熊さんちのすずらん姫

べす

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10、赤髪の男

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結局イグニス王子がしつこく食い下がり続けてくれたおかげでファルバン王子との食事の話も流れ、僕はイグニス王子グッジョブ!!とご機嫌でその場を後にする。
後ろからアルベールが面倒事を押し付けるなとか何とか叫んでいた気がするが、無視だ。
それよりも僕は出来たばかりの恋人の元へ走った。

「ベル!ベル、ベル!」

ドンドンドン!とベルが居るであろう部屋の扉を叩くと、カチャリとドアが開く。
思わず笑顔を浮かべた所で僕は知らない男の登場にそのまま固まった。

「う、わ。すっげぇ美人。…あ、もしかして君レンファくん?ベルに会いに来たの?」

そうだ、元々ここ二人部屋だし。
僕が抜けたらそりゃ誰か入るか。
でもさ、僕そんなの許せないかも!
だってベルは僕のベルになったんだし!?

「リアム、誰か来たのか?」
「あ、うん。レンファくんが来てるよ。」

遅れて登場したベルに僕はまた固まる。
だって上半身裸…。
え、まさかまさか、僕より先にコイツとエッチしたの!?
つ、付き合って二日目でう、浮気…?

さて、ここで問題だったのが僕が恋愛事に極端に疎かった事である。
某王子の閨に一度上がった経験はあれど、恋愛した事は皆無。
それというのも父様と兄様ズが僕の周りをガチガチに固めお屋敷に囲われていて、誰も近付けなかったから。
それに普通の貴族であれば使用人以外では滅多に自分から人前で肌を晒さないのを(一応家庭教師から聞いて)知っている。
なのでこれが浮気なのかそうでないのか、分からなかったのだ。

そうなれば現状から判断して、比重は悪い方へと傾く。

僕はベルの姿が目に入るやいなやブワリと目に涙が溢れた。
それに目を見開きベルが口を開いたのが見えたが、次の瞬間、転移で宿舎の裏まで飛んで逃げる。

う、ひ、酷い…ぼ、僕だってベルの裸なんて見た事なかったのに!
そりゃ僕はお風呂好きだし、兄様達とも一緒に入ってたから裸を見せるのに抵抗無いけど…普通は違うって知ってるもん!
こ、これって浮気だよね?ね!?

混乱する頭でその場で蹲っていると、ふと自分の他に誰かの気配がある事に気付く。
思わず顔を上げてみれば目の前で立ったまま致している男二人と目が合い、僕は涙が引っ込んだ。

「ッ!」
「あッ、おい!」

突っ込まれていた方は僕を見て慌てて服を戻すと、逃げる様にその場を去る。
取り残された男と僕は暫く無言で居たが、男の方が大きな溜息を吐いた事で沈黙が破られた。

「あ~~~くそッ、まだイッてなかったのに。よくも邪魔してくれたな?」

騎士であろう赤髪の男はガシガシと頭を掻きながら僕に近付いてくる。
そのまま目の前にしゃがむと、まだ乾き切ってない僕の涙を指で拭った。

「お前、今年の殿下のお気に入りだろ?すんげぇ美人だって噂だったから、見てすぐ分かったわ。何で泣いてんの、誰かに苛められた?」

男のこちらを気遣うような声にまた涙がせり上がって来る。
うう、何か兄様達を思い出してホームシックになって来た。
しかし今さっきまでバコバコしてた奴には触られたくない。

「ヤ、ヤリチンめ、触んな。」
「おいおい、酷い言い草だな。こっちはヤッてる最中に乱入されたってのに怒らず慰めてやってんだぞ?」
「じゃあ手洗った?絶対手に何かついてるだろ!」
「…あー、うん。そ、ね。それは否定しない。」
「ほらみろ!」

僕は自分と相手二人まとめて浄化すると、場所を移動しようと立ち上がる。
すると男が僕の腕を引き引き留めてきた。

「待て待て、そんな顔でどこ行く気だよ。」
「どこって一人になれるとこだよ。」
「いや、お前一人になんないほうがいいぞ。絶対襲われるから。」
「平気だよ、撃退出来るから。」
「数人で襲われたら面倒だろ?ここなら俺一人だし、なんならおにーさんが話聞いてやる。」

“おにーさん”と言う単語に思わず口を引き結び、僕は再びその場にストンとしゃがむ。
そこでいつも兄様にするようにポツリポツリと先程の事を男に話すと、話し終わる頃には男は顔に呆れを浮かべていた。

「…わー、何かこんなピュアな奴久しぶりに見たわ。それは浮気じゃねえだろ。てゆーか俺はお前が殿下とは別に恋人がいる事にビックリだね。」
「殿下は関係ないだろ!」
「無くはないがな。そもそもここは騎士団なんだぞ、上半身裸のやつなんてそこら中に居るし、なんなら部屋では全裸のやつだっているっつーの。」
「それはお前みたいなヤリチンだけだ。」
「お前ねぇ、ヤリチンヤリチン言うけど男はみんなヤリチンよ?」
「ベルはヤリチンじゃない。」
「ハイハイ。ま、とにかく浮気は誤解だろ。早く行って仲直りして来い。」

ポンッと頭に触られ、僕はガシガシと涙を拭く。
まぁヤリチンの言う事だからあまり信用出来ないが、僕も一瞬しか見てないしな。
ちゃんと部屋に入ってニオイとか確認すれば分かるよな、たぶん。

「…邪魔してごめん。」
「いいって。ほら、早く行け。」
「うん。ありがと。」

僕が笑うと、男は驚いた様に目を見張る。
その顔を最後に、僕はベルの部屋の前に転移で戻った。
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