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第十五章 王都で貴族のお仕事。そして・・・。
第320話 リヒト公爵邸はいつもの如し。②
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剣の訓練の為に着替えた兄弟と、何故か今回も一緒にいるセイラ。
どうしたと聞いても、『気にしないで下さい。』と言うだけで、弟達と一緒に嬉しげに木剣を持って並んでいる。
私はそれ以上突っ込む事は諦めて稽古を始めた。外での稽古なので、ひっそりとサラマンドラを呼び出して、外に居る者に二時間ほど暖かくなる様に頼んだ。冬はサラマンドラ様様だな。
「さて、久しぶりの稽古だが、二人とも足に鉛は巻いているかな?」
「はい!」
「巻いてあります。」
それぞれに、あると答える。セイラは言わずもがなだね。
「前回から大分経つが、足の重りはまだ重いかい?」
「最初はきつかったですが、今は気になりません。」
「同じです。」
「そうか。では、ガウェインは十三歳になったな?」
「はい、なりました。」
「では、重りを一キロに増やしなさい。そして十五歳になったら一キロ五百に増やす事。いいね?」
「はい、分かりましたコーチ。」
「アルベルトは、十三歳になるまで、今のままで。いいね?」
「兄様の様に重りを増やしてはいけないのですか?」
「ああ、駄目だ。理由は君は今年でやっと九歳だ。体がまだまだ大人になっていない。骨が確りしていない時期に骨に強い負担をかけるのは、体の成長に支障がでやすくなるからね。まずは骨が確りしてくる十三歳まで我慢しなさい。いいね?」
「はい、分かりましたコーチ。」
「よし。では、前回教えた型をやるように。構えて、始め!」
掛け声と共に、剣を型に沿って振り始める。
以前感じた踏み込みがまだ少し弱く感じた。多分同年代の子供なら十分なのだろうが、剣は人と比べるものではない。あくまでも理想に対して、どうなのかが大事なのだ。昔じいちゃんが言ってたな。
踏み込む足の力は不十分に見えたので、もっと強く踏み込むように直す。うん、良い感じだ。
「よし、止め。型稽古でもう息が上がったか。鍛練不足だな。より頑張るように。さて、注意点だが、ガウェインは足の踏み込みをもっと深くするように。腰の位置が高い。つまり上半身だけで剣を振っているからだ。だから剣を振るう音が弱い。直すように。」
「はいっ、分かりました。」
「アルベルトは、年齢的に上半身の筋肉が弱いから仕方ないが、もっと握力を鍛えろ。剣を握る力が弱いから、回数剣を振ると、刃筋がぶれてくる。意識して握力を鍛えるように。セイラは突きのスピードが鈍い。腰の捻りからの上半身の突きの動作が連動していない。腕だけで突いている。目の前の目標を突き通す積もりで突くように。腰の捻りが大事だぞ。いいね?」
「分かりましたわ。」
「よし、では型を突きから始めて逆になぞる様に。始め!」
再び、型の訓練をさせ、再び注意点を伝える。
「さて、型稽古ばかりでは、詰まらないだろうから、戦闘術を一つ教える。抜剣術または抜刀術と呼ばれる技術だ。」
「コーチ、それはコーチがいつも練習しているアレですか?」
セイラが、興味深そうに聞いてくる。
「そうだ。剣術の流派は色々とあろうが、先に斬った方が勝ちまたは有利なのはどの流派であろうと変わらぬ真理だ。その手段として考え出されたのが抜刀術だ。どんな技かまずお手本を見せる。」
木剣を腰だめに構える。
「三人とも私を正面から見なさい。」
三人共に、私の構えの正面に立つ。それを確認して三人に問う。
「その方角から見て、剣の長さを把握できるかい?」
「正直分かりません。」
「ここからだと、短く見えるよね。」
「剣の間合いが、分かりませんわ。」
「そうだ。それがこの構えの意味だ。剣が抜かれている状態は、ある意味間合いや剣の動きを相手に知られてしまう状態でもあると言うことだ。そして。」
言葉が途切れた後に、抜き打ちをする。
