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第7章 霧雨拓也
第54話 相談
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からんからん
「いらっしゃい」
「マスター、おっす。ミリアナはいる?」
「ヘラルド、彼女を名指しするのは…」
「おっと。難儀だよな、あいつも」
からんからん
「こんにちは。ああ、ヘラルド、もう来てたんだ」
「よう、ミリアナ」
「マスター、奥の部屋貸してくれる? ふたりで込み入った話をする予定で」
「ああ。ほら、ジンジャーエール二杯だ」
「ありがと」
「俺は紅茶の方が…いや、なんでもない」
◇
ふたりきりで話がしたい、とヘラルド…拓也からメッセージが入った時はびっくりした。宛先が『ミリアナ・レインフォール』だったからだ。ステータス偽装を解除してオンライン通知をオンにしていた時だったから、私の正体がバレたわけではないのだろうけども。
「それで? 宣戦布告なら何度も受けてあげるけど」
「いや、それは別にいい」
「いいんだ」
「結局、姉さんがそっちについてるからな…あんまり攻め入りたくない」
「彼女は戦闘には参加しないよ?」
「そのHP上昇ピアスを見ながら攻撃するのは、どうにも気が滅入るんだよ」
「ああ…」
ヘラルドは、このピアスが『コナミ・サキ』ブランドである(ということになっている)ことを知っている。私が以前ヘラルド…拓也にもおすすめして『要らねえ』と言われたものだ。あ、なんか腹立ってきた。おっと、クールダウン、クールダウン。今の私はミリアナ・レインフォールだ。
「話はふたつだ。確認がひとつと、相談がひとつ」
「確認?」
「ミリアナ、アンタ…中身は女性でいいんだよな?」
「…はっきりさせなきゃダメ?」
「いや、別に。両親から聞いたのを確認しただけだから」
え、お父さんとお母さん、私が話したこと、拓也に話しちゃったの!? おかしいなあ、『ミリアナ・レインフォール』の正体を知ることの危険性を理解したと思ってたのに。後で問い詰め…られないな、話の辻褄が合わなくなる。
「あ、姉さんには言わないでくれよ、俺が両親から聞いたってこと」
「う、うん」
…という展開になるからだ。うーん、このまま放置するしかないのかな。
「それで、相談の方は?」
「ああ…いや、正直、ミリアナになんとかできることじゃないと思ってるんだが、前島の野郎があそこまで使えないとは思わなかったから…」
「前島…ああ、ユーマね」
と、すっとぼけておく。でも、前島さんにも相談したことってなんだろ? やっぱり、私関係? 拓也とは、今はうまくいってるよね?
「なあ、アンタって、人間のステータスを正確に知ることができるか?」
「それは、本人にステータスを表示してもらって…」
「いや、現実世界の人間のステータスをだ」
「…は?」
なんか、とんでもなく突拍子もない話だ。え、拓也、一体何に巻き込まれてるの?
「よくわからないけど…私の『現界』能力は『ファラウェイ・ワールド・オンライン』で実装されている機能を現実世界で発現させることだけだよ? 現実世界の人間にステータスを表示させることは…。あ、でも」
「なんだ?」
「私が現実世界に転移して、そこで『鑑定』魔法をかければ、もしかすると…」
「そんなことができるのか!? なんでもありだな!」
「聞いたのはそっちだよ? でも、どうして? 仮にできたとしても、プライバシー侵害の何者でもないよ?」
「そうなんだが…」
言い淀む、ヘラルド。
ねえ、まさか犯罪絡みとかじゃないよね? 運営に通報するよ? あ、この場合はダイレクトに警察かな。しかるべきところに放り込まれて週に一度面会に行くことになるなんて、姉として悲しいよ?
「…はあ、わかった。あまりに変な話だから、姉さんにも言わないでくれよ?」
「そればっかだね。コナミ…お姉さんとは、仲良くしてるんじゃないの?」
「だからこそっていうか…。ああ、とにかく秘密な」
「わかった。それで?」
ヘラルドが…拓也が、ぽつりぽつりと話し出す。
「十年以上前に事故に巻き込まれ、両親を亡くした姉弟がいた。遠い親戚で子供がいなかった夫婦が、奇跡的に助かったその二人を引き取った」
『きょうだい』?
