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第十七章 転げ落ちていく帝国

幕間95話 ルーナの剣。⑤

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    模擬戦をする為に、レナードさんはあたしを連れて冒険者ギルドへ向かった。ギルドには訓練のために使える練習場がある。そこに連れていかれた。あたしも王都にいる間に冒険者ギルドに登録していたので場所は知っていた訳ね。

    練習場は、昼間と言うことで誰も居なかった。
ギルドから模擬剣を借りたら、『またですか?』と受付嬢から言われた。
私の前にも、やはり模擬戦をしていたようだ。あたしも早速模擬戦を始める。

    レナードさんは、片手剣と盾の正当な騎士タイプの構えで、あたしは両手にショートソードを持つ二刀流だ。

    審判無しの立ち会いで、構えた瞬間から戦いは始まっている。

得意の素早さを生かしたヒットアンドアウェイで相手の懐に飛び込んで攻撃を仕掛ける。
だが、巧みに盾を使ってあたしの左右からの攻撃を防いだ。

(くっ、堅いね。まるであの神官さんと同じ戦い方だな。なら、これはどうだ。)

ヒットアンドアウェイだけでなく、サイドステップも合わせて横への幅広い攻撃を仕掛ける。 

(くそ!これでも堅いのか?盾の使い方は神官さん以上だな。)

「ふふふ、流石に見込んだだけはあるな。なかなか手強いな。だが、まだまだ甘いぞ!そらっ!」

丁度重心を移動しているときに、盾で押される形でシールドバッシュされ、バランスを崩してしまい、尻餅を着いてしまった。そこに剣を突き付けられてゲームオーバー。
あたしの負けが決まった。

「俺の勝ちで良いな?」
「ええ、貴方の勝ちよ。負けたわ。約束通りに騎士になるわ。」
「ああ、有り難う。歓迎するよ。よろしくな。」

そう言って、倒れていたあたしに手を差し伸べて、引き上げてくれた。 

    「では。ルーナ。この場所のツール伯爵の屋敷にある別館が騎士宿舎になっているから、今日明日の内に荷物を持って移動してくれるか?」
「ええ、わかったわ。」
「家族がいるなら、落ち着いてからでよいので家族に連絡を入れておいてくれ。」
「確かに。わかったわ。」
「では、これからは閣下の元で閣下をお助けする仲間だ。宜しく頼む。」
「了解です、団長。所で給金は幾ら貰えるのかな?」
「ははは、入ってから最初にそれを聞くか?安心しろ。下手な所よりも良いぞ。月に金貨二枚だ。勿論将来的に役に就く様になれば昇給する。うちの閣下は価値有るものには惜しまない方だからな。ただし、その分選ばれる基準は高いがな。」
「へぇー、その伯爵様ってお金持ちなんだね。強くて金持ちか。お会いするのが楽しみだな。」

    結局、あたしは新任のツール伯爵家の騎士団に採用された。まぁ、団長は強いし、伯爵はその団長よりも更に強いらしいし、給金も他の貴族家よりも倍近く良い。これで文句をいったらバチが当たる位の好条件だわ。
団長に言われたように、翌日に早速泊まっていた宿屋の荷物を纏めて引き払い、聞いていた場所へ向かったわ。

    教えられていた場所は以前は貴族派の屋敷だったらしく、使い古しの屋敷のようだ。思いの外にお城から近い場所で驚く事になる。そしてなにより、聞いていた話と違い真新しく建てたばかりの屋敷と見間違うほどの新しさだった。

    「こんにちは。ここはツール伯爵様のお屋敷ですか?」
「はい。そうですが。何かご用ですか?」
「レナードさんいらっしゃいますか?騎士に採用されたルーナと申します。」
「ああ、貴方がルーナさんですか。レナード様からお聞きしています。残念ながらレナード様は今は外出されております。貴方の事は訪問してきたら、別館に案内してやってくれと言付けされていますので、案内しますから私に着いて来て下さい。おい、案内して来るから暫くここを頼むぞ。」

