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第十三章 何でも準備中が一番楽しいのさ。
第253話 段取り段取り。⑤
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イーストンの手順が済むと、続いてサウスラーニの手順に移る。
「さて、サウスラーニに行くまでにイーストンで一ヶ月ほどの時間がかかる予定です。その間にメーガン殿には、サウスラーニで解放軍の戦力を整えておいて貰います。多ければ多いほど良いのは言うまでもない。奴隷兵士から解放した者を吸収しても良いし、新規に集めて貰っても良いし。そこはお任せしますよ。まあ、実際には帝国とは戦うことは殆んど無い予定ですがね。
まず、サウスラーニに駐留している帝国軍を殲滅します。その後は駐屯地に保管されている兵糧や軍資金を接収します。基本手順はイーストンと同じです。
奴隷兵士がいれば、まず解放して帝国兵であれば、魔法で処分します。駐留軍がいなくなれば解放軍に参加する者も、一気に増えるでしょう。
後は、もし増援を送ってきたら、それも同様に倒します。勿論私も手を貸しますがね。メーガン殿にも期待させて貰いますよ。
その後は統治者の候補を全面に押し立てて、彼の功績を言い立てて、周囲の都市を吸収し、他の勢力を吸収又は潰して、まず国内を統一します。独立運動を広めていきます。兎に角、駐留軍さえ何とかすれば、イーストンよりも楽に独立できますよ。その為にも、以前にメーガン殿に頼んだように、新たに統治者として旗頭になる人物を見つけて下さい。宜しいか?」
「はい大変ですが、承知致しました。」
メーガンに確認すると、自信があるのか、はっきりとした返事を返してきた。
「新しい指導者は出自ではなく、基本能力を重視してください。どのみち、十年間は誰が指導者になろうと、国内はバタバタしますからね。それを静めるためにも、しっかりした戦力を背景に出来る人物にして下さい。あと、余りにも我々に対して反対する勢力は躊躇なく潰すこと。躊躇とそれだけ帝国から介入され易くなることを忘れてはいけません。体制が整ったら独立を宣言します。あとは、サウスラーニの人達の問題なので、まあ頑張って下さい。」
ここまでを、一気に話すと、冷めきったお茶を飲み干す。
冷めたお茶は香りも飛んでいて旨くなかった。
「ふぅ。一気に話しましたけど、あくまでも予定だから、現地で予想外の事が起こることも十分にあるので、その時は臨機応変に相談して行動しましょう。今の話の中で何か質問はありますか?」
イチモンジが手を上げる。
「イチモンジ殿、何かな?」
「解放された後、将軍家の若殿は何時イーストンに戻れますでしょうか?」
「今の予定ではイーストンが独立宣言した後なら、何時でもイーストンに戻してやるよ。出来たらサウスラーニが独立した後だと、私も忙しくないので助かるがね。だが、会ってみてよっぽど助力するに値しないようなら助けたあと好きにして貰うよ。その時は将軍職を放棄する書状を書いて貰う。あとは生きるも死ぬもそいつ次第だ。私の知ったことではない。独立宣言の前に政治的行動をすると命を狙われるとだけは言っておくよ。本来助ける気はなかったしね。助けるのはイチモンジ殿との約束だからだ。」
「承知しております。」
「ツールにいる間は、家の屋敷に泊まってもよいから、心配ならイチモンジ殿も一緒に泊まっていて良いからね。只、手前勝手に動くのは迷惑だから、必ず止めること。勝手にイーストンに来て、政治的行動をして暗殺されても責任は全く持ちませんし、先に殺される可能性が高いとも言ってあるからね。分かったねイチモンジ殿?」
「十分承知致しました。」
「他には有りませんか?」
また見回す。今度は誰も手を上げる様子がない。
「では、五日後行動に移ります。各自、必要な準備をして下さい。今伝えたのはあくまでも予定です。現地では必要であれば、適時変更していきます。以上今日はこれで解散です。お疲れさまでした。」
そう言うと皆ソファーから立ち上がり、自分達の行動の先に展望が見えたのか、明るい顔付きで部屋から出ていくか、使命感に顔の筋肉を強ばらせているかのどちらかだった。
