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第2王子と側近の騎士のお話。
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ーーーー「お戻りください、ルヴァスール殿下?」
髪の色と同じ銀色の切れ長の瞳を……心底哀れなモノを見る様に細めてそう言ったのは僕の護衛騎士である、ロベルト・サーチス。
「……お戻りくださいとは何かな、ロベルト。」
「そのままの意味ですよ。貴方はブライトナー嬢の事となるとすぐ意識が他所に行く上に、知能指数が下がるので。」
「いつまで経っても主君に対して失礼だな。」
ロベルトと軽口を交わすと執務室の椅子に腰掛ける。
ベニカと婚前交渉をしてから数刻。
あの時間が夢だったのでは無いかと思う程には現実感が無い。
ベニカが僕を受け入れて、僕を見てくれるなんて……嘘みたいだ。
……あんなに綺麗で愛らしいベニカが兄さんに捕まっていなくて良かった。
兄さんにとってベニカは……"ブライトナー嬢"でしかない。
ベニカ自身を見てなんていない。
「ブライトナー嬢とは関わらないのでは無かったのですか。王太子殿下に負けず劣らず優秀な第二王子殿下?」
「……優秀なはずの第二王子の評判を落とした張本人がよく言うよ。」
「それは申し訳無い……けれども嘘も方便、ですよ。王太子殿下の護衛なんて死んでも御免なので。とはいえ貴方をやっかむ子爵令息の愚痴をちょっと拝借しただけなんですが、貴方もお止めにならないから。」
「……王位継承権なんて興味が無いからね。お陰で無駄な画策をしなくて良くなって、ロベルトの機転に感謝してるくらいだ。」
ロベルトはフッと笑う。
「王位継承権と一緒にブライトナー嬢も捨てたのでは?」
「人聞きが悪いな。彼女への気持ちを諦めていただけだ。家の為に、姉の様にと王太子妃候補として頑張っている彼女には迷惑でしか無かったから。」
「……なら何故、触れてしまったんです?放って置けば良いものを。」
「ベニカはもう、兄さんの婚約者では無いからね。それに……悲しんでいる彼女を、僕が放っておけなかった。」
元気で明るくて、太陽の様に眩しいベニカ。
品行方正、優秀がドレスを着ているような姉と比べて、
お転婆で何をしでかすか分からないくらいの破天荒さが……彼女の魅力でもあった。
それが病に倒れた姉に代わり、婚約者候補に選ばれた直後からなりを潜めていった。
元々地頭は良いし、教えれば出来るなんて知ってはいたけど。
「ロベルトは気づいていたか?ベニカが笑わなくなったこと。」
「いえ?何度か見かけましたが、笑っている姿しか見ていませんが……」
「固い微笑みだろう?……兄さんは婚約者の令嬢として扱って、ベニカ自身を見ていないから労わないし、気づきもしない。」
昔から真面目で優秀で上っ面は良くて……大人からは好かれる兄。
生まれてからずっと王太子となるべくして育てられたのも相まって、あの人は与えられたものをそのまま受け取るだけで本質なんて見ようともしない。
「辛かったよ、太陽みたいに輝いていたベニカの笑顔が無くなっていくことが。
……でも、真面目で融通の効かない兄がベニカを手放した。
そこに手を伸ばさない理由が無いだろう?勝手に婚約者候補にされて、勝手に破棄されて。他人に振り回され続けた彼女を助けたいと思うのは自然の摂理だ。」
「だからといって、契約の印紋までつける必要があったのですか。」
「……あれは必要だった。兄に捕まってしまえば、ベニカは妃としても扱われず、子も作れず……生涯を終える。そんなの、僕が耐えられない。彼女は人並みに幸せになるべきだ。」
「貴方になら、それが出来ると?」
ロベルトの言葉に自嘲気味に笑う。
「そういえば、お前はかつてベニカを好きだった事があるよな。」
「なっ……?!何故今それを……それは、学園に入りたての頃で……って今は全くもってそんな気持ちはないぞ?!」
「ははっ。分かっているよ。そんなお前だから言うが……僕に何かがあったらベニカを頼むよ。」
「は?」
「悪しき風習で未婚令嬢は処女性が重視される貴族社会で、ベニカの純潔はもう無い。その上国1番の人間に婚約破棄をされている。公爵を悪し様に言いたくは無いが……相手として宛てがわれるのはあまり良い相手は望めないだろう。」
それならば。
少なからず……ベニカに良い感情があって、若くて実績も家柄も申し分ない人間に傍にいて欲しい。
「……殿下がブライトナー嬢を娶れば良いではないですか。」
「…駄目だ。そもそも……恐らく彼女は兄を好いている。兄も成婚すれば……愛妾など諦めると踏んで、今回印紋を刻んだけれど……それだけだ。兄のことも僕のことも彼女にとって嫌な思い出しかないだろうに、そんなところに縛りつけられないだろう?」
