102 / 106
第9章 霧雨家
第42話 一族
しおりを挟む
キキッ
「よし、降りろ!」
「…っ! 乱暴、しないで」
「しねえよ、せっかくの人質だしな」
「人質…?」
拓也くんを誘拐したり私に復讐しようとしていた男達と似ているが、何か違う。あれはなんというか、邪な雰囲気があったというか。誘拐の時点で邪以外の何者でもないけど。ただ、今回は…。
「ほら、さっさと乗れ」
「…小型クルーズ船?」
「そうだ。俺達の雇い主がいる」
なるほど、ただの雇われ犯か。淡々としているわけだな。
雨は止んでいるが、もうだいぶ暗い。埠頭に停泊中の船にこの面子で乗り込んでも、離れたところからでは誰が誰だかわからないだろう。下手をすると、隠蔽されたまま国境を越えてしまう?
『という感じ?』
『だから、なんでそんなに落ち着いてんだよ!?』
『たぶん、こうして拓也くんと話しているからだと思うよ? 「フォークロア・コーポレーション」には連絡したんでしょう?』
『ああ! なんか、現地の警察と本部の機動隊が既に動いてるってよ。けど、その船が出港しちまったら…!』
『機動隊って…そんなに早く動くものなの?』
『よくわかんねえけど、姉さんの「依頼」成果の恩恵をすぐに発揮するとかなんとか?』
『ああ、あの防御スキル付与の魔石かなあ。量産できるまでには時間がかかるはずなんだけど』
『姉さん、何してきたんだ…。とにかく、船が出港するようならすぐ知らせてくれ!』
『ん、わかった』
そんな『会話』を拓也くんとしている間に、誘拐犯達と共に、船の中の部屋に到着する。
◇
「俺だ。予定通り、連れてきた」
「入れ。早かったな」
バタン
部屋には、20代後半に見えるスーツ姿の男が座っていた。リアルのユリシーズさんよりは年上かな?
「ふむ、確かに。しかし、なるほどな…」
「俺達は、待ち構えていればいいか?」
「そうだな。あのふたりが来たら、丁重なおもてなしを」
「わかった」
バタン
「そこのソファに座ってくつろいでくれ。誘拐されて、くつろぐのも無理な話だろうが」
「…目的は、なに? 人質って言っていたけど」
「そう尋ねるということは、本当に知らないようだな、両親のことを」
「両親?」
両親…って、どっちの両親のことだろう?
「美奈子…と言ったな。お前は、両親のことをどれだけ知っている?」
「拓也くん…弟と一緒に、私達を小さい頃に引き取ったってことは」
「それは知っていたか…。そのきっかけとなった事件は?」
「わからない。両親も、知らないはず。調べてはいるみたいだけど」
というのは、拓也くんから聞いた話だ。あと、事件そのものについては、ユリシーズさんからも。
「我々にもわからん。だが、背景はわかっている」
「『我々』…?」
「そうだ、我々霧雨一族。数千年の間、世界を裏から支配してきた血脈」
「…」
「胡散臭いと思うのは当然だが、事実だ」
「はあ」
いやだって、ねえ。
「もちろん、世界中で『霧雨』を名乗っているわけではない。そうだな、英語圏では…『レインフォール』と名乗っている」
…なんですって?
