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第十三章 何でも準備中が一番楽しいのさ。

第243話 こんなに忙しい貴族は私だけ?④

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    肉串が焼き上がるまで、周りの屋台を見て回ることになった。
まずは、ナン擬きに刻んだ野菜やひき肉を炒めたものを乗せた料理の屋台に向かう。

    「まあ、これは魔物の討伐に行った時に食べた料理ですね。ここで売っていたのですか。」


シーラが懐かしそうに売り物を見ている。

「そうさ。おっちゃん、これ、四つおくれ。」
「あいよ、四つで銅貨八十枚だ。」

銀貨一枚渡してお釣りを貰う。

「さあ、熱いから気を付けてくれよ。」

一人一人に渡される。
皆でハフハフして食べる。アルは食べながらも、呟きながら、食べている。

「熱いのにゃ!でも旨いのにゃ!」

一頻りひとしきり食べ終わると、次に、レイクトラウトという、日本のニジマスに似た魚の焼き魚があった。
これは私も食べた事が無かったので、各自で一匹ずつ買ってみた。
シーラが言うには、内陸部の街では割りとポピュラーな魚らしかった。
味はニジマスよりも紅鮭に近かった。
焼き魚を食べ終わる頃に、肉串の屋台のオヤジから出来たぞと声をかけられた。
屋台に戻ると、五十本の肉串が皿の上に山盛りとなっていた。

「皆、まだお腹に余裕あるかい?」
「ショウ様、私はもうお腹が一杯てすわ。」
「ショウさん、一本貰うわ。」
「アルもにゃー!」
「食べすぎると太るぞ(笑)。」
「大丈夫よ。成長期だから。」

しれっとした顔でアイリスが言うと、アルメイダも勢いで言う。

「アルも成長期だから、大丈夫にゃ!でも、成長期って何にゃ?」

それを聞いて笑いながら、皿から一本ずつ二人に渡した。残りはインベントリィに仕舞う。
肉串を二人が食べ終わるまで、シーラと共に待っていると、食べた物がどこに入ったのか不思議な程に早く食べ終わる。

「二人とも、タレで口の回りが汚れているぞ。」

そう言って、インベントリィからハンカチを取り出して、拭いてやる。二人とも大人しく拭いて貰うと礼をいう。

「そろそろ一時間経つから、肉屋に戻るぞ。」

声をかけて、歩き始める。

「おじさん、出来てるかい?」
「おおう、来たか。鶏肉の用意はできてるぞ。持ってくるから待っていろ。」

そう言い店の奥に行き、木の葉を乾燥させた物に包まれた鶏肉とハムを十本抱えて戻ってくる。

「あいよ、お待たせ。納めてくれ。」
「有難う。貰っていくね。」
商品を貰うと包みごとインベントリィに全て納めた。

    お腹も一杯にり、次に商業ギルドに向かった。夕方に近付いて来たせいか、人通りが多くなっている。皆で歩きながら、ギルドへ向かうと、向かいから小走りで歩いてくる男が私とすれ違い様に私の懐に手を入れてきた。
反射で、懐に入っているその腕を掴む。
私の懐に手を入れたまま腕を捕まれて、背中にねじ曲げられた男は痛みに呻いてうつ伏せに組敷かれていた。

「私にスリを仕掛けるとは、良い度胸ですね。〈スタン〉。」
「ううっ。」

痛みに呻きながら、スリは麻痺して動けなくなった。
麻痺したのを確認してから離れると、男は逃げようと言うのか、動こうとあがく。
インベントリィからロープを取り出すと、手足を縛り逃げられなくする。
男を引き立てて、近くの衛兵の詰め所に連れていく。

    「む、どうしたのだ?その縛られている男は?」
「ご苦労様です。この男はスリを私にしてきたので、その場で捕まえました。」
「なに?!スリだと。よし、事情を聞こうか。悪いが君も事情を聞かしてくれるかな。手間は取らせないから頼むよ。」
「分かりました。シーラ、済まないが、二人を連れて教会で待っていてくれるかな?」
「分かりました。ショウ様もお気を付けて。」
「何、事情説明だけだから、すぐに済むよ。」