それに……契約の印紋を消す時には僕はここにはいないから。
髪の色と同じ銀色の切れ長の瞳を……心底哀れなモノを見る様に細めてそう言ったのは僕の護衛騎士である、ロベルト・サーチス。
「……お戻りくださいとは何かな、ロベルト。」
「そのままの意味ですよ。貴方はブライトナー嬢の事となるとすぐ意識が他所に行く上に、知能指数が下がるので。」
「いつまで経っても主君に対して失礼だな。」
ロベルトと軽口を交わすと執務室の椅子に腰掛ける。
ベニカと婚前交渉をしてから数刻。
あの時間が夢だったのでは無いかと思う程には現実感が無い。
ベニカが僕を受け入れて、僕を見てくれるなんて……嘘みたいだ。
……あんなに綺麗で愛らしいベニカが兄さんに捕まっていなくて良かった。
兄さんにとってベニカは……"ブライトナー嬢"でしかない。
ベニカ自身を見てなんていない。
「ブライトナー嬢とは関わらないのでは無かったのですか。王太子殿下に負けず劣らず優秀な第二王子殿下?」
「……優秀なはずの第二王子の評判を落とした張本人がよく言うよ。」
「それは申し訳無い……けれども嘘も方便、ですよ。王太子殿下の護衛なんて死んでも御免なので。とはいえ貴方をやっかむ子爵令息の愚痴をちょっと拝借しただけなんですが、貴方もお止めにならないから。」
「……王位継承権なんて興味が無いからね。お陰で無駄な画策をしなくて良くなって、ロベルトの機転に感謝してるくらいだ。」
ロベルトはフッと笑う。
「王位継承権と一緒にブライトナー嬢も捨てたのでは?」
「人聞きが悪いな。彼女への気持ちを諦めていただけだ。家の為に、姉の様にと王太子妃候補として頑張っている彼女には迷惑でしか無かったから。」
「……なら何故、触れてしまったんです?放って置けば良いものを。」
「ベニカはもう、兄さんの婚約者では無いからね。それに……悲しんでいる彼女を、僕が放っておけなかった。」
元気で明るくて、太陽の様に眩しいベニカ。
品行方正、優秀がドレスを着ているような姉と比べて、
お転婆で何をしでかすか分からないくらいの破天荒さが……彼女の魅力でもあった。
それが病に倒れた姉に代わり、婚約者候補に選ばれた直後からなりを潜めていった。
元々地頭は良いし、教えれば出来るなんて知ってはいたけど。
「ロベルトは気づいていたか?ベニカが笑わなくなったこと。」
「いえ?何度か見かけましたが、笑っている姿しか見ていませんが……」
「固い微笑みだろう?……兄さんは婚約者の令嬢として扱って、ベニカ自身を見ていないから労わないし、気づきもしない。」
昔から真面目で優秀で上っ面は良くて……大人からは好かれる兄。
生まれてからずっと王太子となるべくして育てられたのも相まって、あの人は与えられたものをそのまま受け取るだけで本質なんて見ようともしない。
「辛かったよ、太陽みたいに輝いていたベニカの笑顔が無くなっていくことが。
……でも、真面目で融通の効かない兄がベニカを手放した。
そこに手を伸ばさない理由が無いだろう?勝手に婚約者候補にされて、勝手に破棄されて。他人に振り回され続けた彼女を助けたいと思うのは自然の摂理だ。」
「だからといって、契約の印紋までつける必要があったのですか。」
「……あれは必要だった。兄に捕まってしまえば、ベニカは妃としても扱われず、子も作れず……生涯を終える。そんなの、僕が耐えられない。彼女は人並みに幸せになるべきだ。」
「貴方になら、それが出来ると?」
ロベルトの言葉に自嘲気味に笑う。
「そういえば、お前はかつてベニカを好きだった事があるよな。」
「なっ……?!何故今それを……それは、学園に入りたての頃で……って今は全くもってそんな気持ちはないぞ?!」
「ははっ。分かっているよ。そんなお前だから言うが……僕に何かがあったらベニカを頼むよ。」
「は?」
「悪しき風習で未婚令嬢は処女性が重視される貴族社会で、ベニカの純潔はもう無い。その上国1番の人間に婚約破棄をされている。公爵を悪し様に言いたくは無いが……相手として宛てがわれるのはあまり良い相手は望めないだろう。」
それならば。
少なからず……ベニカに良い感情があって、若くて実績も家柄も申し分ない人間に傍にいて欲しい。
「……殿下がブライトナー嬢を娶れば良いではないですか。」
「…駄目だ。そもそも……恐らく彼女は兄を好いている。兄も成婚すれば……愛妾など諦めると踏んで、今回印紋を刻んだけれど……それだけだ。兄のことも僕のことも彼女にとって嫌な思い出しかないだろうに、そんなところに縛りつけられないだろう?」
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