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夢に出てきたあの子

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 茉莉は、外が明るくなったのに気が付いて目が覚める。
 すると、私の目の前にいたのは青い目いっぱいに愛おしさをいっぱいにたたえた、アレクサンダーの顔だった。
 茉莉は、寝顔はともかく薄目を開けている顔を見られたくない!と必死で目を開け、アレクサンダーから顔を隠そうとしたところで、アレクサンダーから瞼にキスをされた。
「おはよう」
「…おはようございます」
 茉莉は、目が覚めても彼がいるということは、ひょっとしたらこれは夢ではない可能性が高くなった、と考えた。しかし、まだ長い長い夢を見ているだけという希望も持っている。
「ずっと一緒にいましょうね」
「トイレ以外ね」
 茉莉の軽口がうけたらしく、アレクサンダーが大口を開けて笑う。
この人はこんな笑い方もするんだな、と、すぐ照れるっていうところ以外の彼を知ることができるのが茉莉は嬉しい。昨夜ベッドを共にしたことで、なんとなく心の距離も縮まったような気がする。
「昨日と昨夜はあんまりいいところ見せられなかったから、今日から頑張ります」
 明るい顔のアレクサンダーは、茉莉から見るととても魅力的だ。ちょっとたれ目気味なのもかわいい。筋肉質で、ハリがある肌。
アレクサンダーは、多分、自分以外の女性にもとても魅力的だっただろうとも思う。まあ彼の過去には嫉妬はするまい、と茉莉は自分に言い聞かせる。自分だって人のことを言えるようなことをしてきたわけではない。
「アレクサンダーはかわいいなあ」
「本当?」
 アレクサンダーが頬を染める。肌が薄いのか、顔が赤くなるのがわかりやすい。
「マリがかわいいんだ。勉強も、仕事もずっと頑張ってきて、セックスも好きになった大人の女性になって、ようやく俺のところにやってきてくれた」
「……は?」
 突然のアレクサンダーの話に、茉莉は雑な返答をする。
何を言い出すんだこの人は。彼は私の人生を知っている…?
「子供のころから君が夢に出てきていた」
 アレクサンダーは茉莉の頭を自分の胸に抱え込み、話を続ける。
「毎年12月6日がマーガレットの祭日なんだけれど、その日の前後にはかならず同じ女の子が夢に出てきた。その子は夢の中で毎年少しずつ成長して、素敵な女性になっていくんだ」
 アレクサンダーはは茉莉の髪を撫でながら、話を続ける。
「夢だからあいまいなこともあるけど――20年くらい前、君は赤くて四角い鞄を背負って学校に通っていなかった?あと、10年くらい前までは、水兵のようなシャツを着て、学校に通っていなかった?」
「…うん」
 茉莉が小学生の頃のランドセルは確かに赤だった。そして、中学と高校の時の制服がセーラー服だった。そうか、こっちの水兵もセーラー服なのかと、情報を茉莉は頭にしまい込む。何かと頭の中で情報をすり合わせると、話自体に集中できないので良くない。
「子供のころは髪は肩につかないくらいの長さだったのが、水兵の服を着なくなったころから髪を伸ばしはじめたでしょう」
「うん」
 茉莉は、アレクサンダーに髪を空かれながら、うっとりと彼の胸に頭を寄せる。髪を撫でられるリズムも、彼の声も耳に気持ちが良い。
「そのあとも学校に通って、その子に恋人ができたんだって気が付いたときに、この黒髪の、背の高い女の子が俺の運命の子だって気が付いた。マリの恋人にすごいやきもちを妬いていたよ…」
 アレクサンダーは茉莉の黒髪に頬を埋める。
「ここ最近はあんまりにもその女性の淫夢を続けて見てしまっていたから、神殿で懺悔をしたんだ」
「えっ」
 会ったこともなかった女の夢――ただの夢でなくて、淫夢。どういうことだと茉莉は眉間にしわを寄せる。
「子供のころから毎年夢に見て、そして気が付いていたら恋してしまっていた女性が他の男と乳繰り合っている夢を毎晩見るのはキツかったんだ。明るい茶色の髪で、緑っぽい目の男」
「それは、あの」
「あんなチャラそうなやつ」
 ひょっとして、マットと毎日セックスしていたのを夢に見られていたのかと、茉莉は頭に血が上る。
 そして、お前だってダークブラウンの髪に水色の瞳でこのルックス、もてなかったわけがないだろうと言ってやろうと思ったら、唇に指を置かれた。
「ごめん、続けさせて。――それで、懺悔をしたら『それは”マーガレットの娘”が来る予兆かもしれない』と神官に言われて、夢を真面目に日記につけることになった。神官にも見られるものだから具体的なことは書かないようにしたけど」
 茉莉は、具体的なことって何だ、と思うがそれもとりあえず黙っておく。
「ここであなたが懺悔に行かなかったらどうなっていたの?」
 自分はあの草むらで野垂れ死んでいたんだろうかと思うと、淫夢を見てもらって良かったんだろうと、恥ずかしいという思いを飲み込むようにする。
 茉莉が恥ずかしがっているのをアレクサンダーは気が付いたらしく、詳しく夢の話はしない。
「どうだったんだろう。それでも僕が見つけたと思うけど。…夢を毎日のように見るようになってから2か月くらいたったら、マリがこちらの世界にくる夢を見るようになった。昨日で5日目だった。夢で見た君がいた場所は知っている場所だったから、ハリエット様に頼んで、昼間は一日何回か抜けさせてもらった。そうしたら昨日、ようやく会えたんだ…」
 アレクサンダーは優しく、そして強く茉莉を抱きしめる。
「ようやく会えた。子供のころからずっと好きだった女性に」
「…私はあなたのことを夢に見たりはしなかったのが、なんとなく申しわけない」
「いいんだ」
 茉莉は、子供のころから自分のことを夢に見て、運命の人だと思ってくれていた人に会えたということに感動に近い撃を受けながらも、アレクサンダーには昨日のうちにその話をしてもらえなかったものだろうかとも考える。
 茉莉の耳元でアレクサンダーは囁く。
「これから俺のことを深く知ってくれるよね?」
「もちろん」
 二人は唇を合わせる。茉莉の唇の間に舌を入れてこようとするアレクサンダーを抑え、茉莉は今は何時かと確認をする。
 押しのけられたアレクサンダーは、顔を茉莉の胸に埋めながら、「朝の6時半過ぎ」と答える。
「この時間にアニーを呼んでも迷惑ではない時間かな」
「どうして?」
 アニーを呼びたくない、という思いを隠さない声音でアレクサンダーが返答する。
「生理になったっぽい」
 アレクサンダーの眉毛が下がったのが見えた。
「生理が終わるまでは、口でしよう」
 茉莉は、その眉毛が面白くて、そう言った後に大笑いをしてしまった。多少の淫らな雰囲気もどこかに飛ばされてしまう明るい笑い声だ。
「二人の時間はこの先たっぷりあるんだから」
 茉莉の、前向きな発言にアレクサンダーが喜ぶ。今なら、これが夢じゃないならいいのにって思える。
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