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雅「マグロ漁船にする? トラ退治に行く? それとも怜?」一華「」
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クリスマスイブの前日が終業式だった――年が変わってもズッ友だよ、とふたりちゃんから手を握られながら言われたけども、そちらからお断りにならない限りそのつもりだと言ったら、感慨深げに目を細められて「で、クリスマスパーティーはどうするんだっけ?」と、今日の天気は晴れくらいの勢いで続いた。
そっか、クリスマスかぁ……と感慨深い気持ちを胸に抱いていると、ふたりちゃんはキョトンと不思議そうな表情でこちらを見て
「え? パーティーとか誘われてないの?」
「……ええと」
一華からは予定は入ってないからと聞いていたので、もしかしたらサプライズを練っているのではと思ったけども、私一人よりも友情であればケーキ作りに邁進するつもり。
その際にちょっと塩味を感じるようだといけないので、ありすちゃんを監視兼味見係に任命したいと思う……あ、彼ピッピと用事がとか言われたら違う意味で塩味が増えそう。
「まあ、一華には前科みたいなのがあるし、サプライズは好きなんだと思う……たぶん……」
「いや、あー、うんー……ちょっと用事を思い出したから、冬休みのいずれかの日に遊びに行こうね!」
話題の転換には持ってこいの用事だけども、ふたりちゃんは人気者だから足早に立ち去る必要があったのかもしれない。
教室をぐるりと見渡すと、グループのメンバーも早々に立ち去っていたらしく、どことなく寂しい気持ちを抱きながら退室をする。
そのまま上履きを持ち帰るために袋に入れ、革靴に履き替えて歩き出す。
センチな気分になってしまうのは、冬の天気もあるんだと思う。寒風っていうのは体温と一緒に心の何かを吹き飛ばしてしまうんじゃないか。
太陽さんもちょっと力不足でぬくめるのには足りずに、かさばる荷物もあるので普段使いのスーパーにも立ち寄らずに直帰……暗い顔をしているかもだから寄り道と考えたのがいけなかったかもしれない。
「ど、どちら様でしょうか……」
デイゲームに臨むプロ野球選手じゃないのに皆々がサングラスをかけ、ピシッとしたスーツに高級そうなアクセサリーの類い。
成金って感じではなく……その、極まったって人々がこちらの行く先を通せんぼするように立ち塞がる。
キョロキョロと辺りを見回すけども不自然なほどに人気がない――てか、喋り声一つ聞こえてこない……見知らぬ人に吠えるワンちゃんの声も聞こえない。
「名乗る者ではありません」
長い沈黙の後でようやく返答があり、そのころには黒塗りのテカテカとした車さんが「お前を乗せるぜ」とばかりに到着。
腕に覚えがあるとは言ったけれども、血みどろの争いも厭わない方々に喧嘩を売っちゃいけない――よしんば自らが無事だったとしても家族に確実に迷惑が掛かる。
「せめて……その、荷物だけは家に帰してください」
「承知しました」
途端に身軽になる桜塚怜――丁重に扱えよ、と中でも権力のありそうな方が部下に命じている。
ささ、こちらにと私も言われるがままに車内に乗り込み、シートベルトを着用したあとで天を仰いだ。
どこで選択を間違えたんだろう……一華と付き合ったことかな? 何か粗相をしたからこれから海の藻屑になるとか? もしもだけど夜のお仕事で身体を使ったなにがしなんかすることになったら……せめて一番最初の相手は一華かありすちゃんにして欲しい。
私は立場的に「いい日和ですねぇ」とか「お仕事は何を?」とか聞けないんだけど、座った位置的には上座となっている。
律儀な扱いを受けているから……といった感じはまるでなく、あくまで逃亡禁止の観点からだと思うんだけども、高速道路を通行する辺りからなんとなく空気が弛緩した気分だ。
や、緊張を通り越してそれに慣れたからと言われればその通りかもだけど。
学校が終わってからしばらく夕焼けで空が赤くなるころ、車が旅館の前で停止した。
ずっと隣にいた親分(気質)な方がこちらへどうぞどうぞと肩を押すので賢明な私は逆らわずにハイハイと歩いて行く。
「こちらでどうぞお待ちください」
「は、はい!」
