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第9章 霧雨家

第43話 能力

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「霧雨一族には代々、『神がかりな力』が宿った。時代が時代なら支配者として君臨したが、その力を恐れた人々に迫害された時もあった。『魔女狩り』のようにな」

 いやいやいや、そんな陰謀論なんかどうでもいいから、『レインフォール』なる家名について詳しく教えてよ! なんで、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』のユニークウェポンの名前と同じなの? 偶然?

 などと言い出す雰囲気ではないので、大人しく話の続きを聞く。

「自己紹介がまだだったな。私の名前は霧雨きりさめ浩人ひろと。これでも、霧雨一族の宗家当主だ。ちなみに、お前をさらってきた男達も、やはり一族の血筋だ」
「じゃあ、親戚? 親戚が、なぜこんなことを?」
「それは、お前の…お前達の今の両親が、一族に敵対し始めたからだ。その強力な力を用いてな」

 え、ウチの両親、人外だったの!? 私もこんなだし、拓也くんだけが家族で仲間はずれだよ! 普通のVRゲーマーで良かったね! うん、ちょっと混乱している。

「強力な…力?」
「一族の力にはいろいろあるが、お前達の両親は共に『暗示』、すなわち、精神に干渉する力。それは、多くの人間を思い通りに操れる」
「思い、通りに…」
「ひとつの都市くらいなら、週に一度の干渉で、議員選挙の結果を決定づけることも可能だ」

 なにそれ、世論操作ができるってこと!? うわあ、現代でそれはとんでもないよ!

「ひとりでもそれが可能であるのに、ふたり共に同レベルの能力だ。従兄弟同士だったこともあって小さい頃から気が合い、その能力を一族のためにふんだんに発揮してきた」

 従兄弟同士だったことも初耳だけど、昔から一族のためにって…。

「宇宙開発促進の世論操作は効果的だった。一族が所有している企業群は、月や小惑星帯の資源を欲していたからな。工場と労働者の移転を進めたい国々にもな。だが、ここ数年は…」

 そう、『仮想世界へのフルダイブ』が流行っている。その影響か、宇宙旅行どころか、国内外を問わず普通の旅行や移住までもが減少しているのだ。私達は、その昔どの学校でも実施されていたという『修学旅行』を経験していない。

「それもこれも、お前達の両親が世論操作をやめるどころか、仮想世界の促進を進めるような操作をしているからだ」
「じゃあ、今、あなた達が待ち構えているのは」
「お前達の今の両親、霧雨大志たいしと霧雨由良ゆらだ。無理矢理にでも、理由を聞く。これまで、その力でずっと接触さえできない状況だ」

 うーん、どういう感じなんだろう、お父さんとお母さんの力って。もしかして、私や拓也くんも今まで精神操作されていた? でも、こうして聞いた後も、さっぱり心当たりが…。

 ガチャ

「あらー、美奈子に全部話しちゃったわよ、この宗家のぼっちゃま」
「昔から本当に変わらんな、この子は」
「若くして当主となるよう、言い聞かされてきたからかしらねえ」

 …えっと、お父さんとお母さんが、ふつーに部屋に入ってきたんですけど。しかも、立ち聞きしてた? さっきの人達はどうしたの?

「ふたりとも、いつここに?」
「ああ、美奈子、やっぱりあなたには効いてないのね」
「素性がわからず、能力の無効も原因不明のまま、一族のことを知られてしまうとはな」
「はあ」
「…なんだ? 急に扉を見て、喋り出して」

 え、もしかして、その『力』とかいうの使ってるの? この、霧雨浩人って人に。

「そうだな、VRゲーム風に言えば『認識阻害』というやつかな? 浩人くんには、私達の姿や声どころか、存在自体が認識できない」
「『盲点』の応用? 特定のものを見たり聞いたりすること自体、できなくしてるの」
「だから、お前が私達と話していても、彼は不審に思うことはあれど、私達がここに存在すること自体、思い至らないのだよ」

 いえ、ゲームの認識阻害は、そんな凶悪なものではありません。せいぜい、存在をあいまいにするとか、ステータス偽装とか。『コナミ・サキ』だって、存在自体を変えてるわけじゃないし。確かに、これは『神がかり』だわ。

「はあ…。とにかく、その力を使うのをやめて…あ、それはまずい。すぐに機動隊が来るんだっけ」
「そうなのよ…って、美奈子、なぜそれを!?」
「機動隊だと!? おい、どういうことだ!」
「暗号化された警察無線の傍受は、我々『隠密派』でも厳しいのに、なぜ…!?」

 ああ、いろいろこんがらがった。さて、一番簡単なのは…。

『…あー、姉さん、今、いいか?』
『なに? 拓也くんにも、私が見聞きしていたイメージが伝わっているよね?』
『ああうん、それはありがたかった。それでだな、ユリシーズさんから「緊急クエスト」が入ってんだよ』
『こんな状況で!?』
『いや、この状況を解決するための指示なんだわ、これが』

 ということは…『NPC制御システム』が?
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