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お転婆娘と王太子殿下のお話。
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王太子殿下に婚約破棄を言い渡され、ルー様に抱かれてから数日。
私はといえば、王属騎士団の騎士服のディアンナさんがいることで、遠巻きには陰口を言われつつもほとんど今までと同じ日々を過ごしていた。
誰が流すのか、人の噂話というのは広がるのが早い。
ルー様の采配がなければ私はもっと惨めな気持ちになっていただろう。
「本当に、ディアンナ様に傍に居ていただけてありがたいですわ。」
「少しでもお役に立てているなら幸いです。ベニカ様、本日は王城に当城予定ですが大丈夫ですか?」
「そうね…久しぶりだから少し不安だけど、ルー様があれから毎日手紙をくださってるから大丈夫だと思えるわ。」
「迎えに出て来て下さるのだとか。」
「ええ。執務の後になるから遅れるかもしれないそうだけど。」
ディアンナさんと話ながら朝の支度を終える。
今日はあの日以来、初めて王城に入る。
レオナルト様の成婚まであと数週間だから、王城内はその準備に忙しくて…元婚約者の私なんて気にされないかもしれないけど。
ーーーーーーーー
「本当に1人で大丈夫だから。ディアンナ様はそちらに向かって。」
「大変申し訳ございません!終わり次第、すぐに戻ってきますので。」
王城に着くやいなや、王属騎士団第2騎士団副団長であるディアンナ様は部下の方に呼ばれ。
団内のいざこざを納めて欲しいとのことだった。
「ディアンナ様も高い役職の方なのに、私専属騎士で侍女も兼ねていただいているなんて申し訳ないわね…」
ディアンナ様が来る前は何人かの侍女を連れて当城していたから、王城内を1人で歩くのは初めて。
だから…まるで初めて来た子どものように、王城の装飾に見とれてしまっていた。
ーーーーー「今日は1人なのか。珍しいな。」
「……王太子殿下…お久しぶりでざいます。ご機嫌麗しゅうございますか。」
突然現れたレオナルト殿下。
驚きで少し遅れたものの、すぐにいつも通りのカテーシーを披露する。
「そう固くなるな。君と私の仲だろう。」
……君と私の仲、とは?
ルー様ほど打ち解けた会話をする仲ではない、という認識なんだけど……
元婚約者同士ってことかしら?
「君と会ったのは数日前だが…元々綺麗だったが、会わない間に大人びた感じがするな。」
そう言って、フッと笑う。
精悍な顔立ちのレオナルト様は、たったそれだけで色気が増す。
前はこの笑顔を向けられるだけで…幸せだったのに。
「お戯れを。数日ごときで人が変わるはずがないでしょう。」
けれど、もしかしたら…ルー様と体を重ねたことで私も変わったのかも。
大人びたかは…分からないけれど。
「それもそうだな。…今日は何故王城に?」
「仮にも王太子殿下の婚約者でしたので…書類仕事をいくつかせねばならないのです。」
「そうだったか。それは無粋なことを聞いたな。」
「殿下はお忙しいので、ご存知ないのも無理ありませんわね。…私、急ぎますので大変申し訳ありませんが失礼致しますわ。」
レオナルト様は私が王太子殿下のお妃候補として、王太子妃教育以外に執務をしていたことさえ…ご存知ではなかったのか。
悔しいけれど…レオナルト様の中では私の存在は、所詮その程度だったのだ。
…嫌味の一つや二つ、少しくらい言っても許されるだろう。
「…ブライトナー公爵令嬢。」
踵を返した私に、声をかける。
「君は…瞳以外はシャロンにそっくりだ。」
ーーーーーシャロン。
シャロン・ツィツィーリア・ブライトナー…私の優しく美しい姉。
淡い白に近いプラチナブロンドに、アメジストを思わせる綺麗な紫の瞳の美しい人。
確かに…瞳の色以外は似ていると言われたことはあるけれど…
何?
