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日常編(単発)
武器屋銃殺事件
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ここは勇者団本部の憲兵部。勇者は勇者でも魔物ではなく人間を相手にする部門で、国内秩序の安定を目標とする組織だ。そんなある日、憲兵部は早朝にもかかわらず騒然としていた。
「一体何があったんだ!誰か説明してくれ」
朝っぱらから周りに勝る声量で話している金髪でオラオラ系の見た目の彼はイクス。勇者団憲兵部ではそこそこの歴を積んでいる勇者だ。
「それが、どうやら殺人事件が起こったようです」
「何!?暫く起こってないと思ったら……」
「イクスさん!車の手配ができました!現場にエクスさんがいるので詳しい話はあの人から聞いてください」
「よし、必ず俺が市民の平和を守り、悪を取り締まってやる!」
イクス、御歳二十五歳。彼のポリシーは金と名誉と出世である。
法定速度をやや上回る速度で急行したイクスは、現場にたどり着くと一目散に相方のエクスに会いに行った。
「エクスー?エクスはいるか?」
「いるよ~。どうしたのさ血相を変えて」
ドアを開けて出てきたのはエクス。小柄な体格でいつもの様に黒いカーディガンを萌え袖にしていて、マスクを顎に引っ掛けている。
「エクス……!現場は?」
「この部屋だよ」
エクスは先程自分が出てきた部屋を指さした。その部屋は散らかっていて生活感が溢れているが、その中央には生活感とはかけ離れたものがこびりついている。
「これは……血痕?」
「みたいだね。さっき鑑定士が検査のために持っていったよ」
そこには、若干赤が霞んだ色をした液体が溜まっていた。
「見る感じ勢いよく飛び散ってるな。銃殺か?」
「ご名答。今日の深夜一時に銃声が聞こえたって情報が来てるよ」
「待て、深夜一時だと?」
イクスは考える人的なポーズをとり、頭の中で手に入れた情報を整理してみた。
この建物は一階が武器屋となっており、現場となっている部屋は二階にある。銃声が聞こえたのは深夜一時。その音を聞いていた周辺の住民が後になって心配になり、勇者団に連絡したのが六時。その通報を受け勇者が留守の建物を調べたところ、血痕を発見し今に至るらしい。ちなみに鍵はかかっていなかったそうだ。
「おかしい。なんで深夜一時からある血がまだこんなに赤いんだ?」
「さぁね?こんなもの魔法でなんとでもなるじゃない。魔法痕は検出できてないけどね。それに、この血が誰のものかもよく分からないんだ」
「は?この家の住民じゃねぇの?」
「武器屋の店主は昨日の夕方から留守にしてるし、居候してるこの部屋の住民も深夜から飲み歩いてたらしいよ」
「ますます訳が分からねぇ……」
イクスは頭を抱えてその場に座り込んだ。
「これは迷宮入りの予感だね」
「何、迷宮入り?」
「そうだよ。犯人どころか被害者の特定もままならないんだから」
「……なぁ。この事件解決したら、俺は何を得ると思う?」
「そうだねぇ、金と名誉と出世が待ってるんじゃない?」
「……!!俺、ちょっと聞き込みしてくる」
自らの欲望のためにイクスは動き出した。聞き込みのため建物から飛び出すと、そこには見張りの勇者と話している一人の酔った青年がいた。
「おい、この人は?」
「えっと、どうやらこの酔っている方が二階の住人らしくて」
「何!?ってことは、あなたがフーリさん?」
「二階の住人だけりけりけり……」
そう。この酔っている青年こそみんな大好きフーリだ。どうやら過去の助動詞を二回連続で使ってしまうくらい酔っているらしい。ちなみに最後のけりは詠嘆だよ。
「なんでぇ~僕の家に勇者がいるんの?」
「落ち着いて聞いてください。深夜、あなたの家から銃声が鳴り、今部屋には血もあります」
「銃声~?血ぃ~?あー!心当たりが野〇萬斎!」
「本当ですか!是非知ってること、全部教えてください!」
「えっとね~、まず銃声はね、銃声であって銃声じゃないの」
「え?それはどう言う……」
「昨日ね~、酔った勢いで皆と『銃声モノマネ大会』やってたんだ~」
上機嫌にそう話したフーリは、誇らしげな顔をしながら『バキューン』と言うと、自信満々に胸を張った。ちなみに文字だとこんな感じだけど、完全にフーリの口からは銃声が鳴っていたよ。
「えー!これモノマネっていうかマジモンレベルじゃん!」
「えへへ~凄いでしょ。これのおかげで昨日は三位になれたの」
「まだ上がいんのかよ!」
「な、何事ですか!?銃声?」
先程の銃声のモノマネを聞き、今度はエクスが飛び出して来た。しかし、フーリはそれを気にせず話を続ける。
「後ね~血ぃ?だっけ~?あれはね、トメィロウだよ」
「え?トメイロウ?」
「トマァロウ?トマァトゥ?」
「あぁ、トマト?」
「そう!トマトゥ!」
「なんだぁトマトかぁ。ん?……え?あれトマトなの?」
「そうだよぉ~。『トマトを時速何キロで投げられるか選手権』の残骸だよ」
「何やってんだよ!」
「あれ?でもトマトは一つしかなかったよ?」
「一個しか買ってなかったから僕しか投げてませーん!」
衝撃の事実に、イクスは震えが止まらないようだ。