私は執務机の椅子に座ると、思わずため息をつき、体から力が抜けていく。
机の上の呼び鈴を鳴らすと、サウルが部屋に入ってきた。
「サウル、今何時ごろかな?」
「三時を回り、半ば頃かと。」
「三時半か。流石に今日は疲れたよ。立て続けで会合だ。面会希望者とかいないよね?」
「はい、おりません。旦那様、今日はもうお仕事は切り上げられましては如何でしょうか。」
「そうだね。根を詰めても大きなミスをしてしまいそうだから、怖いしね。この後は、少し体を動かしてくるよ。」
「それが宜しいかと。」
「有り難う。着替えてくるわ。」
私室に向かい、冒険者スタイルに着替える。武器はいつものバスタードソードではなく、先日祠から見つけた日本刀をインベントリィから取り出す。
刀を手に屋敷の裏にある練兵場に向かう。夕方に近い事もあり、人影は無かった。
久々の運動だ。準備体操をして、薄っすらと汗をかいた頃に、刀を手に持ち握り具合や手に感じる感触を確認する。
流石に、普段使っているバスタードソードとは重さやバランスが違う事が判る。それでも、子供の頃から大学卒業まで、扱っていたので素振りを十分もすれば、体が覚えているのか直ぐに馴染む。
抜刀術の型の練習を繰り返して日が暮れるまで刀を振っていた。最後の方は様になっていた。
最後に据え物切りで締める。訓練で的として使っている廃棄用の鉄製の鎧を抜刀術の型から抜き打ちで斬ってみた。
腰を落として、半身の型から『気』を体と刀に巡らせながら、呼吸を整える。気の流れが落ち着いた一瞬、抜き打ちで斬った後、鞘に納刀する。手応えはなかったが、斬った感触はある。
サウルの方に振り返って、一緒に夕食に向かった。屋敷に入るために建物の角を曲がった時に、練兵場の方から何か重い物が落ちた様な音が聞こえた。
「おや、何か音がしましたな。何事でしょう?」
「ああ、気にするな。的の鎧が斬られて重さで落ちた音だろうさ。」
「なんと、真ですか?」
「ああ、久々に刀を振るったが、体は覚えていたようだね。出来て良かったよ。」
「鉄を斬ることなんて、出来るのですね。知りませんでした。」
「鋼だって出来るさ。それが出来て初めて、神刀流を名乗れるからね。」
驚いた顔を貼り付けたままのサウルを連れて屋敷に入っていく私だった。
「さて、サウスラーニに行くまでにイーストンで一ヶ月ほどの時間がかかる予定です。その間にメーガン殿には、サウスラーニで解放軍の戦力を整えておいて貰います。多ければ多いほど良いのは言うまでもない。奴隷兵士から解放した者を吸収しても良いし、新規に集めて貰っても良いし。そこはお任せしますよ。まあ、実際には帝国とは戦うことは殆んど無い予定ですがね。
まず、サウスラーニに駐留している帝国軍を殲滅します。その後は駐屯地に保管されている兵糧や軍資金を接収します。基本手順はイーストンと同じです。
奴隷兵士がいれば、まず解放して帝国兵であれば、魔法で処分します。駐留軍がいなくなれば解放軍に参加する者も、一気に増えるでしょう。
後は、もし増援を送ってきたら、それも同様に倒します。勿論私も手を貸しますがね。メーガン殿にも期待させて貰いますよ。
その後は統治者の候補を全面に押し立てて、彼の功績を言い立てて、周囲の都市を吸収し、他の勢力を吸収又は潰して、まず国内を統一します。独立運動を広めていきます。兎に角、駐留軍さえ何とかすれば、イーストンよりも楽に独立できますよ。その為にも、以前にメーガン殿に頼んだように、新たに統治者として旗頭になる人物を見つけて下さい。宜しいか?」
「はい大変ですが、承知致しました。」
メーガンに確認すると、自信があるのか、はっきりとした返事を返してきた。
「新しい指導者は出自ではなく、基本能力を重視してください。どのみち、十年間は誰が指導者になろうと、国内はバタバタしますからね。それを静めるためにも、しっかりした戦力を背景に出来る人物にして下さい。あと、余りにも我々に対して反対する勢力は躊躇なく潰すこと。躊躇とそれだけ帝国から介入され易くなることを忘れてはいけません。体制が整ったら独立を宣言します。あとは、サウスラーニの人達の問題なので、まあ頑張って下さい。」
ここまでを、一気に話すと、冷めきったお茶を飲み干す。
冷めたお茶は香りも飛んでいて旨くなかった。
