上 下
55 / 106
第7章 霧雨拓也

第54話 相談

しおりを挟む
 からんからん

「いらっしゃい」
「マスター、おっす。ミリアナはいる?」
「ヘラルド、彼女を名指しするのは…」
「おっと。難儀だよな、あいつも」

 からんからん

「こんにちは。ああ、ヘラルド、もう来てたんだ」
「よう、ミリアナ」
「マスター、奥の部屋貸してくれる? ふたりで込み入った話をする予定で」
「ああ。ほら、ジンジャーエール二杯だ」
「ありがと」
「俺は紅茶の方が…いや、なんでもない」



 ふたりきりで話がしたい、とヘラルド…拓也からメッセージが入った時はびっくりした。宛先が『ミリアナ・レインフォール』だったからだ。ステータス偽装を解除してオンライン通知をオンにしていた時だったから、私の正体がバレたわけではないのだろうけども。

「それで? 宣戦布告なら何度も受けてあげるけど」
「いや、それは別にいい」
「いいんだ」
「結局、姉さんがそっちについてるからな…あんまり攻め入りたくない」
「彼女は戦闘には参加しないよ?」
「そのHP上昇ピアスを見ながら攻撃するのは、どうにも気が滅入るんだよ」
「ああ…」

 ヘラルドは、このピアスが『コナミ・サキ』ブランドである(ということになっている)ことを知っている。私が以前ヘラルド…拓也にもおすすめして『要らねえ』と言われたものだ。あ、なんか腹立ってきた。おっと、クールダウン、クールダウン。今の私はミリアナ・レインフォールだ。

「話はふたつだ。確認がひとつと、相談がひとつ」
「確認?」
「ミリアナ、アンタ…中身は女性でいいんだよな?」
「…はっきりさせなきゃダメ?」
「いや、別に。両親から聞いたのを確認しただけだから」

 え、お父さんとお母さん、私が話したこと、拓也に話しちゃったの!? おかしいなあ、『ミリアナ・レインフォール』の正体を知ることの危険性を理解したと思ってたのに。後で問い詰め…られないな、話の辻褄が合わなくなる。

「あ、姉さんには言わないでくれよ、俺が両親から聞いたってこと」
「う、うん」

 …という展開になるからだ。うーん、このまま放置するしかないのかな。

「それで、相談の方は?」
「ああ…いや、正直、ミリアナになんとかできることじゃないと思ってるんだが、前島の野郎があそこまで使えないとは思わなかったから…」
「前島…ああ、ユーマね」

 と、すっとぼけておく。でも、前島さんにも相談したことってなんだろ? やっぱり、私関係? 拓也とは、今はうまくいってるよね?

「なあ、アンタって、人間のステータスを正確に知ることができるか?」
「それは、本人にステータスを表示してもらって…」
「いや、ステータスをだ」
「…は?」

 なんか、とんでもなく突拍子もない話だ。え、拓也、一体何に巻き込まれてるの?

「よくわからないけど…私の『現界』能力は『ファラウェイ・ワールド・オンライン』で実装されている機能を現実世界で発現させることだけだよ? 現実世界の人間にステータスを表示させることは…。あ、でも」
「なんだ?」
「私が現実世界に転移して、そこで『鑑定』魔法をかければ、もしかすると…」
「そんなことができるのか!? なんでもありだな!」
「聞いたのはそっちだよ? でも、どうして? 仮にできたとしても、プライバシー侵害の何者でもないよ?」
「そうなんだが…」

 言い淀む、ヘラルド。
 ねえ、まさか犯罪絡みとかじゃないよね? 運営に通報するよ? あ、この場合はダイレクトに警察かな。しかるべきところに放り込まれて週に一度面会に行くことになるなんて、姉として悲しいよ?

「…はあ、わかった。あまりに変な話だから、姉さんにも言わないでくれよ?」
「そればっかだね。コナミ…お姉さんとは、仲良くしてるんじゃないの?」
「だからこそっていうか…。ああ、とにかく秘密な」
「わかった。それで?」

 ヘラルドが…拓也が、ぽつりぽつりと話し出す。

「十年以上前に事故に巻き込まれ、両親を亡くした姉弟きょうだいがいた。遠い親戚で子供がいなかった夫婦が、奇跡的に助かったその二人を引き取った」

 『きょうだい』?

「その後、その姉弟きょうだいはすくすくと育ったんだが…親戚とはいえ両親に似ていないのは不思議でなくとも、子供同士があまりに違い過ぎた。十年も経てば、そりゃあもう、誰の目から見ても明らかなほどに」
「はあ」
「引き取った子供ということで、今の両親がよくよく調べてみたんだ。そうしたら…元の両親には、もともとっていうんだ」

 …はい?

「そんなことって…あるの?」
「そこが変なんだ。戸籍や住民登録を見ると、確かに姉弟きょうだいとしての記録がある。でも、元の両親の当時を知る近所の人々は、口を揃えて『子供は男の子ひとりだけだった』と言うんだと」

 …なんか、話がオカルトっぽくなってきたなあ。今まさにオカルトっぽい能力がある私が言えたことじゃないけど。

姉弟きょうだいは当時小さかったから、記憶があってないようなものでな。だから、そこで話が煮詰まっているってわけだ。な? 変な話だろ?」
「そうね…。事故当時の知り合いが揃って勘違いしているというのはおかしいわね。でも、戸籍とかにはもうひとりの子供の名前や生年月日が記録されているんでしょう?」
「ああ。今はそういった記録は全てデータベース化されて厳重に管理されているしな。でも…」
「でも?」
「その話を聞いたおとうとの方が、元の両親の御近所を訪ねてみたんだ。みんな、なつかしがって、昔のことをあれこれ話してくれたんだが、持参したあねの写真を見せても、全く心当たりがないって言うんだよ」

 …ちょっと待って。『弟』? 『姉』?

「忘れただけなんじゃないかって言っても、『姿なら忘れるはずがない。たとえ十年以上経っていたとしても』と言い張るし。というか、引き取られた当時の二人の写真も見せたんだがな、やっぱりの方しか見覚えがないって」

 …
 ……
 ………

「ねえ、今…」
「あ、やっちまった…。今喋ったこと、マジでには言わないでくれないかな。姉さん、変な話とか以前に、今の両親が実の親じゃないってことも知らないはずだから」
「それ、じゃあ…」

 ヘラルドが…拓也が、あらためてそのことを口にする。

「リアルで会ったことがあるっていうから、はっきり言うな。当時の人々が心当たりがないっていうのは、俺の姉さん…霧雨きりさめ美奈子みなこのことなんだ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...