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契約の印紋と第2王子の真実のお話。2
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長い、長い沈黙。
ルー様は私の言葉に俯いたまま、動かない。
「……ルー様?」
名前を呼んでも……こちらを向いてもくれない。
やはり、言わない方が良かったのだろうか。
それとも……王太子殿下に会って話をしてしまったのがダメだったのだろうか。
「ルー……ッ」
もう一度名前を呼ぼうとした瞬間、ルー様に抱き締められる。
───────「そうだよ。僕は死のうとしたんだ。」
ぎゅっと抱き締められていて、そう言ったルー様の表情は見れない。
けれど……抱き締める体は小刻みに震えていた。
「……何故……そんなことを……」
震えるルー様の体にそっと腕を回す。
……心做しか震えが治まる。
「……君を自由にするためには、それしか無かったんだ。兄さんから守って、悪しき慣習からも守りたかったから。僕が居なくなった後はロベルトがどうにかしてくれるはずだったんだよ。」
ゆっくりとした口調で話す。
耳元で響くルー様の声に…諦めを感じて…泣きそうになる。
「……過去にね、2人だけ居たんだ。基本的には消せない契約の印紋を付けていたのに消えたという記述のある王族が。1人は戦死、1人は病死。どちらも子どもはいたからね、3回以上の印紋を付けていたのに……亡くなった後に相手の体から綺麗に印紋が消えたんだ。」
ベニカを救うにはこれだ───と。
王太子殿下が隣国からの輿入れを打診されたのを聞いた時には考えていた、と。
優しい声色で伝えてくれたルー様。
「兄さんは周りの言いなりだから。ベニカと婚約破棄をするだろうことは明白だった。だから兄さんから君が離れた時に、印紋を付けようと。……兄さん、君に執着がありそうだとは思っていたから……抑制にはなると踏んで君を抱いたんだ。」
「まさか愛妾になれなんて言うとは思わなかったけど……結果的には僕が付けたことで君を守れて良かった。」
ぎゅうっと強く抱き締めるルー様。
この人は今生きていて、こんなに力強く抱き締めてくれているのに。
何故?
「……どうして、ルー様が死を選んでまで、印紋を消さなければならないの?」
聞けば、自嘲気味に笑う。
「だって……君は兄さんを好きだったでしょう?そんな子の貞操を奪って……責任も取れないのに、どうすればいいの?周りの都合で振り回された君にしてあげられることなんて、王城から離れて穏やかに過ごさせてあげるしかないじゃないか。」
「この国1番の人間に婚約破棄をされた君を娶ってくれる貴族なんてたかが知れてる。僕には資格がないから……それならば、少なくとも立場があって君を大事にしてくれる人間に託そうと思ったんだ。その為には……僕と性交渉をした証の印紋は消さなければならないだろう?」
"責任も取れない"
"立場があって君を大事にしてくれる人間に託そうと"
ルー様から紡がれる、距離のある言葉に……辛くなる。
ルー様の中で私は……やっぱり何でもない存在なのか……
──────「なのに。」
抱き締めていた腕を緩める。
「こうやって君が……現れたから。全て諦めて……気持ちも置いてきたのに。ねぇ、ベニカ。」
顔を上げたルー様の目は潤んでいて。
泣きそうな顔をして笑みを浮かべる。
「君を……諦めたくないよ……。君に愛されることが無くても、君の傍に居たい……!」
「ルー様……!」
いつもの余裕さなんてない、小さな子どものような顔をして私を見るから。
今度は私がルー様を抱き締める。
「ルー様は……勝手過ぎる……!」
「何故、私の為なんて理由を付けて勝手に決めてしまうの!ルー様を愛さないなんて、誰が言ったの……?!」
ルー様を抱き締めながら、ルー様の肩に顔を埋める。
