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第4章 ヘラルド・ミストライブラ

第32話 近況

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 普通の街並に、普通の喧騒。NPCの子供達が何かを目指してかけていき、屋台の売り子が通行人に声をかけている。

 うん、平常時の噴水前だ。さすがに、いつも騒然とした雰囲気だと居心地が悪い。というか、疲れる。それが、私に関係する事でなかったとしても。
 この街、この世界が、私のためだけのものではないことはよくわかっている。でも、住民のひとりとして、身の丈に合った居場所くらいはほしいところだ。自宅相当のマイホームは別として。

 からんからん

「いらっしゃい。…おや、ひさしぶりだね」
「ひさしぶり、マスター。いつもの」
「かしこまりました」

 『雨宿り』。中央噴水近くの路地裏に入ってすぐの、簡素なバー。ちょっと落ち着きたいなと言う時に入る。最近は来てなかったので常連とは言えないかもだが、マスターは覚えていてくれたようだ。ちなみに、『いつもの』とはジンジャーエールだ。私の定番である。

「最近、どう?」
「御覧の通りさ。客はまばら、売上は必要最低ライン。それだって、店や土地代の借り賃が必要ないから言えるんだが」
「そうじゃなくて、何か面白い情報が入ってないかってこと」
「わかってるよ。でも、アンタへの情報提供よりも、アンタからの情報提供の方がよほど役立つんでね」
「だからって、この店の経営状況を改善するための情報は持ち合わせてないよ」
「つれないな。この世界じゃ、アンタが一番ユニークウェポンの情報を握ってるはずだぜ」

 拓也の厨二とはまた別のナニかのノリで、マスターと話をする私。でも、一応、意味はある。この店は、攻略情報をユーザ間でこっそりやりとりする場として作られたからだ。
 ちなみに、運営公認である。こないだユリシーズさんに確認したら『どんどんやっちゃって下さい』と言われた。諜報活動に便利な店のひとつらしい。むしろ常連だったっていう。

「ないことはないけど、話してもムダなことばかりだし」
「と、言うと?」
「入手条件がどれもこれも厳しいから。ユニークウェポンって要するに、この世界で唯一の武器でしょ? パーティ単位で入手することを想定してないのよ」
「ソロ専門のミリアナだからこそわかるクリア条件ってことか…」

 このゲームのクエストは、ほとんどがパーティやレイドで挑むことが想定されている。ので、実は頑張ればソロでもいけるクエストを見逃しやすい。そんなクエストでも、いつもの調子で最初からパーティ攻略をしてしまうのである。私のように、どのギルドにも所属しない、単独行動一辺倒でもない限り。

「しばらくアンタだけだったのが、ユーマ・アイスフィールド…だったか、そいつが入手したってワールドアナウンスが流れてから、ユニークウェポン熱が再燃してね。最近の希望情報はそればかりだ」
「そっか…。予想していたことではあるけど」

 ユニークウェポンは、唯一だけあって、その性能は超レア級。公式チート装備と言ってもいいかもしれない。ただ、当然バランス調整はされていて、メリット・デメリットがある。

「そもそも、かなりのレベルがないと、その機能や性能の半分も活かせないのよね。で、レベルを上げる手っ取り早い方法が、パーティ単位でのパワーレベリングだから…」
「ますます、ソロ攻略に向かないスキルや装備となってしまうわけか。どれかひとつのジョブに特化してしまったり」
「私は最初から割り切って『魔法剣士』だしね。剣士のユーマは、特殊な理由で回避能力が高かったから単独討伐できたんだけど…」

 拓也…ヘラルドは無理っぽいなあ。ギルマスやってると言ってもオールラウンダーではなく、つくづく魔法のみの紙装甲である。だからこそ、ユーマの手に入れた『聖盾アイスフィールド』がうらやましいわけである。なにしろ、本人がリアルでそう喋っていた。ここまでの開き直りが、いっそすがすがしい。

「あとは、人目につかない特殊クエストで手にはいる可能性かな。でも、クエスト発生には文字通り特殊なフラグが必要だから、運を天に任せるしかないね。NPCに積極的に話しかけていくとか」
「集団意識が高いほどNPCには無頓着なユーザが多いがね。酒場のウエイトレスに手を出すなんてのは、もはや日常風景さ」
「そこに正義の味方が現れるのもセットになってほしいところだけど、案外、ラノベ主人公のような実力者ユーザは珍しいかな」

 拓也…ヘラルドは、どうなんだろ。熱血的なところがないことはないけど、正義感が伴うかっていうと…うん、よくわからない。でも、特殊クエストって、そういう気持ちというか、積極的に関わっていくという気質がないと、そもそも始まらない気がする。そういう意味では、前島さん…ユーマ向きの話ではあったのだろう。リアルで『現界』バレのフラグを立てるくらいだし。

「私も他のユニークウェポンには興味あるから、しばらく特殊クエストを探ってみる。近況ありがと」
「どういたしまして。ジンジャーエール代を併せても足りないくらいだよ、ここの賃貸料と比べたら」

 お気づきかもしれないが、この店は私が購入して所有している。更に言えば、このマスターもNPC。隠れ家的な情報交換の場、バー『雨宿り』のオーナーというわけだ。

 からんからん

 さてと。特殊クエストなら、魔物討伐とかほとんど関係ない場所でフラグが立つことが多いよね。教会付属の孤児院とか、寂れた遺跡とか、僻地の村とか。ポーションの素材集めを兼ねて、あちこち歩き回るか。
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