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第 十章 拡大する町。始動する商会。

幕間36話 ある新人騎士達の狂想曲。④

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    今日は七の月の十八日。
グレゴールさんが入団して一週間経った。先週閣下がグレゴールさんに指導していた訓練方法を取り入れた。一週間やってみて、キツイと正直思ったが、それは使わない筋肉を使っているためだと団長に言われた。団長も閣下からそう言われた言葉らしい。

    それでも、毎日やっていると足捌きが前よりはスムーズに細かく出来ることを実感した。
    素振りも、今ではピュッという良い音が出るようになったが、初めは逆に力を入れて振っていた為に、剣速が遅くなり、見かねたカイリーが力を抜けと教えてくれた。
あの時、閣下がいった通り速さに過剰な力はいらないと言うことを身をもって知ったよ。

    朝飯の後、午前の訓練の時間に、再び閣下が訓練場に現れた。グレゴールさんのトレーニングを指導する為だ。今日は最初から側で聞いていよう。

    閣下の訓練方法でグレゴールさんは、この一週間で始めの頃に比べて目に見えて体が動くようになっていた。こんな短期間に結果が目に見えて出るとは。

    「始めるぞ、グレゴール。」
「はっ!お願いします。」
「良し。それでどうだ?ラダーランは速くなったのか?」
「まだ、十分ではありませんが、当初よりはマシにはなったかと思います。」
「良し、早速見るから準備しろ。」
「はっ!」

    グレゴールさんはいつも使っている縄梯子を地面に広げて準備をしている。
俺も少し離れた所で縄梯子を広げて用意する。
おや、カイリーも俺と同じ事をしているし、セイラ様もルーナさんもだ。

    「ラダーランを速くするコツの一つは、踵を着けないで腿を上げ下げすることだ。良いか?」
「承知しました。」
「では、始め!」

    閣下の合図で俺も始める。踵を着けないで、腿を上げ下げするのか。

(くぅ、結構これも筋肉に効くな。)

「ほら、踵をつけるな。踵を着けると速く脚を引き上げられないぞ。休まず続けろ。そのまま五十本やりきれ。」

(ぐう、足の鉛が地味にキツイな。これを着けて約一月経つが、普段の生活ではさほど気にならないのだが、速い動きをしないといけない時や、長時間ゆっくりとした動きをしなければいけない時には、急にその負荷を感じるよ。俺とカイリーはまだ二キロに増えたばかりだからか、余計にきつく感じるな。
うお、尻の筋肉や腿の裏の筋肉がキツイわ。)

「ほら、踵を着けるな。楽をしようとするな。」

(くそっ。自分は出来るからって、楽に言いやがって。)

    思わず内心で悪態をついてしまった。

    「ほら、残り十本。踵を着けるな。腿を上げろ。集中力を切らすな。」

閣下がこちらに気がついたらしく、眼を向けてきた。少し驚いた顔をしたが、直ぐにグレゴールさんの方を見た。

    「良し、五十本。一旦休め。」

グレゴールさんも、一セット終わったらしく、膝に手をついて息を荒げている。
前は、終わった途端に倒れ込んでいたのに、大分体力がついたのか慣れてきたのかな。

「ほう、前回よりは疲れが軽いようだな。それは無駄な力が抜けて練習が出来ている証拠だ。速さに無用な力はいらないからな。では、素振りを見る。基本の型の練習を始めろ。」
「はっ!」

(そうか、無駄な力が入っていると、余計に疲れるのか。覚えておこう。)

    次に、素振りの練習だ。
グレゴールさんも、始めは緊張からか、以前の悪い音をさせていたが、力を抜けと閣下から注意されると、良い切り裂き音をさせ始めた。

    「目の前に切る相手を具体的に想像しろ。腰からの捻りを利用して、腕の力は抜いて、鞭のようにしならせて、切る瞬間にだけ力を込めろ。剣の切っ先に集中しろよ。」

(これも、参考にしよう。)

    「良し、剣の振りは大分良くなってきたな。今後も体に覚え込ませる為に続けろよ。次は新しい訓練だ。用意するから、少し待っててくれ。」

(おおお、新しい訓練方法か。どんなことをするのかな。楽しみだ。)

    閣下は直径三メートル程の円を地面に描き、中心を通る十字と八方向になるように十字を描く。

    「これから見本を見せる。私の動きをよく見ていろよ。」

十字の重なる円の中心に立ち、前にステップして進み、そのまま後ろの中心点に戻り、そのまま今度は後ろにステップして下がり、また中心にステップで戻る。次に左斜めにステップで進み、また中心に戻る。そして、反対の斜め後ろにステップして下がり、また中心にステップして戻る。こうして、反時計回りに八方向にステップで進んだり戻ったりする事を繰り返した。それにしても、なんて速い動きなんだ。 

「こんな風に動く訳だ。一回三分で何周出来るか。多ければ多いほど良いのは言うまでもないな。これを三分やったら一分の休憩で十セットやるように。さあ、始めろ。」

グレゴールさんは、円の中心に立ち前後に動き出した。俺達も円を描き中心を通る十字を書いて、八方向になるように十字を書く。書き終わると、早速中心に立ち前進後退を始めた。

(うおっ、意外とバランスを保つのが大変だ。これも、普段使わない筋肉がキツイな。)

「これも踵を着けるなよ。ベタ足では速く動けないぞ。」

閣下から、注意と激が飛ぶ。

(後ろに引く時に、足がもつれそうになる。見た目以上にこれは、キツイぞ。)

「足捌きが乱れてきたぞ。上半身に力が入りすぎだ。もっと上体を起こせよ。もっと力を抜け。よし三分、止め!」

三分間、動いただけなのに、汗が吹き出して流れている。息も苦しいな。

「休みながら聞けよ。先程も言ったが、体に力が入りすぎているから、余計に疲れるんだ。あれを見ろ。」

隣で同じ事を真似て訓練しているルーナさんを指差す。
見事なフットワークで、上半身が動かずに足はステップしていた。

「あれがお手本だ。無駄に力は入ってないだろう。さあ、一分だ。もう一回やるぞ。用意しろ。」

(ひーっ。キツイなマジ。この鬼教官め。)

    八セット辺りから、最後の方は足が前に出なくなり、後ろに引くときも、足を縺れもつれてしまい、倒れたり、よろめく事が多かった。

「よし、終了。今後は、足運びの練習もするように。今日はここまでだ。」
「ア、アザっす。」

グレゴールさんは、挨拶すると、地面に座り込んでしまった。俺は何とか立っていたが、セイラ様もカイリーも俺と同じく膝に手をついて、息を荒げていたが、ルーナさんは多少息を荒くしていたが、それでも平気そうだった。

「閣下ぁ、これは意外と脚にくるねぇ。」
「そうさ。だから練習になるのさ。普段の訓練で出来ない動きが、本番で出来るわけ無いからね。」
「あはっ、そりゃそうだ。うん、私もこれ取り入れるわ。」
「そうか、自分で工夫するのも大事なことだからな。頑張りなよ、ルーナ。」

(そうか、自分で工夫をするのか。俺も自分に足りないものを考えて、訓練方法をかんがえてみるかな。カイリーに相談でもしてみるか。)

こうして、とてもそうは思えないが、閣下曰く、準備運動は終わった。

(うぇー。これから、正式な訓練かよ。今日も疲れから寝落ちコースだな。)


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