背中を直立させてどこかへと立ち去る職人気質な方々を見送り、泊まるだけで云万……いや、云十万も飛んで行きそうな高級旅館の前でたじろぐ。
陽が落ちてきたから気温も下がってきた――周囲の景色からして、中々の高度にある建物らしく、東京の夜の帳が下りるころに比べて何度か……数字的には別段大したことないのに、もうどうしようもないくらい寂しくて怖くて涙が出てくる。
「会いたいよ……一華……こんなことなら鞄くらい持ってくればよかった……」
「そ、そうだな」
両手で顔を覆って泣きだしてからちょっと、戸惑うような声が聞こえ、そこには最愛の人がものすごく困った表情を浮かべながらばつが悪そうに佇んでいた。
「もおぉぉぉぉぉぉぉ!?」
身軽だったものだから一目散に駆け寄って抱きつき、一華も多少腰砕け気味だったけどちゃんと受け止めてくれ、
「なんでこんなことしたの!? 私は何回も死を覚悟したよ!」
「いや……私は明日の朝に君と旅行に行く計画を立てて、ありすさんと綿密に会議をしていたんだが……遅いとみんなから怒られてな」
「へ?」
定番になるのは嫌だけど、一華は朝方に自宅へと潜入をし、泊まりがけの旅行に連れて行く魂胆だったらしい。
もちろん運転は毎度の……その、クリスマスにイチャイチャする我々の送迎は、たしかに申し訳が立たないけれども……と、一華に小声で言ったら「あっ(察し)」
「もう、サプライズとか良いから普通に一緒に旅行とかに行きたい……」
「あ、ああ」
「それだと貯金が心配だから、どこかでバイトしたい……」
「急に所帯じみたな!?」
サプライズだとサプライズを仕掛けた側が一方的に負担する空気があるけど、一緒に時間を示し合わせて旅行に行くとなれば金銭的には折半だ。
「まあ、ともかく中へ入ろう。雅が貸し切りにしてくれたらしいから」
「か、貸し切り!? 雅ちゃんってそんなブルジョワな人なの!?」
「まあ、あんまり実家のことは好ましく思ってないらしいが、使うべき時は使うって感じらしいぞ……胆力が恐ろしく感じるが」
「そっか……お嬢様だったんだぁ……挨拶に行った方が良いかな?」
「いや!? その、雅が実家に呼びたくないらしいからそれは遠慮した方が良いんじゃないか!?」
冷や汗をかいている一華を不思議に眺めつつ、私たちは旅館へと足を踏み入れ……その、着替えとかの「お泊まりする道具」が一切合切ないんだけど、アメニティで賄える感じなのかな。
そっか、クリスマスかぁ……と感慨深い気持ちを胸に抱いていると、ふたりちゃんはキョトンと不思議そうな表情でこちらを見て
「え? パーティーとか誘われてないの?」
「……ええと」
一華からは予定は入ってないからと聞いていたので、もしかしたらサプライズを練っているのではと思ったけども、私一人よりも友情であればケーキ作りに邁進するつもり。
その際にちょっと塩味を感じるようだといけないので、ありすちゃんを監視兼味見係に任命したいと思う……あ、彼ピッピと用事がとか言われたら違う意味で塩味が増えそう。
「まあ、一華には前科みたいなのがあるし、サプライズは好きなんだと思う……たぶん……」
「いや、あー、うんー……ちょっと用事を思い出したから、冬休みのいずれかの日に遊びに行こうね!」
話題の転換には持ってこいの用事だけども、ふたりちゃんは人気者だから足早に立ち去る必要があったのかもしれない。
教室をぐるりと見渡すと、グループのメンバーも早々に立ち去っていたらしく、どことなく寂しい気持ちを抱きながら退室をする。
そのまま上履きを持ち帰るために袋に入れ、革靴に履き替えて歩き出す。
センチな気分になってしまうのは、冬の天気もあるんだと思う。寒風っていうのは体温と一緒に心の何かを吹き飛ばしてしまうんじゃないか。
太陽さんもちょっと力不足でぬくめるのには足りずに、かさばる荷物もあるので普段使いのスーパーにも立ち寄らずに直帰……暗い顔をしているかもだから寄り道と考えたのがいけなかったかもしれない。
「ど、どちら様でしょうか……」
デイゲームに臨むプロ野球選手じゃないのに皆々がサングラスをかけ、ピシッとしたスーツに高級そうなアクセサリーの類い。
成金って感じではなく……その、極まったって人々がこちらの行く先を通せんぼするように立ち塞がる。
