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「おれ、本当は爺ちゃんみたいなデザイナーになりたかったんだ。でも、そっちの才能は全くなくて、でも、コレクションの舞台裏観てたとき、メイクとか髪型とかも含めてスタイルは完成するんだって思って、だったらおれはこれをやろうと。そしてより完璧なスタイルを創ろうって思って方向転換したんだけど、専門学校入って周りの奴らのほとんどが専門学生ってことに甘んじてて言ってることはデカくてやってる事は中途半端で温度差を感じてばっかりだったんだけど、井上さんは違ったじゃん。群れないし、つるまないし、ひたすらウィッグと向き合ってて、ずっと練習して、授業中だっていつでも真剣でストイックだった。その姿が凄く新鮮で素敵だった。でも、話してみたら隙だらけだし、なんにも知らないし、可愛いし、あの夜失敗して振られたけど、おれ、もう、あなた以外に興味が持てないんだ」
そっと肩に触れる手が震えている。ゆっくり促され、私は小野塚くんと向き合う。
「出直してきたから、チャンスをくれない?」
ドキドキしすぎて、頭に酸素がいってない。
「それとも、井上さんって、アロマンティックとかアセクシャルだったりする?」
「えっと、なにそれ?」
「恋愛感情とか性的欲求がないタイプ。知り合いにもいるんだけど――、そうだったら、こんなの迷惑だろ」
「そうじゃないけど……」
「じゃ、単純におれは井上さんの好みじゃない?」
じっと見つめられて、顔に熱が集中する。だめだ。私、この瞳に勝てない。
「大会で優勝したとか、ナショナルチーム入りがどうとか、結構おれの動向気にしてくれてるなーと思うのは自意識過剰? こんなふうにパーソナルスペース詰めても怒んないし、嫌われてはないよね?」
「ない……」
「釣り合うとか合わないとかそんなこと抜きにして、おれのこと、どう思う?」
「……あの夜、私、女として魅力がなくて、ダメだったんだって、思ってて……」
「違う。好きな人を前に緊張しすぎてダメだったんだよ」
「あれは小野塚くんの、ちょっとした好奇心とか、気まぐれな遊び相手だと、思って……」
「そんなふうに思わせてごめん。でもそうじゃない」
「私、小野塚くんのこと好きだったんだ」
口に出した途端、ぶわわっと顔中に熱が散った。それは小野塚くんも同じで、真っ赤になって眼を見張っている。
「マジで……?」
「……うん。すき。今も」
向き合ったまま、互いに下を向いて、頭がぶつかった。
「ごめん!」
「私こそ」
目が合って、思わずそらして、もう一度、小野塚くんを見ると、どちらからともなくキスをした。
そっと肩に触れる手が震えている。ゆっくり促され、私は小野塚くんと向き合う。
「出直してきたから、チャンスをくれない?」
ドキドキしすぎて、頭に酸素がいってない。
「それとも、井上さんって、アロマンティックとかアセクシャルだったりする?」
「えっと、なにそれ?」
「恋愛感情とか性的欲求がないタイプ。知り合いにもいるんだけど――、そうだったら、こんなの迷惑だろ」
「そうじゃないけど……」
「じゃ、単純におれは井上さんの好みじゃない?」
じっと見つめられて、顔に熱が集中する。だめだ。私、この瞳に勝てない。
「大会で優勝したとか、ナショナルチーム入りがどうとか、結構おれの動向気にしてくれてるなーと思うのは自意識過剰? こんなふうにパーソナルスペース詰めても怒んないし、嫌われてはないよね?」
「ない……」
「釣り合うとか合わないとかそんなこと抜きにして、おれのこと、どう思う?」
「……あの夜、私、女として魅力がなくて、ダメだったんだって、思ってて……」
「違う。好きな人を前に緊張しすぎてダメだったんだよ」
「あれは小野塚くんの、ちょっとした好奇心とか、気まぐれな遊び相手だと、思って……」
「そんなふうに思わせてごめん。でもそうじゃない」
「私、小野塚くんのこと好きだったんだ」
口に出した途端、ぶわわっと顔中に熱が散った。それは小野塚くんも同じで、真っ赤になって眼を見張っている。
「マジで……?」
「……うん。すき。今も」
向き合ったまま、互いに下を向いて、頭がぶつかった。
「ごめん!」
「私こそ」
目が合って、思わずそらして、もう一度、小野塚くんを見ると、どちらからともなくキスをした。
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