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悪役令嬢、手紙を書く
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さて、お茶会には何を作ろうか。
生徒会のサロンが空いている週末に
お茶会をすることになったので、作る
お菓子を決めて、材料を揃える必要が
ある。
寮の厨房を借りて作ることになる
だろうから、凝ったものより手軽に
作れるお菓子がいいだろう。
アップルパイが妥当かな。
そんなことを考えながら廊下を歩いて
いると、ふいに声をかけられた。
「セセリア・ローゼンバーグ!」
声をかけてきたのは、学年主任の教師だ。
眼鏡をかけた年配のその女性は、私に
近寄ると、封筒を差し出した。
「あなた宛ての手紙です。本来なら
生徒宛ての手紙は、寮の方に届けるの
ですが、これは王家の紋章の入った手紙
なので、私が直接持ってきました。」
手渡された手紙には、金色の箔押しで
王家の紋章が施されている。
カイン殿下からだ。
「ありがとうございます。」
私は一礼してその場を去ると、寮の部屋へ
と急いだ。
何が書いてあるんだろう…。
「好きな人が出来たから婚約は解消して
欲しい」なんてことが書いてありはしない
だろうか。
不安でドキドキしながら、封を開けると、
1枚目の手紙には、シュタイン公国での
生活や近況が、丁寧な文字で綴られている。
私が心配していたようなことは、書かれて
なさそうだ。
ホッとしながら2枚目の手紙に目をやると
強烈な文章が目に飛び込んで来た。
「セセリアに会いたい!セセリアの作った
お菓子が食べたい!早くクレイトンに帰り
たい!」
子供みたいだな。
私は、これを書いている殿下を想像して
思わずクスっと笑ってしまった。
よかった。どうやら、まだ私は胃袋を掴ん
でいるようだ。
…にしても、手紙の最後に書かれている
文章が気にかかる。
「男子生徒はもちろん、男性教師とも二人
きりになってはいけないよ。もちろん兄上
ともね。」
兄上とも…ね、か…。
アンセル殿下にはいつも側近がついている
から、二人きりになることはまずない。
それでもこう書くということは、つまり
釘を刺されたということだ。
ゲームの中のカイン殿下は、こんなに束縛
する人だっただろうか。
いや、殿下が留学した時点で、もう私が
プレイしていたゲームとは内容が違って
いるのだから、殿下の性格も違っていて
当然かもしれない。
とりあえず早急に返事を書かなければなら
ないが、アンセル殿下については触れずに
いた方がよさそうだ。
一緒に昼休みを過ごしているなど、絶対に
知られる訳にはいかない。
お茶会のことも書かない方がいいかな。
アンセル殿下が私の手作りお菓子を食べる
ことを、あれほど嫌がっていたのだから
黙っておくべきだろう。
となると、書けるのはエミリアとアイリス
のことだけだ。
私は、二人についての当たり障りのない
話を、長々と文章にしてなんとか手紙を
埋めることに成功した。
大丈夫。嘘はついていない。
手紙の締めくくりには、しっかり「私も
早く殿下に会いたいです。」と書いたし。
手紙を封筒に入れ、ローゼンバーグ家の
紋章の封蝋印を押す。
ここまでの作業でだいぶ頭を使ったせいか
気疲れしてしまい、もうお茶会に出す
お菓子のことを考える余裕はなくなって
いた。
やっぱり最初に思った通りアップルパイで
いいや。
明日寮の厨房へ行って、材料を揃えさせて
もらおう。
机の上に置いた殿下宛ての手紙を見つめ
ながら、私はベッドに横たわった。
生徒会のサロンが空いている週末に
お茶会をすることになったので、作る
お菓子を決めて、材料を揃える必要が
ある。
寮の厨房を借りて作ることになる
だろうから、凝ったものより手軽に
作れるお菓子がいいだろう。
アップルパイが妥当かな。
そんなことを考えながら廊下を歩いて
いると、ふいに声をかけられた。
「セセリア・ローゼンバーグ!」
声をかけてきたのは、学年主任の教師だ。
眼鏡をかけた年配のその女性は、私に
近寄ると、封筒を差し出した。
「あなた宛ての手紙です。本来なら
生徒宛ての手紙は、寮の方に届けるの
ですが、これは王家の紋章の入った手紙
なので、私が直接持ってきました。」
手渡された手紙には、金色の箔押しで
王家の紋章が施されている。
カイン殿下からだ。
「ありがとうございます。」
私は一礼してその場を去ると、寮の部屋へ
と急いだ。
何が書いてあるんだろう…。
「好きな人が出来たから婚約は解消して
欲しい」なんてことが書いてありはしない
だろうか。
不安でドキドキしながら、封を開けると、
1枚目の手紙には、シュタイン公国での
生活や近況が、丁寧な文字で綴られている。
私が心配していたようなことは、書かれて
なさそうだ。
ホッとしながら2枚目の手紙に目をやると
強烈な文章が目に飛び込んで来た。
「セセリアに会いたい!セセリアの作った
お菓子が食べたい!早くクレイトンに帰り
たい!」
子供みたいだな。
私は、これを書いている殿下を想像して
思わずクスっと笑ってしまった。
よかった。どうやら、まだ私は胃袋を掴ん
でいるようだ。
…にしても、手紙の最後に書かれている
文章が気にかかる。
「男子生徒はもちろん、男性教師とも二人
きりになってはいけないよ。もちろん兄上
ともね。」
兄上とも…ね、か…。
アンセル殿下にはいつも側近がついている
から、二人きりになることはまずない。
それでもこう書くということは、つまり
釘を刺されたということだ。
ゲームの中のカイン殿下は、こんなに束縛
する人だっただろうか。
いや、殿下が留学した時点で、もう私が
プレイしていたゲームとは内容が違って
いるのだから、殿下の性格も違っていて
当然かもしれない。
とりあえず早急に返事を書かなければなら
ないが、アンセル殿下については触れずに
いた方がよさそうだ。
一緒に昼休みを過ごしているなど、絶対に
知られる訳にはいかない。
お茶会のことも書かない方がいいかな。
アンセル殿下が私の手作りお菓子を食べる
ことを、あれほど嫌がっていたのだから
黙っておくべきだろう。
となると、書けるのはエミリアとアイリス
のことだけだ。
私は、二人についての当たり障りのない
話を、長々と文章にしてなんとか手紙を
埋めることに成功した。
大丈夫。嘘はついていない。
手紙の締めくくりには、しっかり「私も
早く殿下に会いたいです。」と書いたし。
手紙を封筒に入れ、ローゼンバーグ家の
紋章の封蝋印を押す。
ここまでの作業でだいぶ頭を使ったせいか
気疲れしてしまい、もうお茶会に出す
お菓子のことを考える余裕はなくなって
いた。
やっぱり最初に思った通りアップルパイで
いいや。
明日寮の厨房へ行って、材料を揃えさせて
もらおう。
机の上に置いた殿下宛ての手紙を見つめ
ながら、私はベッドに横たわった。
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