何を仰ろうとしているの…?
「美しい姉と私が似ているだなんて…光栄ですわ。」
血の繋がった姉妹なのだから、似ていて当たり前の事。
だから何だ、という話だ。
それなのに……何故今それを?
「シャロンに似た君も、十分美しいと思うが。……君からの返事が待ち遠しい。」
この人は、誰?
本当に私が憧れた人と同じ人?
何を……言っているんだろうか。
姉と比べる発言をして…待ち遠しいなどと、私が快諾するとでも思っているのだろうか。
レオナルト様は、私の表情を見ることもなく去って行く。
ーーーきっと私の嫌な部分を締め付けるだろうことを……仰ると思っていた。
仰るだろうとは思っていたけれど……
いざ口にされると辛い。
"お前は姉の代わりでしかない"んだぞ、と言外に言われている気がして……
「何で……私がこんな思いを……」
姉のことは自慢だ。
綺麗で優しくて賢くて。
けれど……
「ーーーごめんね、ベニカ。だいぶ待たせたね。あれ?ベニカ、1人?サーチス嬢は?……ベニカ?」
後ろから、走って近づいてくる足音とともに聞こえる声。
ルー様の声。
今は……まだ聞きたくなかった。
だって……気が緩んで泣いてしまう。
「どうしたの、ベニカ。何があったの?」
私の顔を、覗き込んで優しく聞いてくれて。
泣いて何も言えない私に「触れるけれど、ごめんね」と囁いて、そっと抱きしめてくれる。
「いいよ、今は何も言わなくていい。僕が遅れたばかりに……1人にしてごめんね。」
トントン、背中を叩いて。
それでも涙の止まらない私を受け止めてくれる。
今、誰も居なくて良かった。
(厳密にはロベルト様はルー様についてるだろうけれど)
第2王子と王太子の元婚約者の密会、だなんて醜聞、ルー様に申し訳なさ過ぎる。
「……ルー様……」
「何?」
「2人きりになれるところへ……連れて行ってください……」
私はといえば、王属騎士団の騎士服のディアンナさんがいることで、遠巻きには陰口を言われつつもほとんど今までと同じ日々を過ごしていた。
誰が流すのか、人の噂話というのは広がるのが早い。
ルー様の采配がなければ私はもっと惨めな気持ちになっていただろう。
「本当に、ディアンナ様に傍に居ていただけてありがたいですわ。」
「少しでもお役に立てているなら幸いです。ベニカ様、本日は王城に当城予定ですが大丈夫ですか?」
「そうね…久しぶりだから少し不安だけど、ルー様があれから毎日手紙をくださってるから大丈夫だと思えるわ。」
「迎えに出て来て下さるのだとか。」
「ええ。執務の後になるから遅れるかもしれないそうだけど。」
ディアンナさんと話ながら朝の支度を終える。
今日はあの日以来、初めて王城に入る。
レオナルト様の成婚まであと数週間だから、王城内はその準備に忙しくて…元婚約者の私なんて気にされないかもしれないけど。
ーーーーーーーー
「本当に1人で大丈夫だから。ディアンナ様はそちらに向かって。」
「大変申し訳ございません!終わり次第、すぐに戻ってきますので。」
王城に着くやいなや、王属騎士団第2騎士団副団長であるディアンナ様は部下の方に呼ばれ。
団内のいざこざを納めて欲しいとのことだった。
「ディアンナ様も高い役職の方なのに、私専属騎士で侍女も兼ねていただいているなんて申し訳ないわね…」
ディアンナ様が来る前は何人かの侍女を連れて当城していたから、王城内を1人で歩くのは初めて。
だから…まるで初めて来た子どものように、王城の装飾に見とれてしまっていた。
ーーーーー「今日は1人なのか。珍しいな。」
「……王太子殿下…お久しぶりでざいます。ご機嫌麗しゅうございますか。」
突然現れたレオナルト殿下。
驚きで少し遅れたものの、すぐにいつも通りのカテーシーを披露する。
「そう固くなるな。君と私の仲だろう。」
……君と私の仲、とは?