「そんな……これじゃあ俺の出世は?」
「今回は無しだね。残念だったね、イクス。また現場で会お」
こうして、武器屋殺人事件は膜を閉じるととなった。ちなみに銃声モノマネ大会の優勝者はクライブだったらしい。
「一体何があったんだ!誰か説明してくれ」
朝っぱらから周りに勝る声量で話している金髪でオラオラ系の見た目の彼はイクス。勇者団憲兵部ではそこそこの歴を積んでいる勇者だ。
「それが、どうやら殺人事件が起こったようです」
「何!?暫く起こってないと思ったら……」
「イクスさん!車の手配ができました!現場にエクスさんがいるので詳しい話はあの人から聞いてください」
「よし、必ず俺が市民の平和を守り、悪を取り締まってやる!」
イクス、御歳二十五歳。彼のポリシーは金と名誉と出世である。
法定速度をやや上回る速度で急行したイクスは、現場にたどり着くと一目散に相方のエクスに会いに行った。
「エクスー?エクスはいるか?」
「いるよ~。どうしたのさ血相を変えて」
ドアを開けて出てきたのはエクス。小柄な体格でいつもの様に黒いカーディガンを萌え袖にしていて、マスクを顎に引っ掛けている。
「エクス……!現場は?」
「この部屋だよ」
エクスは先程自分が出てきた部屋を指さした。その部屋は散らかっていて生活感が溢れているが、その中央には生活感とはかけ離れたものがこびりついている。
「これは……血痕?」
「みたいだね。さっき鑑定士が検査のために持っていったよ」
そこには、若干赤が霞んだ色をした液体が溜まっていた。
「見る感じ勢いよく飛び散ってるな。銃殺か?」
「ご名答。今日の深夜一時に銃声が聞こえたって情報が来てるよ」
「待て、深夜一時だと?」
イクスは考える人的なポーズをとり、頭の中で手に入れた情報を整理してみた。
この建物は一階が武器屋となっており、現場となっている部屋は二階にある。銃声が聞こえたのは深夜一時。その音を聞いていた周辺の住民が後になって心配になり、勇者団に連絡したのが六時。その通報を受け勇者が留守の建物を調べたところ、血痕を発見し今に至るらしい。ちなみに鍵はかかっていなかったそうだ。
「おかしい。なんで深夜一時からある血がまだこんなに赤いんだ?」
「さぁね?こんなもの魔法でなんとでもなるじゃない。魔法痕は検出できてないけどね。それに、この血が誰のものかもよく分からないんだ」
「は?この家の住民じゃねぇの?」
「武器屋の店主は昨日の夕方から留守にしてるし、居候してるこの部屋の住民も深夜から飲み歩いてたらしいよ」
「ますます訳が分からねぇ……」
イクスは頭を抱えてその場に座り込んだ。
「これは迷宮入りの予感だね」
「何、迷宮入り?」
「そうだよ。犯人どころか被害者の特定もままならないんだから」
「……なぁ。この事件解決したら、俺は何を得ると思う?」
「そうだねぇ、金と名誉と出世が待ってるんじゃない?」
「……!!俺、ちょっと聞き込みしてくる」
自らの欲望のためにイクスは動き出した。聞き込みのため建物から飛び出すと、そこには見張りの勇者と話している一人の酔った青年がいた。
「おい、この人は?」
「えっと、どうやらこの酔っている方が二階の住人らしくて」
「何!?ってことは、あなたがフーリさん?」
「二階の住人だけりけりけり……」
そう。この酔っている青年こそみんな大好きフーリだ。どうやら過去の助動詞を二回連続で使ってしまうくらい酔っているらしい。ちなみに最後のけりは詠嘆だよ。
「なんでぇ~僕の家に勇者がいるんの?」
「落ち着いて聞いてください。深夜、あなたの家から銃声が鳴り、今部屋には血もあります」
「銃声~?血ぃ~?あー!心当たりが野〇萬斎!」
「本当ですか!是非知ってること、全部教えてください!」
「えっとね~、まず銃声はね、銃声であって銃声じゃないの」
「え?それはどう言う……」
「昨日ね~、酔った勢いで皆と『銃声モノマネ大会』やってたんだ~」
上機嫌にそう話したフーリは、誇らしげな顔をしながら『バキューン』と言うと、自信満々に胸を張った。ちなみに文字だとこんな感じだけど、完全にフーリの口からは銃声が鳴っていたよ。
「えー!これモノマネっていうかマジモンレベルじゃん!」
「えへへ~凄いでしょ。これのおかげで昨日は三位になれたの」
「まだ上がいんのかよ!」
「な、何事ですか!?銃声?」
先程の銃声のモノマネを聞き、今度はエクスが飛び出して来た。しかし、フーリはそれを気にせず話を続ける。
「後ね~血ぃ?だっけ~?あれはね、トメィロウだよ」
「え?トメイロウ?」
「トマァロウ?トマァトゥ?」
「あぁ、トマト?」
「そう!トマトゥ!」
「なんだぁトマトかぁ。ん?……え?あれトマトなの?」
「そうだよぉ~。『トマトを時速何キロで投げられるか選手権』の残骸だよ」
「何やってんだよ!」
「あれ?でもトマトは一つしかなかったよ?」
「一個しか買ってなかったから僕しか投げてませーん!」
衝撃の事実に、イクスは震えが止まらないようだ。
「そんな……これじゃあ俺の出世は?」
「今回は無しだね。残念だったね、イクス。また現場で会お」
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