キョロキョロと辺りを見回すけども不自然なほどに人気がない――てか、喋り声一つ聞こえてこない……見知らぬ人に吠えるワンちゃんの声も聞こえない。
「名乗る者ではありません」
長い沈黙の後でようやく返答があり、そのころには黒塗りのテカテカとした車さんが「お前を乗せるぜ」とばかりに到着。
腕に覚えがあるとは言ったけれども、血みどろの争いも厭わない方々に喧嘩を売っちゃいけない――よしんば自らが無事だったとしても家族に確実に迷惑が掛かる。
「せめて……その、荷物だけは家に帰してください」
「承知しました」
途端に身軽になる桜塚怜――丁重に扱えよ、と中でも権力のありそうな方が部下に命じている。
ささ、こちらにと私も言われるがままに車内に乗り込み、シートベルトを着用したあとで天を仰いだ。
どこで選択を間違えたんだろう……一華と付き合ったことかな? 何か粗相をしたからこれから海の藻屑になるとか? もしもだけど夜のお仕事で身体を使ったなにがしなんかすることになったら……せめて一番最初の相手は一華かありすちゃんにして欲しい。
私は立場的に「いい日和ですねぇ」とか「お仕事は何を?」とか聞けないんだけど、座った位置的には上座となっている。
律儀な扱いを受けているから……といった感じはまるでなく、あくまで逃亡禁止の観点からだと思うんだけども、高速道路を通行する辺りからなんとなく空気が弛緩した気分だ。
や、緊張を通り越してそれに慣れたからと言われればその通りかもだけど。
学校が終わってからしばらく夕焼けで空が赤くなるころ、車が旅館の前で停止した。
ずっと隣にいた親分(気質)な方がこちらへどうぞどうぞと肩を押すので賢明な私は逆らわずにハイハイと歩いて行く。
「こちらでどうぞお待ちください」
「は、はい!」
背中を直立させてどこかへと立ち去る職人気質な方々を見送り、泊まるだけで云万……いや、云十万も飛んで行きそうな高級旅館の前でたじろぐ。
陽が落ちてきたから気温も下がってきた――周囲の景色からして、中々の高度にある建物らしく、東京の夜の帳が下りるころに比べて何度か……数字的には別段大したことないのに、もうどうしようもないくらい寂しくて怖くて涙が出てくる。
「会いたいよ……一華……こんなことなら鞄くらい持ってくればよかった……」
「そ、そうだな」
両手で顔を覆って泣きだしてからちょっと、戸惑うような声が聞こえ、そこには最愛の人がものすごく困った表情を浮かべながらばつが悪そうに佇んでいた。
「もおぉぉぉぉぉぉぉ!?」
身軽だったものだから一目散に駆け寄って抱きつき、一華も多少腰砕け気味だったけどちゃんと受け止めてくれ、
「なんでこんなことしたの!? 私は何回も死を覚悟したよ!」
「いや……私は明日の朝に君と旅行に行く計画を立てて、ありすさんと綿密に会議をしていたんだが……遅いとみんなから怒られてな」
「へ?」
定番になるのは嫌だけど、一華は朝方に自宅へと潜入をし、泊まりがけの旅行に連れて行く魂胆だったらしい。
もちろん運転は毎度の……その、クリスマスにイチャイチャする我々の送迎は、たしかに申し訳が立たないけれども……と、一華に小声で言ったら「あっ(察し)」
「もう、サプライズとか良いから普通に一緒に旅行とかに行きたい……」
「あ、ああ」
「それだと貯金が心配だから、どこかでバイトしたい……」
「急に所帯じみたな!?」
サプライズだとサプライズを仕掛けた側が一方的に負担する空気があるけど、一緒に時間を示し合わせて旅行に行くとなれば金銭的には折半だ。
「まあ、ともかく中へ入ろう。雅が貸し切りにしてくれたらしいから」
「か、貸し切り!? 雅ちゃんってそんなブルジョワな人なの!?」
「まあ、あんまり実家のことは好ましく思ってないらしいが、使うべき時は使うって感じらしいぞ……胆力が恐ろしく感じるが」
「そっか……お嬢様だったんだぁ……挨拶に行った方が良いかな?」
「いや!? その、雅が実家に呼びたくないらしいからそれは遠慮した方が良いんじゃないか!?」
冷や汗をかいている一華を不思議に眺めつつ、私たちは旅館へと足を踏み入れ……その、着替えとかの「お泊まりする道具」が一切合切ないんだけど、アメニティで賄える感じなのかな。
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