「その後、その姉弟はすくすくと育ったんだが…親戚とはいえ両親に似ていないのは不思議でなくとも、子供同士があまりに違い過ぎた。十年も経てば、そりゃあもう、誰の目から見ても明らかなほどに」
「はあ」
「引き取った子供ということで、今の両親がよくよく調べてみたんだ。そうしたら…元の両親には、もともとひとりしか子供がいなかったっていうんだ」
…はい?
「そんなことって…あるの?」
「そこが変なんだ。戸籍や住民登録を見ると、確かに姉弟としての記録がある。でも、元の両親の当時を知る近所の人々は、口を揃えて『子供は男の子ひとりだけだった』と言うんだと」
…なんか、話がオカルトっぽくなってきたなあ。今まさにオカルトっぽい能力がある私が言えたことじゃないけど。
「姉弟は当時小さかったから、記憶があってないようなものでな。だから、そこで話が煮詰まっているってわけだ。な? 変な話だろ?」
「そうね…。事故当時の知り合いが揃って勘違いしているというのはおかしいわね。でも、戸籍とかにはもうひとりの子供の名前や生年月日が記録されているんでしょう?」
「ああ。今はそういった記録は全てデータベース化されて厳重に管理されているしな。でも…」
「でも?」
「その話を聞いた弟の方が、元の両親の御近所を訪ねてみたんだ。みんな、なつかしがって、昔のことをあれこれ話してくれたんだが、持参した姉の写真を見せても、全く心当たりがないって言うんだよ」
…ちょっと待って。『弟』? 『姉』?
「忘れただけなんじゃないかって言っても、『これだけ目立つ容姿なら忘れるはずがない。たとえ十年以上経っていたとしても』と言い張るし。というか、引き取られた当時の二人の写真も見せたんだがな、やっぱり俺の方しか見覚えがないって」
…
……
………
「ねえ、今…」
「あ、やっちまった…。今喋ったこと、マジで姉さんには言わないでくれないかな。姉さん、変な話とか以前に、今の両親が実の親じゃないってことも知らないはずだから」
「それ、じゃあ…」
ヘラルドが…拓也が、あらためてそのことを口にする。
「リアルで会ったことがあるっていうから、はっきり言うな。当時の人々が心当たりがないっていうのは、俺の姉さん…霧雨美奈子のことなんだ」
「いらっしゃい」
「マスター、おっす。ミリアナはいる?」
「ヘラルド、彼女を名指しするのは…」
「おっと。難儀だよな、あいつも」
からんからん
「こんにちは。ああ、ヘラルド、もう来てたんだ」
「よう、ミリアナ」
「マスター、奥の部屋貸してくれる? ふたりで込み入った話をする予定で」
「ああ。ほら、ジンジャーエール二杯だ」
「ありがと」
「俺は紅茶の方が…いや、なんでもない」
◇
ふたりきりで話がしたい、とヘラルド…拓也からメッセージが入った時はびっくりした。宛先が『ミリアナ・レインフォール』だったからだ。ステータス偽装を解除してオンライン通知をオンにしていた時だったから、私の正体がバレたわけではないのだろうけども。
「それで? 宣戦布告なら何度も受けてあげるけど」
「いや、それは別にいい」
「いいんだ」
「結局、姉さんがそっちについてるからな…あんまり攻め入りたくない」
「彼女は戦闘には参加しないよ?」
「そのHP上昇ピアスを見ながら攻撃するのは、どうにも気が滅入るんだよ」
「ああ…」
ヘラルドは、このピアスが『コナミ・サキ』ブランドである(ということになっている)ことを知っている。私が以前ヘラルド…拓也にもおすすめして『要らねえ』と言われたものだ。あ、なんか腹立ってきた。おっと、クールダウン、クールダウン。今の私はミリアナ・レインフォールだ。
「話はふたつだ。確認がひとつと、相談がひとつ」
「確認?」
「ミリアナ、アンタ…中身は女性でいいんだよな?」
「…はっきりさせなきゃダメ?」
「いや、別に。両親から聞いたのを確認しただけだから」
え、お父さんとお母さん、私が話したこと、拓也に話しちゃったの!? おかしいなあ、『ミリアナ・レインフォール』の正体を知ることの危険性を理解したと思ってたのに。後で問い詰め…られないな、話の辻褄が合わなくなる。
「あ、姉さんには言わないでくれよ、俺が両親から聞いたってこと」
「う、うん」
…という展開になるからだ。うーん、このまま放置するしかないのかな。
「それで、相談の方は?」
「ああ…いや、正直、ミリアナになんとかできることじゃないと思ってるんだが、前島の野郎があそこまで使えないとは思わなかったから…」
「前島…ああ、ユーマね」
と、すっとぼけておく。でも、前島さんにも相談したことってなんだろ? やっぱり、私関係? 拓也とは、今はうまくいってるよね?
