上 下
90 / 106
第6章 並木リナ

第30話 ゲームを続ける理由

しおりを挟む
 土曜日午後の、フォークロア・コーポレーション本社。

「ということで、美奈子さん、休みましょう!」
「り、リナちゃん!? え、えっと、これからミーティングなんだけど…」
「私がユリシーズさんに言って、キャンセルさせました!」
「えええ…」

 何言ってるのこの娘? 頭大丈夫? みたいな顔をされた。確かに、いきなりこんなことを言ったら当たり前かもだけど、ちょっとショック。
 しかたがないので、事前に打ち合わせたユリシーズさんを召喚する。

「リナさんの言うとおり、今日は休みにしましょう。この間の連続『出動』の際に、いろいろと情報交換しましたし。は急ぐものではありませんし、またの機会に」
「ユリシーズさんが、そう言うなら…」

 あー、あーあーあー、今度はワーカホリックの顔だー。きっと『だったら、ここでフルダイブ装置を借りて、のための「暴発」エンチャントの魔石を大量生産して…』なーんて、考えているに違いない!

「…なーんて、考えてませんよね?」
「え、な、なに?」
「ミリアナの防衛戦なんて、『魔剣レインフォール』と通常スキル付与だけでいけますよね? 『暴発』エンチャントの魔石なんて、ライナとの戦闘を除けば、それこそ『緊急クエスト』くらいにしか使いませんよ?」
「…」

 図星だったようだ。本当に、もう。

「美奈子さん、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』は緊急クエストのためだけのシステムじゃないですよ? もともとなんのために始めたか、忘れちゃいました?」
「そ、それは、拓也と、一緒に…」
「また、すれ違っちゃってもいいんですか?」
「え…」

 あ、悲しい顔に…って、絶望的なまでの顔になっていく!? は、話を、話を穏便な方向にしていかないと!

「み、美奈子さんは、なぜ最終クエストをクリアしようと思ったんですか?」
「…え? えっと、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』の最大の目的だったから…」
「でも、美奈子さんは、クリアした後も楽しんでますよね? 『現界』を抜きにしても」
「そう…だね…」

 腑に落ちたような顔をする美奈子さん。よし、もうちょっと!

「美奈子さんって、最終クエストをクリアしたら、霧雨くんにミリアナの正体を明かすつもりだったんじゃないんですか?」
「…うん、そう、だったと思う。というか、『ミリアナ』に作り変えたのも、拓也くんに合流するためだったから…」

 で、たまたま『魔剣レインフォール初めてのユニークウェポン』を獲得してワールドアナウンスで変に有名になって、霧雨くんに言い出せなくなっちゃったと。悪循環だなあ。

「そして今度は『現界』能力のせいで言えなくなったと。美奈子さんが、『緊急クエスト』にハマっているのも…」
「…かもね。クエストクリアをひたすら進めば、その先に、拓也くんがいるような気がして」
「拓也くんも『緊急クエスト』に関わるようになっていますから、あながち間違いでもないですけど」
「ユリシーズさんは黙ってて」
「はい」

 霧雨くんまでワーカホリックにさせてどーすんの。

「でも、今日は拓也くん、ギルメンと領地開発を進めるって言ってたけど。リナちゃんはいいの?」
「私は、戦闘メイドと同じく前衛ですから。そういう意味では、霧雨くん…ヘラルドもですけど」
「ああ…」

 そういえば、クラスメートのふたりも美奈子さんに話したって言ってたよね。覚えていたようだ。

「じゃあ、どうしようかな。家に戻って、拓也くんが好きなお菓子でも作ろっかな…」
「それもいいですけど…。『いつかミリアナの正体を明かす』ためのその1、を進めてみてもいいと思うんですよ」
「たとえば?」
「たとえばですね、私が美奈子さんの代わりに『緊急クエスト』をバンバンこなすとか!」
「…はい?」

 バンバンこなすんだからね!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...