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体育祭で浴びた応援

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体育祭が迫っていた。
俺は、足の速さを買われ、当然のようにクラスの選抜リレーに選ばれていたし、部活対抗のリレーにも出場する。
それでも、去年の文化祭の役員より、仕事は少ない…が、選抜リレーの練習に、休み時間毎に、他学年とバトン練習をするのと、放課後は学年での演し物のダンス練習があったりと、まぁまぁ忙しい。
全学年を縦割りで、4つのカラーに分けて合計点数を競う為、毎年結構白熱する。
そして、恒例であり、一番の見物となる応援合戦は、皆が楽しみにしている演目だ。
その応援団の団長に、2年生なのに選ばれてしまった足立の方が、俺よりも何倍も忙しそうだった… 

2年生だから…と何度も断ったらしいが、今年の3年の多数の女子からの熱い要望があったらしい。
卒業したら見れないから…と泣いて頼まれたと聞いた。
団長は、真っ白の長ランを身に纏い、応援の舞を舞う。演武の型みたいなものは、決まってるらしく、覚えるのも大変そうだが…
その華麗な姿を目に焼き付けないと卒業なんて出来ない…と、先輩方から詰め寄られ、渋々引き受けたらしい。
確かに、足立なら、とんでもなく似合い過ぎる事は、簡単に予想できた。
これでまた、ファンが、増えるのかと思うと…ちょっぴり頭が痛い。

そして、矢長の事も、頭の片隅にずっとある。
あの独白を聞いてから、その事について矢長から触れて来る事は無いから、俺も触れないけど…最後にボソッと言ったのが
「しかも、七瀬先輩を好きな足立先輩が好きなんですよ…困った事に」
俺を想ってる足立に惚れてると…
だからどちらにしても、出口の無い恋だと。
それはまた難儀だな…と思ってしまう。結局のところ、俺にどうこう出来るものでも、そんな権利も無い…
ライバルなのか?なんなのか…よく分からない。
ただ、その想いを知ってしまった以上、気にはなっていた。


今も目の前で、足立と矢長を交互に見る。矢長の態度は、前と変わらないが、そもそも、足立が矢長へあまり何も言わなくなったので…
というか、若干、ヤキモチを妬くことよりも、俺への溺愛と執着に情熱をかけることに夢中というかなぁ…
「七瀬…オレ、めっちゃ疲れてんだけど…七瀬不足で死ぬかも…癒して」
弁当をつまみながら、俺の手をずっと握って離さない足立。

「足立先輩、それだと、七瀬先輩が弁当食べれませんよ?」
矢長に注意されてる
「良いんだよ、オレは自分のを食べながら、七瀬に食べさせてあげるから、ハイ、あ~ん」
「いや、いいって、片手でも食べれるから!さすがに…教室では…」
慌てて、自分の弁当を食べ進める
「でも、手は離さないでくれるんだ…優しいな…七瀬…はぁ~癒される~」
甘い…マジ甘いよぉ~足立様!!
デレデレという言葉が当てはまるほど、目尻を下げた笑顔を向けてくる。
確かに多忙ゆえに、お疲れモードの足立に、少しでも何かしてあげたい気持ちはあって…
恥ずかしさは、バリバリあったが、握られた手を振りほどく事は出来なかった。
気分は回復魔導士…
そう、これは、ただのヒーリングだ!
決してイチャイチャじゃない、ただ、癒してるだけ!と、心の中で唱えた俺。

そして…そんな俺達を眺めるのは、辛くないのか?矢長は、普通に弁当を食べている。
むしろ、俺の手を握り嬉しそうな足立を見て、嬉しそうにしてる…
うーんやっぱり、よく分からない。

数日後には体育祭が迫り、バトン練習も上手くいき、着々と仕上がっていた。
矢長と足立は、同じ白組なので、黄組の俺とは、敵のチームだった。
たった一日のお祭り騒ぎだろうが、みんなの空気が熱くなってきてるのを肌で感じる。
応援団の衣装は、当日のみの着用らしいから、どんな感じになるのかは、俺の頭の中のイメージでしかなかった。

【明日のオレの応援は、全て七瀬に向けてるから、よく見ててな!白組とか知らんし(笑)あれ?オレって七瀬組だよな?】
前日に送られて来た、このLINEを見て、身悶えたのは、言うまでもない。


体育祭当日。
俺はエントリーしてる選抜リレーに出るために並んでいた。
速い選手を選んで行われる選抜リレーは、毎年人気の種目だ。
もちろん、足立も矢長も選ばれていた。
俺の隣りには、足立が並んでいた。
「負けるつもりは無いから」
と言われる
「俺こそ、負けたら、先輩に怒られるわ…陸部のクセにって…」
「ハハッ、まぁ、頑張ろうぜ」
と肩を組まれる。ドキドキする俺と、ニヤニヤする足立。
汗の匂いと混ざった高級そうなコロンの香りが漂った…その香りは正に、彼と身体を合わせた時に味わったのと同じ香り…一気に頬が熱くなった
「体育祭終わったら、デートな」
と、耳元で囁いた。
リレーどころでは無くなるじゃないか…これは、むしろ足立の作戦なのか?

結局、俺の順番が回ってきた時には、足立はかなり先を走っていて、颯爽と走る足立を後ろから追いかけた。女子からの足立への声援が耳に痛い程に響き、なんかイラッとして俺の脚はスピードを上げた。
かなり距離を縮める事は出来たけど、あと一歩で結局追いつけなかった。あと10メートルあれば、勝てたのに…
足立のチームは、1位を獲得し、俺のチームは、2位だった。

いよいよ、応援合戦が始まるらしい…
俺は、たまたま真正面から見える位置に座る事が出来た。
ドキドキしながら足立の登場を待つ。

太鼓の音が鳴り響く、黒い学ランの軍団が二つに割れ、そこから颯爽と現れたのは、太陽の光を浴び輝く真っ白な長ランを纏う足立。
予想をはるかに超えたカッコ良さに、俺は息を飲んだ。呼吸も忘れそうな程に目が釘付けになる。
すすり泣いている女の子も居るほど、みんなが足立に見惚れていた。
観衆の熱の篭った視線を浴びても平然とし、腰まであるハチマキを風になびかせて、応援の舞を舞う姿は、神々しく、人外なオーラを放つ。
土煙すらも、スモークばりの演出に見えてくる。
これは、本当にヤバい…惚れない方が無理だろ的な…
こんな人が俺の恋人だという事が、信じられない。
足立と目が合った。真っ直ぐなその視線の余りの熱さに、恥ずかしくなり俺は俯きかけたが、気持ちに背くみたいでダメだと思い直し、真っ直ぐに彼を見つめ続けた。
想いはヒシヒシと伝わって来た。
ちゃんと全身で、受け取る事が出来たと思う。

なんだか、めちゃくちゃ気合いが入った俺は、その後すぐに行われた、最後の目玉、部活対抗リレーで、陸上の公式戦かと思える程の走りを見せ、もちろん陸上部は1位。
というか、当然の事、それ以外は無いよな?という顧問の圧力がかけられていたのもあったけど、一番大きかったのは、足立の応援だと思う。
部長からは
「七瀬、めちゃくちゃ気迫感じたぜ。フォームも文句なしだった。この調子で次の大会も決めろよ」
バシンと背中を叩かれた。
足立の応援の効果がそこまで続く事を祈る。

閉会式の為、自分のクラスに戻ろうとすると、女の子から「七瀬くん、走るの凄く速いんだね!」と、何度も声をかけられ少し照れた。
本当は、足立に駆けより、応援ありがとう!って一番に伝えたかったけど、それは出来なくて…
クラスも違うし、リレーに出なきゃいけなかったし、なんなら、足立が衣装を着替える前に…と、写真待ちの長蛇の列が出来ていたし…
俺も本当は、一緒に写真を撮りたかったんだけど…
来年こそは、チャンスがあると良いなと、横目で見ていた。

体育最高の片付けに時間がかかり、既に真っ暗の帰り道でやっと伝えれた
「足立、ありがとう!あと、めちゃくちゃカッコよかった!もう、眩しくて、こんな人と俺…付き合ってんのか…って思ったら、なんか…」
尻つぼみになってしまう言葉。
もっとちゃんと伝えたいのに…
「ん?惚れ直してくれた?」
ブンブンと首を縦に振る。
足立は満足そうに、柔らかな微笑みをくれる。
あー、今、すごくチュウしたいなぁ…
暗いから…平気かなぁ…
そんな事を考えるなんて、俺、急に大胆になっちゃったのか?
もしくは、足立から受けた応援の熱が冷めて無いからなのか…
なんて思っていたら、目の前には、美しい顔があった。
チュッて、その瞬間だけがスローになった口付け。

「したそうだな…って思ったんだけど、思い過ごし?」
「…じゃない、てか、バレてた?」
「うーん。何となく?でも、オレがしたかっただけかも…」
なんて、サラッと言ってくる。
こういう時、経験値の差を感じる…スマートだよな…とちょっぴり嫉妬してしまう。
まだまだ、過去に拘っている内はダメだなぁ…


「やっと終わったから、今度は、ガチデートな!」
家まで送ってくれた足立から、デート宣言されたのだった。
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