「敵がこちらの間合いに入った瞬間に素早く抜き打ちする訳だ。ここで言う間合いとは、踏み込んで剣の切っ先が届く距離をいう。狙う場所は、首または喉。あとは利き腕か手首だ。剣を抜いた以上は、その一撃で決着させる気持ちで抜くこと。それでは、私と同じように構えて。」
三人がそれぞれに構えたのを、間違っているところは修正して、型を教えていく。
「いいか、初めは無理に早く剣を抜こうとは思うな。それよりも、抜いた剣の刃筋が的に対して立っているかを意識して抜け。お手本はこうだ。」
構えから、抜刀して納刀して再び構える。
「は、早い。」
「剣が見えないよ。」
「・・・・。」
セイラは黙って一連の動作を見ていたようだが、弟達は一連の動作の早さに驚いて声を上げていた。
「言っておくが、毎日練習をして、一人前に抜くことが出来る様になるには、十年かかる。だから慌てず、毎日少しずつで良いので練習をすること。剣術の道に近道はない事を忘れるな。流す汗と悔し涙の量だけが、技を磨いてくれると覚悟しなさい。では、抜き打ちの練習を始め。」
三人がそれぞれに抜き打ちを始める。
構えをその都度直して、力を抜いてやるように注意する。一時間程やらせるとセイラは少しは様になってきた。弟達はまだまだだ。
「よし、それまで。何事においても、基本が出来てから、次に進めるからね。日々の基本練習を疎かにしないこと。いいね?」
「はい、頑張ります。」
「忘れないようにします。」
「では、ここまで。風邪をひかないように気を付けること。では解散。」
訓練終了で屋敷に戻ろうとする私に、ずっと後ろで見ていたらしい公爵が尋ねてきた。
「まだ、技を教えるには、下の子等は早いのではないかい?」
「剣術の技なら、まだ早いでしょうが、抜刀術は技ではなく剣術そのものです。性格と同じで、戦闘スタイルは、一人一人異なってきます。抜刀術は身に付けるなら早く始めた方が良いと思います。私も祖父から習い始めて、納得いくレベルになるのに十年かかりましたからね。兎に角今は型が大事です。正しい剣の振り方を身に付けることが大事ですから。」
「改めて武術の道は厳しいのだねぇ。」
「まあ、命に関わってくる事ですからね。楽ではないですよ。(笑)」
公爵とそんな事を話ながら屋敷に戻っていった。
どうしたと聞いても、『気にしないで下さい。』と言うだけで、弟達と一緒に嬉しげに木剣を持って並んでいる。
私はそれ以上突っ込む事は諦めて稽古を始めた。外での稽古なので、ひっそりとサラマンドラを呼び出して、外に居る者に二時間ほど暖かくなる様に頼んだ。冬はサラマンドラ様様だな。
「さて、久しぶりの稽古だが、二人とも足に鉛は巻いているかな?」
「はい!」
「巻いてあります。」
それぞれに、あると答える。セイラは言わずもがなだね。
「前回から大分経つが、足の重りはまだ重いかい?」
「最初はきつかったですが、今は気になりません。」
「同じです。」
「そうか。では、ガウェインは十三歳になったな?」
「はい、なりました。」
「では、重りを一キロに増やしなさい。そして十五歳になったら一キロ五百に増やす事。いいね?」
「はい、分かりましたコーチ。」
「アルベルトは、十三歳になるまで、今のままで。いいね?」
「兄様の様に重りを増やしてはいけないのですか?」
「ああ、駄目だ。理由は君は今年でやっと九歳だ。体がまだまだ大人になっていない。骨が確りしていない時期に骨に強い負担をかけるのは、体の成長に支障がでやすくなるからね。まずは骨が確りしてくる十三歳まで我慢しなさい。いいね?」
「はい、分かりましたコーチ。」
「よし。では、前回教えた型をやるように。構えて、始め!」
掛け声と共に、剣を型に沿って振り始める。
以前感じた踏み込みがまだ少し弱く感じた。多分同年代の子供なら十分なのだろうが、剣は人と比べるものではない。あくまでも理想に対して、どうなのかが大事なのだ。昔じいちゃんが言ってたな。
踏み込む足の力は不十分に見えたので、もっと強く踏み込むように直す。うん、良い感じだ。
「よし、止め。型稽古でもう息が上がったか。鍛練不足だな。より頑張るように。さて、注意点だが、ガウェインは足の踏み込みをもっと深くするように。腰の位置が高い。つまり上半身だけで剣を振っているからだ。だから剣を振るう音が弱い。直すように。」
