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第1章 ミリアナ・レインフォール
第6話 緊急クエスト
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関連情報が次々と表示されるモニタを見ながら、状況を確認していく。
「犯人達は身代金要求の類もせずに、飛行機をY国の首都に向かわせています。目的はおそらく、大統領官邸かと」
「あの事件の、再来か…」
ハイジャックした飛行機を使った自爆テロ。何十年も前に某国で起きたそれは、その後の世界の歴史に大きな影響を与えた。どの国でも搭乗前のセキュリティ体制が大幅に強化されて、ずっと起きていなかったんだけど…。
しかし、それとは別に、ひとつ気になることが。それはたぶん、この人も…
「えっと…技術スタッフさん、そういえば、あなたの名前は?」
「私のことはユリシーズと呼んで下さい。『ファラウェイ・ワールド・オンライン』での作業用アバターの名前です」
「そっちは私の本名知ってるのに…まあいいか。ユリシーズさん、この事件ってエリア76のボス討伐クエストと…」
「ええ、似ています。もっとも、我々が過去の事件を参考に実装したので、当然といえば当然ですが」
エリア76のボスは、ブルードラゴン。空を飛ぶ巨大な魔物をいかにして倒すか。ソロ専門の私には少々辛かった。
加えて、この討伐クエストは時間制限があった。もし、一定時間内に討伐できなければ、近隣の街や村に向かい、甚大な被害をもたらす。
討伐に失敗すれば、ステータス低下のペナルティが大きいばかりか、精神的苦痛も酷い。このゲームが某国発祥だったらシャレにならなくて実装できないところだ。
「あの時は結局、いくつもの転送魔法陣を用意して何度も飛び乗って、確実にHPを削れるポイントを突いていって倒したなあ。魔法陣の数を揃えるお金を貯めるのと、突く場所が判定できるほどの『鑑定』スキルのレベルアップがしんどかったけど」
「それでも、あなたが最速で討伐しましたけどね。そして、今回も…」
「…できますね。機内への直接転移だけじゃなく、犯人達の位置を正確に把握する『鑑定』スキルの発動も」
『転移門』メニューのマップで該当の飛行機を大まかに指定したら、飛行機の移動に合わせて目標地点をトラッキングするようになった。どういう原理なんだろ。
「偶然、だと思います?」
「わかりません。この事件が起こることを知って、『ミリアナ・レインフォール』を現界できるようにした何かがいたとすると、御都合主義どころではないですが」
「ですよねえ…。うん、今、考えるのはよそう。時間がもったいないし」
「それでは、行ってくれるのですね!」
まあねえ、対処できる手段に十分過ぎるほどの心当たりがあるんじゃねえ。
それに、今ならまだ犯人達は『現界したミリアナ・レインフォール』などという存在に気づいていない。飛行機の中では、リアルタイムでニュースを見聞きしていないはずだからだ。
「じゃあ、討伐シーケンスに沿って、さっくりやってみます。可能ならば、それ以外にも」
「お願いします!」
トラッキング設定済のマップを再表示し、操作する。
【現実世界の『航空機XX931内』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
〔はい〕を、押す。
「犯人達は身代金要求の類もせずに、飛行機をY国の首都に向かわせています。目的はおそらく、大統領官邸かと」
「あの事件の、再来か…」
ハイジャックした飛行機を使った自爆テロ。何十年も前に某国で起きたそれは、その後の世界の歴史に大きな影響を与えた。どの国でも搭乗前のセキュリティ体制が大幅に強化されて、ずっと起きていなかったんだけど…。
しかし、それとは別に、ひとつ気になることが。それはたぶん、この人も…
「えっと…技術スタッフさん、そういえば、あなたの名前は?」
「私のことはユリシーズと呼んで下さい。『ファラウェイ・ワールド・オンライン』での作業用アバターの名前です」
「そっちは私の本名知ってるのに…まあいいか。ユリシーズさん、この事件ってエリア76のボス討伐クエストと…」
「ええ、似ています。もっとも、我々が過去の事件を参考に実装したので、当然といえば当然ですが」
エリア76のボスは、ブルードラゴン。空を飛ぶ巨大な魔物をいかにして倒すか。ソロ専門の私には少々辛かった。
加えて、この討伐クエストは時間制限があった。もし、一定時間内に討伐できなければ、近隣の街や村に向かい、甚大な被害をもたらす。
討伐に失敗すれば、ステータス低下のペナルティが大きいばかりか、精神的苦痛も酷い。このゲームが某国発祥だったらシャレにならなくて実装できないところだ。
「あの時は結局、いくつもの転送魔法陣を用意して何度も飛び乗って、確実にHPを削れるポイントを突いていって倒したなあ。魔法陣の数を揃えるお金を貯めるのと、突く場所が判定できるほどの『鑑定』スキルのレベルアップがしんどかったけど」
「それでも、あなたが最速で討伐しましたけどね。そして、今回も…」
「…できますね。機内への直接転移だけじゃなく、犯人達の位置を正確に把握する『鑑定』スキルの発動も」
『転移門』メニューのマップで該当の飛行機を大まかに指定したら、飛行機の移動に合わせて目標地点をトラッキングするようになった。どういう原理なんだろ。
「偶然、だと思います?」
「わかりません。この事件が起こることを知って、『ミリアナ・レインフォール』を現界できるようにした何かがいたとすると、御都合主義どころではないですが」
「ですよねえ…。うん、今、考えるのはよそう。時間がもったいないし」
「それでは、行ってくれるのですね!」
まあねえ、対処できる手段に十分過ぎるほどの心当たりがあるんじゃねえ。
それに、今ならまだ犯人達は『現界したミリアナ・レインフォール』などという存在に気づいていない。飛行機の中では、リアルタイムでニュースを見聞きしていないはずだからだ。
「じゃあ、討伐シーケンスに沿って、さっくりやってみます。可能ならば、それ以外にも」
「お願いします!」
トラッキング設定済のマップを再表示し、操作する。
【現実世界の『航空機XX931内』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
〔はい〕を、押す。
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