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第6章 前島優希

第46話 一家総出

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「ご、こめん、ミナ! すぐに来れなくて…って、父さんと母さん!? なんでここに!?」
「そりゃあお前、スクリーンでしか見ていなかった彼女を直接見たくてな」
「お話もしたかったのよね。これから食事でしょ? 私達も一緒に食べるわよ!」
「うぐっ…。はあ…結局、予想通りかあ…」

 ようやく現れた前島さんは、御両親の言葉を聞いてなんかうなだれている。一方の御両親は、なんか楽しそうだ。仲いいんだなあ。

「あ、お、お邪魔してます」
「ああ、うん、ゆっくりしていって。ウチの両親が相手だとゆっくりできそうにないけど…」
「あら、失礼ね。そんなに騒がしくないわよ?」
「そうだぞ、優希。むしろ、お前の方が疲れたりしないか? 何かというと『ミナ、ミナ』と…」
「わああっ! そ、そんなこと、ミナの前で言わないでよ!」
「ははは…」

 ひょこっ

 ん? 前島さんの後ろから、男の子が顔を出した。年齢は…10歳くらいかな。

「ああ、ボクの弟だよ。…ほら」
優真ゆうま、です…こんにちは」
「こんにちは。霧雨美奈子です」
「年が離れているせいか、ボクと似てなくてね。だいぶ人見知りだし」

 人見知り…前島さんや御両親の反動かな、などと失礼なことを考えてしまった。

「優真も昼食には参加するよ。お詫びなんだし、たくさん食べていってね」
「参加…外出するの?」
「いや、来賓用の食事を今ウチの厨房で作っていてね。レストランで腕を奮っている有名なシェフだから、期待してて」

 うわあ、出張シェフだあ。そして、レストラン並の厨房があるってことだよね。レストランっていっても、ファミレスのレベルじゃなさそうだ。

「おお、そうか。美奈子さんには迷惑をかけたようだな」
「いえ、たまたま一緒にいただけですから…」
「ごめんなさいね。優希って、いつもは何人もの友達と一緒に登下校していたから、油断していたの」

 ああ、昨日に限っては後をつけていた方々ですね、ははは。あの時は、飛び出す間もなく前島さんが誘拐犯をさっくり片付けたからなあ。

「でも、それなら、これまではあの人達が誘拐騒ぎに巻き込まれちゃったの?」
「巻き込まれたっていうか、巻き込んだっていうか。誘拐犯達が何かする前に見つけ出して、いつの間にか拘束具をハメていたりして。あと、どこからともなく『執行班』が飛んできて、車ごと乗っ取ったりもするんだよね。あれ、いいのかなあ。無免許だよね? まだ高2なんだし」
「拘束…執行…え?」

 ストーカー集団(仮)だけあって不穏な言葉が出まくってるけど、そうか、あの人達にとっても『いつものこと』だったのか。前島さんが直接手を出すのも、一度や二度ではなかったらしい。すごい日常だなあ。私も人のこと言えないけど。

「アレが攻城戦とかに活かせないのが残念だよね。ジョブで言うところの斥候アバターばかりみたいなものだし」

 そういう問題じゃないと思うよ?



 食事は、さすがにおいしかった。昼食だし、それほど重いメニューはなかったけど、フレンチでオシャレなのに味も満足ってすごいよね。イタリアンや中華ならわかるんだけど。偏見かな?

「ジンジャーエール、たっぷり用意してもらっておいて良かった…」
「ごめんなさい、パンがとてもおいしかったから」
「えっ」
「えっ」

 食後の飲み物もジンジャーエールをお願いしつつ、前島さん一家との会話が続く。

「僕もVRゲームやりたいけど、まだ早いって…」
「ああ、うん、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』は特に難しいかな? 激しい討伐クエストが多いし、勢力争いは年齢制限が厳しいし」
「ボクが同伴できればいいんだけどね、時間が合わなくて」

 『ファラウェイ・ワールド・オンライン』に限らず、VRゲームや仮想世界システムへのフルダイブは、12歳未満だといろいろな制約がある。リアルを十分経験しないうちに仮想世界にハマると、精神的にも肉体的にも悪影響が出やすいためだ。

「そういえば、美奈子さんはVRゲームに詳しいのよね。どうかしら? これから夕方まで、みんなでそのVRゲームで遊ぶのって」
「おお、それはいいな! 私もアカウントを作っただけで、何をしたらいいかわからず放置していたんだ」
「ああ、ミナが一緒なら、優真も安心だね。もちろん、ボクも付き合うけど」
「それは、いいけど…」

 そんなにたくさんのフルダイブ装置と大容量の接続回線は? と尋ねるのは愚問だった。別宅に専用の部屋があったよ! 体調管理やセキュリティ機能も万全で、フルダイブ装置が整然と並んでいる。私設ネットカフェ? 御両親がお仕事でVR会議とかにも使うらしいので、あながち間違いでもないようだ。

 というわけで、前島さん一家とフルダイブすることになった。さて、平穏無事に済めばいいけど…。
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