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第6章 前島優希

第43話 いつものこと

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 前島さんと、公園を出ようとした、まさにその時。

 キキキキっ

 がちゃっ

「前島優希だな! 捕まえろ!」

 白いバンが急に止まったと思ったら、サングラスとマスクで顔を隠している男達がわらわらと出てきた。叫んだ言葉から言って…前島さんの誘拐!?

「…っ! 顕現せよセットアップ、アイスフィールド!」

 ぶおんっ

「ぐおっ」
「かはっ」

 なんの迷いもなく『現界』させた聖盾アンサイルアイスフィールドで男達の猛襲を防ぐ、前島さん。本当に、本当になんの迷いもなく。というか、慣れてない?

「や…やろうっ!」

 アイスフィールドに叩かれなかったひとりが、手にナイフを構え、前島さんに突っ込んで行く…!?

「遅い…遅いよ!」

 ナイフを再度アイスフィールド聖盾で防いだ前島さんは、いつの間にか手に持っていた剣で、ナイフの男を横薙ぎする…って、ええええええっ!? 

 ガシッ

「ごふっ」

 あ、峰打ちだ。ほっ。

「ふう…」

 くるっ
 チンッ

「ミナ、怪我はなかった!?」
「私は、離れていたから…それよりも、前島さんは?」
「この通りだよ! どうだった? ミリアナの剣さばきを真似してみたんだ!」
「えええ…」

 なんだろう、前島さんから漂う、この『いつものこと』感は。何から何まで非日常的なんですけど。少なくとも、現実世界では。

「えっと…この人達に心当たりあるの?」
「うん、ボクを身代金目的で誘拐しようとしたんだね。今月に入って3回目かな」
「えええ…」

 なんですか、そのセレブな状況は。ユリシーズさんから聞いた、ミリアナのそれとはまた違う別世界感。

「だから、ミナを巻き込んで、本当にごめん。…でも、ミナもこういうの、気をつけた方がいいかもよ?」
「こういうの? 身代金を期待できるような家じゃないけど」
「だけど、ミナ…『コナミ・サキ』は、ミリアナの事実上の専属鍛冶・調合師なわけだし。広く知られていないとはいえ、さ」
「あ、ああ、そう、ね。ミリアナも割と有名人みたいだし、ね」

 むしろ、本人だけど。うわあ、自分が有名人とか、言ってて恥ずかしいというか、イタいというか。むずむず。

「「「「「そうだったの!?」」」」」

 うわっ、何、今の!?

 声がしたところに振り向くと、男女取り混ぜて10人以上のウチの生徒が、公園の木々の間で佇んでいた。ほとんどが『新緑の騎士団』のギルメン? 三人娘もいる。っていうか、多いよ!?

「ああ、やっぱり、後をつけてきてたんだ…」
「え? え?」
「拓也くんところと違って、ウチのギルメンには知られたくなかったんだよなあ…『現界』絡みのこと」

 え、そうなの? なんで?

「と、とにかく、前島くん、全部ちゃんと説明しなさい!」
「そうよそうよ! 特に、ミナち…霧雨さんとミリアナのことを黙ってるなんて!」
「あ、あと、さっきふたりで食べてたハンバーガーのこと、詳しく教えて!」
「優希様のいけず! 卑怯者! おととい死んじゃえっ!」

 もう、なにがなにやら。特に、最後のセリフ。いつものあの娘だよね。
 というか、この人達って結局、『現界』した聖盾アイスフィールドや剣のこと、そして誘拐騒動にはなにひとつ驚いてないよね? 普通、まずそっちに言及するよね? ね?



 そんなこんなで、警察を呼んで事情聴取されて、すっかり時間が経ってしまった。いいかげんそろそろしないと、私の本体が床ずれしそう。なんてことなの。

「じゃあ、夕方向こうで『神々の黄昏』と合流ということで」
「その前に、ギルドホームで話を聞くよ! ギルマス、逃げないでよ!」
「そうよそうよ、最近何かというと単独行動してるんだから!」
「のーもあ、ひとりじめ!」
「はあ…」

 相変わらず話が見えないけど、ようやく帰れる…。

 ん?

「前島さん、ごめんなさい。私はここで別れるから。寄りたい店があるんだ」
「え、そうなの? それなら、ボクも…」
「ギルマスは、こっち!」
「そ、そんな…。ミナー、またねー…」

 ずるずるずる

 うん、まさにドナドナ。

 さて…。

 ひゅんっ



 たったったったっ

「はあはあ…よし、これを週刊誌サイトに持ち込めば…ごふっ」

 どさっ

 安心しなさい、これも峰打ちよ。
 ああでも、『コナミ・サキ』の体格で魔剣レインフォールの長さは辛いなあ。

 峰打ちをした男の人の近くに落ちているそれを、拾い上げる。

「小型のビデオカメラか…再生アプリに組み込んでっと」

 かちっ

『顕現せよ、アイスフィールド!』
『遅い…遅いよ!』
『だけど、ミナ…「コナミ・サキ」は、ミリアナの事実上の』

 ぴっ

 ふう、危ない危ない。
 きれいサッパリ消してしまおう。記憶は消さなくていいよね? 『見たと言って、誰が証明できる?』ってね。
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