    門番の人が同僚の人に断わりを入れて案内をしてくれる。
前を行く門番さんの後に続いて着いていく。

庭もきれいに手入れしてあって、とても取り潰しになった貴族の屋敷とは思えないほど、綺麗に整えられていた。

「大きなお屋敷ですねぇ。前の持ち主も綺麗にしていたのかな?」
「いや、俺は前のリンチ伯爵の時からこの屋敷の門番を勤めていたが、前の伯爵様はとてもこんなに綺麗に手を入れる人ではなかったな。あまり庭とか気にされる方ではなかったしな。」

(なんだ、このおっちゃん前から勤めていた人か。)

「門番のおじさん。前もここで門番していたの?」
「ああ、前の リンチ伯爵が取り潰しになって、仕事がなくなった時に、今の伯爵様が優先的に俺たちに仕事をしないかと拾って頂いたんだよ。お若いのに下の者の気持ちが解る良い方さ。この屋敷に勤める者は、皆伯爵様に拾ってもらった者ばかりさ。しかも金払いも良いしな。」
「へー、優しい人なんだね、その伯爵様って。」 
「ああ、だから伯爵様を守る騎士になるんだろ?しっかりと守ってくれよ。」
「でも、聞いた所ではその伯爵様ってレナードさんよりも強いんでしょ?」
「そうなのかい?見た目はとてもそうには見えなかったがな。よし、この建物だ。既に嬢ちゃんと同じく騎士団に誘われて来た人が居るから、詳しいことはその人達から聞いてくれるかな?」
「うん、有難う、おっちゃん。助かったよ。」
「おう、頑張れよ。じゃな。」

    別館の入り口まで案内してくれた門番は、挨拶して元の仕事に戻っていった。それを見送ると建物の玄関に入り声を張り上げる。

「すみませーん!誰かいませんか?」
「はーい。・・・はい、こんにちは。どなた様でしょうか?」
「あたしは、ルーナ。今度こちらの騎士団に採用された者なんだけど。」
「はいはい、聞いておりますよ。新しく騎士団に入られる方ですね。お部屋に案内致しますね。着いて来て下さい。」

そう言ってメイドの服を着た二十代の半ばのおっとりした女が応対して、玄関の正面にある階段を登っていく。

「ここは、一階が食堂と厨房やリネン室、男女別の浴室で、一階と二階が男性の騎士の方の部屋となります。女性は三階の部屋になります。」
「大きな別館ですね。しかも新しいし。」
「そうですよね。私は昔を知っているので、とても同じ建物だとは信じられませんよ。しかも、ここの新しい旦那様が魔法で一瞬に新品同様にして。自分の目で見たけど、未だに信じられないですよね。さぁ、この部屋です。個室になりますので綺麗に使って下さいね。食事は毎日朝は七時、昼は十二時、夜は八時になります。遅れないようにしてくださいね。規定より二時間遅れたら食事抜きになります。また、外食される時には、事前に伝えてくださいね。門限は有りませんが、皆さんの責任で行動して下さいね。お風呂の順番は騎士の方達で決めてください。生活していく上で、分からないことがあれば、私達メイドに聞いて下さい。私は王都のツール伯爵邸のメイド長を勤める、サマンサと申します。では、これからは宜しくお願いしますね。」

    綺麗にお辞儀をしてから彼女は階下に降りていった。
部屋に入ると、今日まで泊まっていた宿屋の個室よりも倍近く広く、家具寝具は一通り揃えてあり、上等な宿屋の部屋以上であった。

「うわぁー、実家の部屋より広いや。なんて贅沢な。金掛かっているわねぇ。」

    持っていた僅かな荷物をテーブルの上に置いて、ベッドの端に腰を下ろす。
ベッドも真新しいシーツや毛布、マットレスで安宿よりも清潔だった。

(住みかは十分。後は伯爵様がどれ程強いかだね。手合わせが楽しみだわ。)

    落ち着いた所で、そんな事を考えていたら、扉をノックする音がした。

(誰だろう?)
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