婚約破棄をされたのに愛妾にならないかと言われたと思ったら、いつの間にか第2王子に溺愛されていた話。

小堀 健

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契約の印紋と真実のお話。

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「ベニカ様、大っ変申し訳ございません…!」


平身低頭とはこの事、というお手本のような謝罪をするディアンナ様。


「ディアンナ様、そこまでしなくても良いのよ?頭を上げて。そこまでされたら、こちらが申し訳ないわ。」

「いいえ!ベニカ様、簡単にお許しにならないでください。私が離れたばっかりに王太子殿下に遭遇してしまったとの事…!死んでも詫びきれません…!」


熱い…熱いわ、ディアンナ様。
さすが契約に命をかけて誓う兄妹の妹…!


けれど王太子殿下に遭遇って。
王太子殿下は野犬か何かなの?


「落ち着いて、ディアンナ様。確かに王太子殿下にはお会いしたけれど何も危険な事は無かったわ。もしかして…ルー様に何か言われたの?」


頭を下げ続けるディアンナ様を宥めるように触れると、少しビクッとされた。
ルー様…女の子をこんなに怯えさせるなんて何を言ったの…?


「いえ、大して仰りはされませんでしたが「何でベニカを1人にしたの…?君を信頼して任せたのに…。」とだけ…」


憂いた表情でしたが…とポツリとこぼしたディアンナ様だけど。
分かるわ…そこはかとなく、圧を感じる。
言外に色々言われている気がするもの。


「ルー様には女の子には何があっても優しくしなさいって伝えるわ。私のことでディアンナ様が申し訳なく思っている事が申し訳ないもの。」

「いいえ、ベニカ様にお手を煩わせる訳にはいきません。ベニカ様のお側を離れたのは事実ですので、ルヴァスール殿下からは甘んじて罰を受けます。」


相変わらずかっこいいわ、ディアンナ様。
女性なのがもったいないくらいよ。


「ところで、ベニカ様はこちらにお泊まりされたそうですが…」


…いきなり話が変わるのね、ディアンナ様。
これは…さすがのディアンナ様も、私とルー様の関係が爛れているって思ったのかしら。
だって私とルー様は婚約者でも何でもないものね…


「ーーーーーもしやお仕事が終わらなかったのですか?私でお手伝い出来る事があれば何なりと申し付けください…!」


…ディアンナ様、思っていたより天然さんね。
恋愛事とか疎いとは仰っていたけれど…。

キラキラとした瞳で仕事をくれ、と語る彼女にはどこから説明しようかしら…。


「仕事では無いの。その…恥ずかしい話なのだけど…」






ーーーーーーーーーーーーー
「…ッ、もう…辞め…っ」

「…ベニカ、ベニカ。大丈夫だよ、もう終わったよ。」

「っ、…ルー様…私…」

「うなされてたねぇ。ごめんね、無理させたね。けれど君も悪いんだよ?可愛い過ぎるから。」

「かッッ…ルー様は悪いお人だわ。簡単に女性に可愛いだなんて。」

「本当のことだからね。僕にとってベニカは可愛くて綺麗な宝物だ。」


またそんなことを…。
ルー様はそんなつもり無いのかもしれないけれど勘違いしそうになるわ。
…本当に好いてくださってたら良いのに。


「ベニカ。見て?これが…成長した契約の印紋コントラクトタトゥーだよ。」


ルー様の言葉と共に動く手を追う。
ルー様の鼠径部にある印紋タトゥーは、茨のデザインが伸びて心臓付近で綺麗な青薔薇を咲かせていた。


「僕はベニカとしか性交渉をしていないからこうやって1つが成長してる。僕も成長した印紋タトゥーを実際に見るのは初めてだけど…心臓付近に咲くなんてロマンチックだね。ベニカの方は…足なんだね。」


ルー様の視線を追えば、シーツから出た私の足の甲。
そこにも何かしらの印紋タトゥーが見える。


「女性は下腹部から右足に伸びるんだね。ドレスで隠れるから良かった。」


言うとぎゅっと抱きしめられる。


「本当は2回も君を抱くつもりは無かったけれど…君が可愛い過ぎるから…触れてしまったけれど。安心して?君の将来には影響はないから。」

「それって…」

「貴族の悪しき風習なんて気にしなくていい。君は幸せになるべき人だから。全部…僕に任せていて。兄さんが成婚したら…自由にさせてあげられる。」


もしかしてルー様と婚約を…?と烏滸がましくも思ってしまったけれど。
少し、おかしいわ。
自由にさせてあげられるって…どういうこと…?


「ルー様、自由にさせてあげられるというのは……」

「……その時になれば分かるよ。大丈夫。笑って過ごせるようにしておくよ。」


またぎゅっと抱きしめるとすぐ離れて。
にこっと笑うルー様。
優しい笑顔なのにどことなく寂しそうなのは……気のせい?


「ベニカ、起き上がれる?一緒に湯浴みに行こう。ディアンナが傍にいないから今回も僕が綺麗にしてあげるね。」

「え!いえ、大丈夫!大丈夫よ、ルー様!」

「何で嫌がるの?前も恥ずかしがってなかなか湯浴み行かせてくれなかったよね。」

「当たり前です!いくら肌を合わせていても、明るいところで全て見せるなんて恥ずかしい……」

「可愛い、ベニカ。それ以上のことをしていても恥ずかしいんだね。でも……綺麗にしないといけないから。今回も僕が勝手に連れていくね。」


それから有無を言わさず、浴室に連れて行かれて綺麗にされて……
そこら辺の侍女よりも上手に私を仕上げて……送り出されてーーーーーーー今に至る。


「左様でございましたか……そこまで考えが及ばず、申し訳ございません……」


私とルー様の一日を真っ赤な顔で聞いていたディアンナ様はまたしても頭を下げていた。


「良いのよ、ディアンナ様。私とルー様は婚約者でも何でもないのだから……こんなことになっているのがおかしいの。だからディアンナ様が思い至らなくても当然よ。」

「でも、ルヴァスール殿下にとってベニカ様は特別な人です。印紋タトゥーまでつけている相手同士、そんなことにならない方がおかしいです。」

「……ディアンナ様。何でもないもの同士なのに印紋タトゥーがついていること自体がおかしいのよ。それに……ルー様にとって私は幼なじみ以外の何ものでもないわ。」


そうよ、ベニカ。
勘違いしちゃダメ。
ルー様は優しいから。
だから……可哀想に思って私に手を差し伸べてくれただけ。


どうやって自由にしてくださるのかは分からないけれど……レオナルト殿下が成婚すれば終わる関係なのだから。
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