ルー様ほど打ち解けた会話をする仲ではない、という認識なんだけど……
元婚約者同士ってことかしら?
「君と会ったのは数日前だが…元々綺麗だったが、会わない間に大人びた感じがするな。」
そう言って、フッと笑う。
精悍な顔立ちのレオナルト様は、たったそれだけで色気が増す。
前はこの笑顔を向けられるだけで…幸せだったのに。
「お戯れを。数日ごときで人が変わるはずがないでしょう。」
けれど、もしかしたら…ルー様と体を重ねたことで私も変わったのかも。
大人びたかは…分からないけれど。
「それもそうだな。…今日は何故王城に?」
「仮にも王太子殿下の婚約者でしたので…書類仕事をいくつかせねばならないのです。」
「そうだったか。それは無粋なことを聞いたな。」
「殿下はお忙しいので、ご存知ないのも無理ありませんわね。…私、急ぎますので大変申し訳ありませんが失礼致しますわ。」
レオナルト様は私が王太子殿下のお妃候補として、王太子妃教育以外に執務をしていたことさえ…ご存知ではなかったのか。
悔しいけれど…レオナルト様の中では私の存在は、所詮その程度だったのだ。
…嫌味の一つや二つ、少しくらい言っても許されるだろう。
「…ブライトナー公爵令嬢。」
踵を返した私に、声をかける。
「君は…瞳以外はシャロンにそっくりだ。」
ーーーーーシャロン。
シャロン・ツィツィーリア・ブライトナー…私の優しく美しい姉。
淡い白に近いプラチナブロンドに、アメジストを思わせる綺麗な紫の瞳の美しい人。
確かに…瞳の色以外は似ていると言われたことはあるけれど…
何?
何を仰ろうとしているの…?
「美しい姉と私が似ているだなんて…光栄ですわ。」
血の繋がった姉妹なのだから、似ていて当たり前の事。
だから何だ、という話だ。
それなのに……何故今それを?
「シャロンに似た君も、十分美しいと思うが。……君からの返事が待ち遠しい。」
この人は、誰?
本当に私が憧れた人と同じ人?
何を……言っているんだろうか。
姉と比べる発言をして…待ち遠しいなどと、私が快諾するとでも思っているのだろうか。
レオナルト様は、私の表情を見ることもなく去って行く。
ーーーきっと私の嫌な部分を締め付けるだろうことを……仰ると思っていた。
仰るだろうとは思っていたけれど……
いざ口にされると辛い。
"お前は姉の代わりでしかない"んだぞ、と言外に言われている気がして……
「何で……私がこんな思いを……」
姉のことは自慢だ。
綺麗で優しくて賢くて。
けれど……
「ーーーごめんね、ベニカ。だいぶ待たせたね。あれ?ベニカ、1人?サーチス嬢は?……ベニカ?」
後ろから、走って近づいてくる足音とともに聞こえる声。
ルー様の声。
今は……まだ聞きたくなかった。
だって……気が緩んで泣いてしまう。
「どうしたの、ベニカ。何があったの?」
私の顔を、覗き込んで優しく聞いてくれて。
泣いて何も言えない私に「触れるけれど、ごめんね」と囁いて、そっと抱きしめてくれる。
「いいよ、今は何も言わなくていい。僕が遅れたばかりに……1人にしてごめんね。」
トントン、背中を叩いて。
それでも涙の止まらない私を受け止めてくれる。
今、誰も居なくて良かった。
(厳密にはロベルト様はルー様についてるだろうけれど)
第2王子と王太子の元婚約者の密会、だなんて醜聞、ルー様に申し訳なさ過ぎる。
「……ルー様……」
「何?」
「2人きりになれるところへ……連れて行ってください……」
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