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第5章 優希と優真、そして三人娘

第24話 霧雨家

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 ふおんっ

「あれ? ここどこ?」
「初めて来る…お酒が出る店?」
「ギルマス、優真くん…ユーキくんはまだ小学生だよ!」
「ミナ…いや、コナミか、彼女がここを指定したんだよ」

 『ファラウェイ・ワールド・オンライン』エリア1中央噴水前近くの路地裏にある、バー『雨宿り』。ミリアナがオーナーで、コナミも待ち合わせや雑談によく使う。この3人がいなければ、ここでも良かったんだけど。

「ご、ごめんください…。あ、ユーキくん!」
「マリちゃん! 時間ぴったりだね」

 ひとりの男性ヒューマンアバターと一緒に、獣人アバターで狐耳…かな、そんな姿の女の子がバーに入ってきた。この子が友達のようだ。一緒にいるのはお父さんだろう。

「あら、友達って女の子だったの? 霧雨さんのファンって言うから、てっきり」
「じゃあ、本当の意味でファンなのね。ということは…あらあら、まあまあ」
「ヘタレ兄と違って、ユーキくんぐっじょぶ」

 うん、最後の言葉はスルーしよう。

 お友達のお父さんアバターと話をし、フレンド登録や待ち合わせ時刻の確認をして別れる。ボクがこの娘の保護者を引き継ぐ形だ。

「それじゃあ、早速『現界』しようか。あ、ボクがユーキ…優真の兄です」
「マリです。本名も『真理まり』って言います」
「よろしく。それじゃあみんな、僕につかまって」

 ピッピッ

現実世界Real Worldの『霧雨家・リビング』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】

 〔はい〕を、ぽちっと。



「はあ…これだから変態集団は」
「ごめん、拓也たくやくん…」
「アンタには期待してねえから、別にいいけど」

 そう言われると、ますます悲しくなるんだけど。

 無事にミナの家のリビングに『現界』した僕達6人を迎えたのは、ミナではなく拓也くんだった。

「美奈子姉さんは近所のスーパーに買い出しに出てる。少し待っててくれってよ。ほら、ジンジャーエール」
「あ、ああ、ありがとう。…ちょっと、苦い?」
「ギルマス、味覚が子供」
「コーヒーも、砂糖とミルクたくさん入れてるよね」
「この間の夕食でも、ハーブ料理が苦手だった。残念」

 ミナの家でまで、言われ放題…。

「そっか、美奈子さんのファンなんだ。私もだよ!」
「はい! 初めて会うの、楽しみです。本当は、生身で会いたかったんですけど」
「僕もそうだけど、やっぱりちょっと現実感がないんですよね。VRゲームやってる時と同じで」
「『アバター同期率』のせいかな? 通信状態が悪いと特にそうかもね」
「やっぱり詳しいんですね。はー、並木さんにも引っ越す前に会いたかったです」
「私が転校したのも最近だからね。学校が近くても、入れ違いになっちゃったかな」

 そしてなぜか、拓也くんのクラスメートで、『フォークロア・コーポレーション』社長の娘でもある、並木リナさんも来ている。拓也くんがわざと呼んだらしい。本当に、なぜに。いや、わかってるけど。

「ミナも含めて9人かあ。多くなっちゃったね」
「あの連中が来なければ6人で済んだんだけどな」
「いやもう、本当に面目ない」
「苦労してるのは知ってるけどな。でもよ、あの3人、姉さんは別としても、それでもあんたのこと好きだよな?」
「えっと…そうなの、かな?」
「他のギルメン女子よりはそうだろうよ。幼なじみなんだって?」
「不本意ながら…」

 かれこれ、幼稚園以来だ。ベッタリというわけではないし、今だってクラスが別だけど、それでも、同じ学校に通い続けている。高校は別の市にあるし、偶然…だと思いたい。

「リアルハーレムか。せいぜい刺されないようにな」
「キミは、天空城ミストライブラのメイドさん達とうまくやってるようだね」
「しょせんはNPCだしな。っていうか、最近は姉さんとの方が仲良くて」
「らしいね。でも、話題はキミのことばかりなんじゃないのかい?」
「いや、まあ…」

 拓也くんが、ミナを姉以上に想っていることは明らかだ。しかも、ふたりは血がつながっていないのではないかという、もっぱらの噂である。似ていないということもあるが、霧雨家はふたりが小さい頃にこの街に越してきたことから、それ以前のことが不明なのである。実のところ、御両親の仕事もよくわからない。シフトが入りやすい会社員ということらしいが…。

「まあ、それでも僕はあきらめてないけどね」
「そーかい」
「…あっさり、してるんだね。自信があるのかな?」
「別に。アンタが『何を』あきらめていないかとか興味ねーし」

 そりゃあ、まあ、ミナも明らかに拓也くんのことを意識しているしね。拓也くんが姉弟の関係を思い悩んでいるのが丸わかりなのに対し、ミナは特にこだわっているように見えない。だから、未だ家族愛の域を超えていないと解釈できなくもないけど、ミナは良くも悪くも自覚というものがない。普段の様子を見る限り、無自覚に惚れ込んでいる可能性さえある。

「ただいまー。お待たせ…って、あれ、人口密度が高い」
「おかえり、ミナ。ごめん、またあの3人が…」
「ああ、なるほど」
「姉さん、物分り良すぎ」

 ミナが、買い物袋を抱えてリビングに入ってきた。小柄なミナには重そうだ。

「あら、あなたが優真くんのお友達?」
「は、はい、真理っていいます! 初めまして!」
「霧雨美奈子です。よろしくね。あ、そうそう。『現界』のことは、できれば内緒にしてね」
「大丈夫です、誰も信じませんから!」
「なのよね…」

 そういえば、この真理って子、『現界』については特に驚くことはなかったけど、ミナとの初対面は興奮しているんだよね。うん、まあ、気持ちはわかるけど。

「それじゃあ、少し待っててね。アップルパイ焼くから。ジンジャーエールに合うんだ!」
「楽しみです!」
「み、美奈子さんの手作り料理…!」
「じゅるり」
「ごくり」
「はぁはぁ」

 な、なんか、優真の教育に悪い反応が一部の方向から…。

「というか、『現界』組はいい加減、装備外せよ。エルフ耳や狐耳はともかく、そこの3人は剣と鎧、アンタはそのクソでかい盾」
「えっと、アイスフィールドは、あの時と同じく、この壁でいいかな?」
「いいんじゃね。ほら、剣と鎧も」
「「「ぶー」」」
「ああん?」
「「「ごめんなさい」」」

 拓也くん、キミの方がよほど『新緑の騎士団』のギルマスにふさわしいよ…。
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