「ふぅ。一気に話しましたけど、あくまでも予定だから、現地で予想外の事が起こることも十分にあるので、その時は臨機応変に相談して行動しましょう。今の話の中で何か質問はありますか?」
イチモンジが手を上げる。
「イチモンジ殿、何かな?」
「解放された後、将軍家の若殿は何時イーストンに戻れますでしょうか?」
「今の予定ではイーストンが独立宣言した後なら、何時でもイーストンに戻してやるよ。出来たらサウスラーニが独立した後だと、私も忙しくないので助かるがね。だが、会ってみてよっぽど助力するに値しないようなら助けたあと好きにして貰うよ。その時は将軍職を放棄する書状を書いて貰う。あとは生きるも死ぬもそいつ次第だ。私の知ったことではない。独立宣言の前に政治的行動をすると命を狙われるとだけは言っておくよ。本来助ける気はなかったしね。助けるのはイチモンジ殿との約束だからだ。」
「承知しております。」
「ツールにいる間は、家の屋敷に泊まってもよいから、心配ならイチモンジ殿も一緒に泊まっていて良いからね。只、手前勝手に動くのは迷惑だから、必ず止めること。勝手にイーストンに来て、政治的行動をして暗殺されても責任は全く持ちませんし、先に殺される可能性が高いとも言ってあるからね。分かったねイチモンジ殿?」
「十分承知致しました。」
「他には有りませんか?」
また見回す。今度は誰も手を上げる様子がない。
「では、五日後行動に移ります。各自、必要な準備をして下さい。今伝えたのはあくまでも予定です。現地では必要であれば、適時変更していきます。以上今日はこれで解散です。お疲れさまでした。」
そう言うと皆ソファーから立ち上がり、自分達の行動の先に展望が見えたのか、明るい顔付きで部屋から出ていくか、使命感に顔の筋肉を強ばらせているかのどちらかだった。
私は執務机の椅子に座ると、思わずため息をつき、体から力が抜けていく。
机の上の呼び鈴を鳴らすと、サウルが部屋に入ってきた。
「サウル、今何時ごろかな?」
「三時を回り、半ば頃かと。」
「三時半か。流石に今日は疲れたよ。立て続けで会合だ。面会希望者とかいないよね?」
「はい、おりません。旦那様、今日はもうお仕事は切り上げられましては如何でしょうか。」
「そうだね。根を詰めても大きなミスをしてしまいそうだから、怖いしね。この後は、少し体を動かしてくるよ。」
「それが宜しいかと。」
「有り難う。着替えてくるわ。」
私室に向かい、冒険者スタイルに着替える。武器はいつものバスタードソードではなく、先日祠から見つけた日本刀をインベントリィから取り出す。
刀を手に屋敷の裏にある練兵場に向かう。夕方に近い事もあり、人影は無かった。
久々の運動だ。準備体操をして、薄っすらと汗をかいた頃に、刀を手に持ち握り具合や手に感じる感触を確認する。
流石に、普段使っているバスタードソードとは重さやバランスが違う事が判る。それでも、子供の頃から大学卒業まで、扱っていたので素振りを十分もすれば、体が覚えているのか直ぐに馴染む。
抜刀術の型の練習を繰り返して日が暮れるまで刀を振っていた。最後の方は様になっていた。
最後に据え物切りで締める。訓練で的として使っている廃棄用の鉄製の鎧を抜刀術の型から抜き打ちで斬ってみた。
腰を落として、半身の型から『気』を体と刀に巡らせながら、呼吸を整える。気の流れが落ち着いた一瞬、抜き打ちで斬った後、鞘に納刀する。手応えはなかったが、斬った感触はある。
サウルの方に振り返って、一緒に夕食に向かった。屋敷に入るために建物の角を曲がった時に、練兵場の方から何か重い物が落ちた様な音が聞こえた。
「おや、何か音がしましたな。何事でしょう?」
「ああ、気にするな。的の鎧が斬られて重さで落ちた音だろうさ。」
「なんと、真ですか?」
「ああ、久々に刀を振るったが、体は覚えていたようだね。出来て良かったよ。」
「鉄を斬ることなんて、出来るのですね。知りませんでした。」
「鋼だって出来るさ。それが出来て初めて、神刀流を名乗れるからね。」
驚いた顔を貼り付けたままのサウルを連れて屋敷に入っていく私だった。
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