「私は王太子殿下のことはとうの昔に何とも思っていないの!私は、私は……ルー様が、ルヴァスール殿下が好きなんです!」
ルー様は私の言葉に俯いたまま、動かない。
「……ルー様?」
名前を呼んでも……こちらを向いてもくれない。
やはり、言わない方が良かったのだろうか。
それとも……王太子殿下に会って話をしてしまったのがダメだったのだろうか。
「ルー……ッ」
もう一度名前を呼ぼうとした瞬間、ルー様に抱き締められる。
───────「そうだよ。僕は死のうとしたんだ。」
ぎゅっと抱き締められていて、そう言ったルー様の表情は見れない。
けれど……抱き締める体は小刻みに震えていた。
「……何故……そんなことを……」
震えるルー様の体にそっと腕を回す。
……心做しか震えが治まる。
「……君を自由にするためには、それしか無かったんだ。兄さんから守って、悪しき慣習からも守りたかったから。僕が居なくなった後はロベルトがどうにかしてくれるはずだったんだよ。」
ゆっくりとした口調で話す。
耳元で響くルー様の声に…諦めを感じて…泣きそうになる。
「……過去にね、2人だけ居たんだ。基本的には消せない契約の印紋を付けていたのに消えたという記述のある王族が。1人は戦死、1人は病死。どちらも子どもはいたからね、3回以上の印紋を付けていたのに……亡くなった後に相手の体から綺麗に印紋が消えたんだ。」
ベニカを救うにはこれだ───と。
王太子殿下が隣国からの輿入れを打診されたのを聞いた時には考えていた、と。
優しい声色で伝えてくれたルー様。
「兄さんは周りの言いなりだから。ベニカと婚約破棄をするだろうことは明白だった。だから兄さんから君が離れた時に、印紋を付けようと。……兄さん、君に執着がありそうだとは思っていたから……抑制にはなると踏んで君を抱いたんだ。」
「まさか愛妾になれなんて言うとは思わなかったけど……結果的には僕が付けたことで君を守れて良かった。」
ぎゅうっと強く抱き締めるルー様。
この人は今生きていて、こんなに力強く抱き締めてくれているのに。
何故?
「……どうして、ルー様が死を選んでまで、印紋を消さなければならないの?」
聞けば、自嘲気味に笑う。
「だって……君は兄さんを好きだったでしょう?そんな子の貞操を奪って……責任も取れないのに、どうすればいいの?周りの都合で振り回された君にしてあげられることなんて、王城から離れて穏やかに過ごさせてあげるしかないじゃないか。」
「この国1番の人間に婚約破棄をされた君を娶ってくれる貴族なんてたかが知れてる。僕には資格がないから……それならば、少なくとも立場があって君を大事にしてくれる人間に託そうと思ったんだ。その為には……僕と性交渉をした証の印紋は消さなければならないだろう?」
"責任も取れない"
"立場があって君を大事にしてくれる人間に託そうと"
ルー様から紡がれる、距離のある言葉に……辛くなる。
ルー様の中で私は……やっぱり何でもない存在なのか……
──────「なのに。」
抱き締めていた腕を緩める。
「こうやって君が……現れたから。全て諦めて……気持ちも置いてきたのに。ねぇ、ベニカ。」
顔を上げたルー様の目は潤んでいて。
泣きそうな顔をして笑みを浮かべる。
「君を……諦めたくないよ……。君に愛されることが無くても、君の傍に居たい……!」
「ルー様……!」
いつもの余裕さなんてない、小さな子どものような顔をして私を見るから。
今度は私がルー様を抱き締める。
「ルー様は……勝手過ぎる……!」
「何故、私の為なんて理由を付けて勝手に決めてしまうの!ルー様を愛さないなんて、誰が言ったの……?!」
ルー様を抱き締めながら、ルー様の肩に顔を埋める。
「私は王太子殿下のことはとうの昔に何とも思っていないの!私は、私は……ルー様が、ルヴァスール殿下が好きなんです!」
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