、この病院を抜け出すことに成功した。
まだ、外は朝早く、日が東からでてきたすぐという感じだった。

あと、僕は念の為に取っておいた学生服で出てきていて、薬やらなんやらを学校指定のカバンにつめて持っていたので、このまま登校することができる。

約1ヵ月ぶりの登校だった。

病院からそう離れていないところに学校があったのが幸いで、走らなくても遅刻せずに、登校できたのだった。
ただ、久しぶりに登校した僕に対する視線に、好感の含むものはなかった。
ほとんどが、忙しい時に来るなよって感じだった。
まあ、今は受験期真っただ中なので、はっきり言って僕は邪魔者だっただろうな。
こういう時に、大抵教師がベタベタしてきて、歓迎だなんだって始めるので、みんなイライラしていたのだった。

そんな視線の中には、
もはやお前誰だよっていうのもあった。
しかも、その中にかの あかつきひかりの姿もあった。

まあ、学校ではあまり喋らない方と思われていたため、どんな人かすら記憶していない人もいて当然なのかもしれない。
実際には、社交性がないというよりは、人見知りなだけなんだけど。

中には数人は俺に話しかけてくるやつもいたが、その半数は、受験が終わっていて、暇な連中だった。
僕の受検に興味を抱いていたり、茶化したりするのがほとんどだった。
まあ、別に僕は今から受験勉強なんて一切しないので、適当にいなすだけだったが。

残りの半数は、仲のいい人たちで、自分の勉強よりも僕の体調を心配してくれた。
そいつらには、ちゃんと退院したと、嘘を伝えた。
そりゃあ、抜け出したなんて言えるわけもない。
そいつらも、僕と話が終わると、過去問をひたすら解いていた。

僕もそんなに馬鹿じゃないので、全く勉強していなかったが、なんとかそいつらの問題を解くことぐらいはできた。
これでも一応、県内名門と言っても過言じゃないくらいの進学校のはずなんだけどとは思った。
もちろん、僕もちゃんとした解き方なんて熟知しているわけでもないので、回答のほとんどが運と直感だ。
そのことを友達に言うと、毎回のごとく、

「その直感がお前は強いんだよ」

と言われた。
僕にとって大体の教科はそれでこれまでやってきた。
特に数学は、直感だけで解くことがほとんどだったりする。
規則性や図形とかの問題だと、なんとなくの確信で、絶対こうなるって思って突っ走れば、大体あってるもんだと思う。

そうこうしているうちにで一日も終わりに近づき、帰りのホームルームが始まろうとしていた。
帰りのホームルームでも、やはり教師は僕の話を引っ張り、フォローしろだのなんだの言っていた。
まあ、そんなことを求めに来た訳では無いので、完全に無視を決め込んでいたのだが。
受験まじかになったせいか、かなり適当なホームルームになっていた。

聞いてるやつは、真面目な女子だけで、ほとんどは過去問を解いてるか駄弁っていた。
かく言う僕も、友達の過去問を手伝っていたのだが。
僕の知らぬ間にホームルームは進行していて、気づいたらもう帰りの挨拶になっていた。

とりあえず立って早く挨拶して終わらせようと思ったのだが、体が動かない。

貧血なのか降圧剤のせいなのか、無理に立った瞬間、ふわっとした感覚とずしっとした感覚に襲われた。
机に手をついて、頭を下にして、なんとか耐えたのだが、かなり辛かった。
視界も真っ黒になっていて、良く分からなかった。
まあ、クラスの誰も気づかなかったみたいなのでほっとしたが。

「気をつけ
 礼」

「さようなら」

という号令が、僕にはとても懐かしく感じた。

号令が終わると、みんなバラバラに動き始めた。
塾に行く人、このまま過去問終わらせる人、別の部屋に移動する人。
みんなが何をしているのか観察していると、教師に呼ばれてしまった。

そりゃあそうなるはずだ。

入院していたはずのやつが、受験期になって唐突に学校に来たのだ。
しかも、受験についての話もろくにしないようにしてきていたので、教師は心配だったのだろう。
教師に別の部屋に連れていかれ、開口一番

「お前受験どうするんだ?」

だった。
志望校については、一応県内トップの公立高校にしていたが、本心では、受験する気なんて毛頭なかった。
どうせ受かっても、どうにもならいのはわかっていたから。
まあ、お試しということで、そこの受験だけしてみようとも思っていたのだ。

「これまで通りです」

とだけ答えた。
教師はメモ用紙かなにかに、適当に文字を書いたあとに、

「私立は受けなくていいのか?」

と、聞いてきた。
私立こそ、合格してもてもどうしようもないので、

「受けない方向でお願いします」

と、答えておいた。
そもそもこの時期なら、出願手続締切日を過ぎているはずだ。
だからもう受けられないだろう。
なんて考えていると、教師が口を開いた

「お前の体調のこともあるしな
 公立高校ならまだ時間もある
 お前なら出来ると俺は信じてるぞ」

そう言って、教師は帰っていった。
いやホントなんなんだあの教師。
最も大事なものを忘れているのに気が付かなかっただと。

入院していた生徒が帰ってきたのなら、退院許可証を渡されるはずで、それがないと登校禁止なのだ。

そもそもそれがないと、病院の外には出られないはずなので、抜け出した僕みたいなやつ以外は持っていて当然なのだが。
それでも退院許可証を確認するのを忘れていくとは思わなかった。
おかげで、何も怪しまれずに済んだのだが。
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