「はいっ、分かりました。」
「アルベルトは、年齢的に上半身の筋肉が弱いから仕方ないが、もっと握力を鍛えろ。剣を握る力が弱いから、回数剣を振ると、刃筋がぶれてくる。意識して握力を鍛えるように。セイラは突きのスピードが鈍い。腰の捻りからの上半身の突きの動作が連動していない。腕だけで突いている。目の前の目標を突き通す積もりで突くように。腰の捻りが大事だぞ。いいね?」
「分かりましたわ。」
「よし、では型を突きから始めて逆になぞる様に。始め!」
再び、型の訓練をさせ、再び注意点を伝える。
「さて、型稽古ばかりでは、詰まらないだろうから、戦闘術を一つ教える。抜剣術または抜刀術と呼ばれる技術だ。」
「コーチ、それはコーチがいつも練習しているアレですか?」
セイラが、興味深そうに聞いてくる。
「そうだ。剣術の流派は色々とあろうが、先に斬った方が勝ちまたは有利なのはどの流派であろうと変わらぬ真理だ。その手段として考え出されたのが抜刀術だ。どんな技かまずお手本を見せる。」
木剣を腰だめに構える。
「三人とも私を正面から見なさい。」
三人共に、私の構えの正面に立つ。それを確認して三人に問う。
「その方角から見て、剣の長さを把握できるかい?」
「正直分かりません。」
「ここからだと、短く見えるよね。」
「剣の間合いが、分かりませんわ。」
「そうだ。それがこの構えの意味だ。剣が抜かれている状態は、ある意味間合いや剣の動きを相手に知られてしまう状態でもあると言うことだ。そして。」
言葉が途切れた後に、抜き打ちをする。
「敵がこちらの間合いに入った瞬間に素早く抜き打ちする訳だ。ここで言う間合いとは、踏み込んで剣の切っ先が届く距離をいう。狙う場所は、首または喉。あとは利き腕か手首だ。剣を抜いた以上は、その一撃で決着させる気持ちで抜くこと。それでは、私と同じように構えて。」
三人がそれぞれに構えたのを、間違っているところは修正して、型を教えていく。
「いいか、初めは無理に早く剣を抜こうとは思うな。それよりも、抜いた剣の刃筋が的に対して立っているかを意識して抜け。お手本はこうだ。」
構えから、抜刀して納刀して再び構える。
「は、早い。」
「剣が見えないよ。」
「・・・・。」
セイラは黙って一連の動作を見ていたようだが、弟達は一連の動作の早さに驚いて声を上げていた。
「言っておくが、毎日練習をして、一人前に抜くことが出来る様になるには、十年かかる。だから慌てず、毎日少しずつで良いので練習をすること。剣術の道に近道はない事を忘れるな。流す汗と悔し涙の量だけが、技を磨いてくれると覚悟しなさい。では、抜き打ちの練習を始め。」
三人がそれぞれに抜き打ちを始める。
構えをその都度直して、力を抜いてやるように注意する。一時間程やらせるとセイラは少しは様になってきた。弟達はまだまだだ。
「よし、それまで。何事においても、基本が出来てから、次に進めるからね。日々の基本練習を疎かにしないこと。いいね?」
「はい、頑張ります。」
「忘れないようにします。」
「では、ここまで。風邪をひかないように気を付けること。では解散。」
訓練終了で屋敷に戻ろうとする私に、ずっと後ろで見ていたらしい公爵が尋ねてきた。
「まだ、技を教えるには、下の子等は早いのではないかい?」
「剣術の技なら、まだ早いでしょうが、抜刀術は技ではなく剣術そのものです。性格と同じで、戦闘スタイルは、一人一人異なってきます。抜刀術は身に付けるなら早く始めた方が良いと思います。私も祖父から習い始めて、納得いくレベルになるのに十年かかりましたからね。兎に角今は型が大事です。正しい剣の振り方を身に付けることが大事ですから。」
「改めて武術の道は厳しいのだねぇ。」
「まあ、命に関わってくる事ですからね。楽ではないですよ。(笑)」
公爵とそんな事を話ながら屋敷に戻っていった。
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