「なあ、アンタって、人間のステータスを正確に知ることができるか?」
「それは、本人にステータスを表示してもらって…」
「いや、現実世界の人間のステータスをだ」
「…は?」
なんか、とんでもなく突拍子もない話だ。え、拓也、一体何に巻き込まれてるの?
「よくわからないけど…私の『現界』能力は『ファラウェイ・ワールド・オンライン』で実装されている機能を現実世界で発現させることだけだよ? 現実世界の人間にステータスを表示させることは…。あ、でも」
「なんだ?」
「私が現実世界に転移して、そこで『鑑定』魔法をかければ、もしかすると…」
「そんなことができるのか!? なんでもありだな!」
「聞いたのはそっちだよ? でも、どうして? 仮にできたとしても、プライバシー侵害の何者でもないよ?」
「そうなんだが…」
言い淀む、ヘラルド。
ねえ、まさか犯罪絡みとかじゃないよね? 運営に通報するよ? あ、この場合はダイレクトに警察かな。しかるべきところに放り込まれて週に一度面会に行くことになるなんて、姉として悲しいよ?
「…はあ、わかった。あまりに変な話だから、姉さんにも言わないでくれよ?」
「そればっかだね。コナミ…お姉さんとは、仲良くしてるんじゃないの?」
「だからこそっていうか…。ああ、とにかく秘密な」
「わかった。それで?」
ヘラルドが…拓也が、ぽつりぽつりと話し出す。
「十年以上前に事故に巻き込まれ、両親を亡くした姉弟がいた。遠い親戚で子供がいなかった夫婦が、奇跡的に助かったその二人を引き取った」
『きょうだい』?
「その後、その姉弟はすくすくと育ったんだが…親戚とはいえ両親に似ていないのは不思議でなくとも、子供同士があまりに違い過ぎた。十年も経てば、そりゃあもう、誰の目から見ても明らかなほどに」
「はあ」
「引き取った子供ということで、今の両親がよくよく調べてみたんだ。そうしたら…元の両親には、もともとひとりしか子供がいなかったっていうんだ」
…はい?
「そんなことって…あるの?」
「そこが変なんだ。戸籍や住民登録を見ると、確かに姉弟としての記録がある。でも、元の両親の当時を知る近所の人々は、口を揃えて『子供は男の子ひとりだけだった』と言うんだと」
…なんか、話がオカルトっぽくなってきたなあ。今まさにオカルトっぽい能力がある私が言えたことじゃないけど。
「姉弟は当時小さかったから、記憶があってないようなものでな。だから、そこで話が煮詰まっているってわけだ。な? 変な話だろ?」
「そうね…。事故当時の知り合いが揃って勘違いしているというのはおかしいわね。でも、戸籍とかにはもうひとりの子供の名前や生年月日が記録されているんでしょう?」
「ああ。今はそういった記録は全てデータベース化されて厳重に管理されているしな。でも…」
「でも?」
「その話を聞いた弟の方が、元の両親の御近所を訪ねてみたんだ。みんな、なつかしがって、昔のことをあれこれ話してくれたんだが、持参した姉の写真を見せても、全く心当たりがないって言うんだよ」
…ちょっと待って。『弟』? 『姉』?
「忘れただけなんじゃないかって言っても、『これだけ目立つ容姿なら忘れるはずがない。たとえ十年以上経っていたとしても』と言い張るし。というか、引き取られた当時の二人の写真も見せたんだがな、やっぱり俺の方しか見覚えがないって」
…
……
………
「ねえ、今…」
「あ、やっちまった…。今喋ったこと、マジで姉さんには言わないでくれないかな。姉さん、変な話とか以前に、今の両親が実の親じゃないってことも知らないはずだから」
「それ、じゃあ…」
ヘラルドが…拓也が、あらためてそのことを口にする。
「リアルで会ったことがあるっていうから、はっきり言うな。当時の人々が心当たりがないっていうのは、俺の姉さん…霧雨美奈子のことなんだ」
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