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第1章 ライナ・アセトアルカナ

第8話 爆弾

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 無数の矢が、それこそ百や二百どころではない、膨大な量の矢が、私に向かって飛んでくる。普通の回避はできない。無数の矢が、回避のための移動範囲の全てをターゲットにしているからだ。

「…っ、初めてやってみるけど、うまくいって…! 付与『魔鋼複製』『耐性防御』『刀身強化』。迎え撃て、魔剣レインフォール!」

 複数のスキルを付与した魔剣レインフォールを、迫りくる無数の矢に向かって投げる。かなり無茶だけど、やるしかない!

 キンッ…
 キンッキンッキンッキンッ
 バババババババババババババババッ

 およそ百ほどに分かれた『魔剣レインフォール』が、私めがけて飛んでくる多くの矢と刺し違える形となり、消滅していく。私から少し離れた周囲の地面一帯には、複製されたレインフォールから逃れた多くの矢が突き刺さる。
 うわあ、地面をかなりえぐってるよ! あれだけの矢のそれぞれに、こんな貫通力があるの!? どんな素材か知りたいんだけど。

うなれ、アセトアルカナ! 『シューティングスター』!!!」

 遠くの丘に立つ猫耳ビーストのアバターが、巨大な弓を引いてそう叫ぶ。エルフの私が剣で、ビーストの彼女…よね、その武器が弓だなんて、なんか皮肉だなあ。
 って、そんな感慨にふけってるヒマはない! 巨大な矢が放たれ、私めがけて迫ってくる! その私の手には、ユニークウェポン『魔剣レインフォール』が存在しない。

 まさしく、猛攻。豪快なエリア攻撃をしかけて相手の装備を奪い、最終スキルですかさずトドメを刺す。これまでPvPをしかけてきたユーザ達とは、格が違う!

 だから、私も、奥の手を出す。

「『ハイ・エクスプロージョン』!!!」

 ひょいっ

 ドゴオオオオオオオオオオオオオッ―――

 『シューティングスター』だっけ、装備の最終スキルによって放たれた矢が、私の投げたスキル付与の魔石の爆発に吹き飛ばされ、あっさり消滅する。

「あ、もうひとつ」

 ひょいっ

「…え? って、うわあああああ!」

 ドガアアアアアアアアアアアンッ――――

 …
 ……
 ………

 シュウウウウ…

 猫耳アバターさん…たぶん『ライナ・アセトアルカナ』なんだろうけど、私が追加で投げた魔石の爆発に巻き込まれ、死に戻っていく。

 いやあ、彼女すごかったなあ。魔剣レインフォールだけでは勝てなかっただけじゃなく、1分以上の戦いに発展したよ。うん、防衛戦はこうでなくちゃ。

 ひゅんっ

 あ、ライナがすぐ戻ってきた。大丈夫かな、まだペナルティ中だよね?

「はあはあ…。、結構、イイ性格してますね…」
「そう? ありがとう」

 お礼を言うのはなんか変だけど、まあ、そこはそれ。

「それにしても、ユニークウェポンを取得したとたん、私に宣戦布告なんて。もしかして、最初から私狙い?」
「もちろんです! リアルでも噂の『ミリアナ・レインフォール』に挑戦したくて、このゲーム始めたんですから!」
「そう。じゃあ、がっかりした? 鍛冶・調合スキルで撃退したこと」
「私はそうでもないですけど、今回の防衛戦の中継を見ていた人達は拍子抜けしているかもしれませんね」
「え、中継?」

 あ、そうか! オンライン通知をオンにしたままだったから、私が防衛戦を始めたことを、どのユーザもすぐに知ることができたんだ。

 面倒なので、再びオンライン通知をオフにする。掲示板書き込みはまたにしよう。

「…オンライン通知、オフにしました?」
「うん」
「じゃあ、あらためて御挨拶を。みなさんと同じユニークウェポン持ちになりました、『ライナ・アセトアルカナ』あらため、『並木リナ』です! これから、よろしくお願いします!」
「はいっ!?」

 え、え、え、このライナってアバターの中の人、あのリナちゃんなの!?
 ああいや、そんなことよりも。

「えええ、えっと、私だけとはいえ、リアルの本名を言うのは…」
「大丈夫です、私、知ってますから! 霧雨くんのお姉さんの、美奈子さんですよね! 『コナミ・サキ』も偽装アバターであることを含めて知ってますから!」
「ええええええええっ!? なんで!?」

 そんなこと、拓也でさえ知らないのにっ!? 知っているのは、前島さんの弟の優真ゆうまくんと、あとは…。

「…あははは、ユリシーズさんの言っていた通りだ。私、運営会社『フォークロア・コーポレーション』の社長の娘ですよ?」
「は…?」
「お父さんの名前、公式サイトに載ってますよ。『並木なみき総一朗そういちろう』って」
「はあ」

 いやまあ、失礼ながら、さほど珍しい名字じゃないので、そこはどうでもいいんだけど。本当に、失礼ながら。

「ええと…もしかして、最近転校したのって」
「はい! 霧雨くんと同じ学校になれば、リアルでもお姉さんに会えるかなと思って。だから、運動会の時に会えて嬉しかったです。ゲームよりも前に会えたので!」
「そ、そう、だったんだ…」

 あははは、もう、笑うしかないや。とりあえず、次のミーティングでユリシーズさんをシメよう。こう、くいっと。

「あ、でも、運動会の時って『コナミ・サキ』アバターだったんですよね? バスケットのボールをあれだけ簡単に受け止めたんですから」
「ま、まあね…」

 うわあ、いろいろ見透かされていたんだなあ。

「だから、今度また、直接家に遊びに行っていいですよね? もちろん、お姉さんに会いに行くためですからね。そこは安心して下さい!」
「え、安心って…?」
「私、霧雨くんとお姉さんのこと、応援していますから!」
「おおお、応援って、ななななんのこと!?」
「またまたあ、運動会でもずっとイチャイチャしてー。人前でもそれなら、家でふたりきりの時なんて、もっと…」
「あああ、いや、あのね、拓也とは、ほら、美しい姉弟愛と家族愛の表現ってことでね、それ以上でも以下でも以外でも意外でもないから!?」

 なんてことを言い出すのかな、この娘!?
 え、もしかして、すごい爆弾を抱えた娘と知り合っちゃった?
 あうううう…。
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