    二人の事をシーラに頼むと、スリを連れて詰め所の中に入る。

    スリを衛兵に預けると、机のある小部屋に案内されると、衛兵の隊長らしき人が私と向かい合わせに座った。


    「スリを捕まえたそうですね。良く捕まえられましたね?大したものです。済みませんか、身分証をお見せください。」

言われるままに冒険者ギルドカードを取り出して相手に見せる。

    「え、A級冒険者ですと。成る程、納得しました。あのスリも狙った相手が悪い。オオガミさんですか。うん?どこかで聞いた様な・・・う~ん、思い出せない。まあ良い、どこでスリに会いましたか?」

    ギルド証を返して貰いながら、衛兵の質問に答えていく。三十分程で事情聴取を済ませて、詰め所を出た。

「さて、皆を迎えに行かないとな。」

教会のある方向に歩きだすと十分も歩かずに教会にたどり着く。外で掃除をしているシスターがいたので、声をかける。

    「こんにちはシスター。私の連れで助祭のシーラと子供が二人こちらに居りませんか?」
「はい、先程お祈りに参りましたよ。多分まだ中だと思いますが。」
「ありがとうございます。 」

    礼を言って中に向かう。扉を開けると、礼拝場で、シーラが司祭とおぼしき、老人と話していた。

    「シーラ、待たせたね。司祭様、ご無沙汰をしております。その節はご協力有難うございました。」
「?!おお、確か貴方は仮面の司祭をやられた冒険者。久しぶりですな。あの件では教会も色々と世話になった。礼を言わせて貰うよ。」
「いえいえ、あれは、私が勝手にやった事ですから、お気にされずに。」
「そう言われると申し訳ない。いずれにしろ、貴方には感謝する。そなたに神のご加護あらんことを。」

そう言って、目の前で聖印を指できった。

「有難うございます。シーラ、二人はどこかな?」
「はい、あの座席で疲れて寝てしまいました。」
「そうか。まあ、そろそろ夕方になるしな。『猪鹿亭』は、又の機会だな。起こして連れて帰るぞ。」
「分かりました。」

二人が寝入っている所に行き、二人を起こす。

「起きろ。そろそろ帰るぞ。夕飯に遅れるぞ!」
「にゃにゃ!」
「うう~ん!」

二人とも目を擦りながらも、反射的に起きるのを見ると、思わず笑ってしまう。

「ふっ。さあ、帰るから起きなさい。」

    眠そうな二人を両脇に抱え込んで立ち上がると、司祭様に別れを告げて、シーラに渡した金貨一枚をお布施に渡して貰うと、教会からでた。
扉から出ると、すぐに建物の影に行き、周囲に人がいないのを確認すると〈リターン〉で全員ツールの屋敷の執務室に戻ってきた。

    「ほら、戻ったぞ。二人とも起きて着替えなさい。シーラついてやってくれるかな?」
「ええ、いいですよ。」
「サウルも呼ぶから、ちょっと待っててくれ。」

執務机の上に置かれた呼び鈴を鳴らすと、暫くしてサウルが入ってきた。


    「お帰りなさいませ、旦那様。おや、お二人はお疲れですか。」
「済まないが、シーラと手分けして、二人を着替えさせてくれるかな?」
「承知致しました。ではシーラ様。」
「ええ、お願いします。」

それぞれが一人ずつ連れて部屋から連れ出していく。
私も私室に移動して、着替えを済ます。

(まあ、途中色々あったが、良い気晴らしにはなったな。出発まであと六日か。色々準備を進めないとな。そろそろイーストンとサウスラーニの面子の顔合わせをしないとね。まあ、明日やりますか。)

    この後に、買った肉と果物の一部を渡して、この日も日が暮れて行くのであった。


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