◇
「あなた、あと10分もせずに機動隊が到着するみたいよ」
「なんということだ…。『フォークロア・コーポレーション』が、ここまで力を有していたとは」
「まずいわね。未だ『ミリアナ・レインフォール』の正体さえ、つかんでいないというのに」
「あの会社は底が知れん。いや、会社というより、『NPC制御システム』か」
「『現界』についてもガードが固くて、詳細がわからないし」
「美奈子はもちろん拓也にも我々の力が通用しない以上、無理はできないしな」
「とにかく、もう行きましょう? 警察が介入したら隠蔽が困難になるわ。私達はもちろん、一族の『宗家』にも」
「そうだな。それで、美奈子に知られることになっても…」
「あなた、美奈子ならわかってくれるわ。それに、あの娘の素性のことも」
「ああ。行こう」
「よし、降りろ!」
「…っ! 乱暴、しないで」
「しねえよ、せっかくの人質だしな」
「人質…?」
拓也くんを誘拐したり私に復讐しようとしていた男達と似ているが、何か違う。あれはなんというか、邪な雰囲気があったというか。誘拐の時点で邪以外の何者でもないけど。ただ、今回は…。
「ほら、さっさと乗れ」
「…小型クルーズ船?」
「そうだ。俺達の雇い主がいる」
なるほど、ただの雇われ犯か。淡々としているわけだな。
雨は止んでいるが、もうだいぶ暗い。埠頭に停泊中の船にこの面子で乗り込んでも、離れたところからでは誰が誰だかわからないだろう。下手をすると、隠蔽されたまま国境を越えてしまう?
『という感じ?』
『だから、なんでそんなに落ち着いてんだよ!?』
『たぶん、こうして拓也くんと話しているからだと思うよ? 「フォークロア・コーポレーション」には連絡したんでしょう?』
『ああ! なんか、現地の警察と本部の機動隊が既に動いてるってよ。けど、その船が出港しちまったら…!』
『機動隊って…そんなに早く動くものなの?』
『よくわかんねえけど、姉さんの「依頼」成果の恩恵をすぐに発揮するとかなんとか?』
『ああ、あの防御スキル付与の魔石かなあ。量産できるまでには時間がかかるはずなんだけど』
『姉さん、何してきたんだ…。とにかく、船が出港するようならすぐ知らせてくれ!』
『ん、わかった』
そんな『会話』を拓也くんとしている間に、誘拐犯達と共に、船の中の部屋に到着する。
◇
「俺だ。予定通り、連れてきた」
「入れ。早かったな」
バタン
部屋には、20代後半に見えるスーツ姿の男が座っていた。リアルのユリシーズさんよりは年上かな?
「ふむ、確かに。しかし、なるほどな…」
「俺達は、待ち構えていればいいか?」
「そうだな。あのふたりが来たら、丁重なおもてなしを」
「わかった」
バタン
「そこのソファに座ってくつろいでくれ。誘拐されて、くつろぐのも無理な話だろうが」
「…目的は、なに? 人質って言っていたけど」
「そう尋ねるということは、本当に知らないようだな、両親のことを」
「両親?」
両親…って、どっちの両親のことだろう?
「美奈子…と言ったな。お前は、両親のことをどれだけ知っている?」
「拓也くん…弟と一緒に、私達を小さい頃に引き取ったってことは」
「それは知っていたか…。そのきっかけとなった事件は?」
「わからない。両親も、知らないはず。調べてはいるみたいだけど」
というのは、拓也くんから聞いた話だ。あと、事件そのものについては、ユリシーズさんからも。
「我々にもわからん。だが、背景はわかっている」
「『我々』…?」
「そうだ、我々霧雨一族。数千年の間、世界を裏から支配してきた血脈」
「…」
「胡散臭いと思うのは当然だが、事実だ」
「はあ」
いやだって、ねえ。
「もちろん、世界中で『霧雨』を名乗っているわけではない。そうだな、英語圏では…『レインフォール』と名乗っている」
…なんですって?
◇
「あなた、あと10分もせずに機動隊が到着するみたいよ」
「なんということだ…。『フォークロア・コーポレーション』が、ここまで力を有していたとは」
「まずいわね。未だ『ミリアナ・レインフォール』の正体さえ、つかんでいないというのに」
「あの会社は底が知れん。いや、会社というより、『NPC制御システム』か」
「『現界』についてもガードが固くて、詳細がわからないし」
「美奈子はもちろん拓也にも我々の力が通用しない以上、無理はできないしな」
「とにかく、もう行きましょう? 警察が介入したら隠蔽が困難になるわ。私達はもちろん、一族の『宗家』にも」
「そうだな。それで、美奈子に知られることになっても…」
「あなた、美奈子ならわかってくれるわ。それに、あの娘の素性のことも」
「ああ。行こう」
0
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる