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第 九章 町政と商会の始動そして海賊退治。

第144話 平和は長続きしないもの。『お約束』だもん。②

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    ビルさんの商会から屋敷に戻る。

「お帰りなさいませ、旦那様。」
「食事の用意は出来ているかな?」
「はい、出来ております。」
「ありがとう。早速いただくよ。」

    やはり、スープはツールの屋敷の料理人が上だが、メインの焼き物はこちらの屋敷の方が旨いな。
新しいメニューを作ったら両方で覚えてもらおう。
早目にレシピを調べ上げないとね。
更なる野望を胸にして、出された物は全て食べた。

    サウルとカインを執務室へ呼んで、例の『転送の鏡』を一枚ずつ渡す。初めは怪訝な顔をしていた二人だが、説明をして実際やって見せると二人とも驚きの声をあげた。報告書や連絡のやり取りに使ってと伝えて口外せぬように言い付けた。

    カインを残してサウルとツールの屋敷に〈テレポート〉で戻ると、何やら屋敷や町の方向が騒がしかった。何事かと、サウルが確認してくると言って執務室から出ていった。そして五分もしない内に、サウルがレナードを連れて戻ってきた。

「閣下、事件です!」
「?、何事ですか。」
「港に向かって海賊の一団が襲いにきます。漁に出ていた漁師が海賊船を発見したと報告がありました。今騎士団と衛兵が総出で迎撃の準備をしております。閣下ご指示を!」
「海賊が町に来るにはあとどの位かかりそうですか?」
「はっ、およそ三十分位かと。」
「なら、領民は家に鍵をかけて出歩かない様に触れ回って下さい。騎士団は港に集合。衛兵は港から町へ入る道を封鎖させて下さい。私も出ます。レナードは騎士団へサウルは町役場のハザルとオルソンに連絡してください。」

    二人がそれぞれ連絡するために執務室から飛び出て行くと、私も冒険者スタイルに着替える。執務室から出ると廊下の向こうから許嫁ズの三人がやって来た。皆武装している。やれやれ。

「ショウ様、事情を聞きましたわ。海賊が襲いに来るとか。迎え撃つ手伝いをさせて下さいまし。」

ソニアが言えば、セイラも勢い込んでいう。

「海賊などと言う無法者は許せませんわ。痛い目に会わせないと。」

さらにシーラも続けて言い切る。

「人の道を外れた者達の為に町の方々に被害が出るなど、神もお許しになりませんわ。ぜひお手伝いさせて下さい。」

と言って、三人ともに殺る気満々な状態で、私からは駄目とは言えませんでした。
まあ、危ないから衛兵の側にいてもらおうかな。

「現場では私の指示に必ず従う事。守れますか?」
「分かりましたわ。」
「了解ですわ。」
「神の名にかけて。」

結局三人を引き連れた形で港に向かった。

    町から港に入るための道にハザルとオルソンが衛兵を率いて隊列をととのえていた。近づくとハザルとオルソンが近寄ってきた。ハザルが、慌てながら聞いてくる。

「閣下、この後はどの様にしたら?」
「落ち着けハザル卿。町の民に家を出るなと触れ回ってくれたかな?」
「はい、それは役場の人間を総出で、現在行っております。」
「うむ、良し。戦いの場に出てこられて、もし万が一人質にされても、悪いが見殺して海賊の殲滅を優先しなくてはならなくなるからね。」
「閣下、それは少し・・・。」
「悪いが、一人の為に他の領民の命を危機にはさらせない。その為に外出禁止を知らせているのだ。」
「閣下、我々衛兵はどの様にしていれば宜しいでしょうか。」
「基本、港で敵は防ぐが、万が一抜けてきた海賊がいたら、そいつをここで防げ。捕まえる必要はない。全て殺せ。」
「承知いたしました。」
「なら、あとは頼むぞ。まあ、お前達は家の騎士達の強さを良く見ていなさい。」

許嫁ズにこの場を守る様に言って、私は港に向かう。


    「レナード!騎士達を集めろ。」

私はそう言ってその間に海賊の情報を集めにかかる。

「〈マップ表示・オン〉」

縮尺を港から東の海が映る様になおしてから再び、
「〈サーチ・海賊船と海賊〉。む、二人港の端に海賊がいるな。」

    集まってきた騎士達に、港にいる二人の海賊を始末してくるように伝えると、二人が走って行った。一分もしない内に港にあった赤い光点が二つ消えた。
海を監視していると、先程走って行った二人が帰って来た。

「海賊は?」

二人に聞くとニヤリと笑ってからレインロードが答えた。

「あの世へ行きました。」
「そうか、ご苦労様。さて、本体には何人いるのかな?〈鑑定・赤い光点〉。」

(鑑定結果・赤い光点は赤鮫海賊団だよ。海賊船が三隻で百五十人いるね。前の代官と繋がっていた海賊だよ。後十分程で攻撃範囲になるからね。弓矢に気を付けてね。)
(成る程ね。いつもありがとよ〈鑑定〉さん。)
「〈マルチロック〉〈エアカーテン〉。騎士達よ、後十分程で攻撃が始まるだろう。敵はまず弓矢で船から攻撃をかけて来るだろう。今、味方全員に矢避けの魔法をかけた。そこで皆に聞きたい。敵は百五十人いるらしい。何人までなら倒せるかな、レナード?」
「閣下、我々も日々鍛練しております。たかが海賊相手なら閣下のお手を煩わせる気はありません。全ていただきます。」
「おう、さすがレナード団長だぜ。良いことを言うぜ。」

レナードが答えた後、ライガが囃し立て、メイザースら他の団員が当然と言う顔をして頷いた。

「くくく、さすがだ我が騎士達よ。ならばその言葉証明して見せよ。」

その言葉を言った途端に、空から矢が雨のように降ってきたが、〈エアカーテン〉の効果で全て逸れていった。

「オー凄いわね。何時もながら、閣下の魔法って凄いわね。でもこのままなら、こちらからは手が出せないわ。」

ルーナが呟くのが聞こえた。

「ルーナ、安心しろ。魔法の本番はこれからだ。召喚『シルフ』さん、出でよ。」

(あらぁ、この前呼んでくれた人間ね。今回はどうしたの?)

「〈シルフ〉さん、海に浮かんでいる海賊船三隻を風で港に寄せてくれるかな?」

(いいわよ。そうね、魔力二百貰えるかしら?)

「了解だ。やっちゃって下さい。」

(わかったわ。えい!)

体から魔力が抜けていくのと同時に沖から港へ強い風が吹き始め、海賊船も港に寄ってきた。

(ピロ~ン♪『魔導の極み』により、精霊魔法のレベルが上がりました。)

エルフのエリアルは口を開けて、驚きの顔のまま私を見詰めていた。

「エリアル、何口を開けてポカンとしている?美人が台無しだぞ。」
「・・・閣下、貴方は人間なのに精霊魔法まで使える事に驚いたのよ。貴方本当に人間なの?」
「失礼な。世の中は広い。使える人間がいても良いだろうが。」
「あたしゃ、もう閣下が何やっても驚かないね。だって閣下だから。」

ルージュがやれやれと言った風にため息つきながらいう。

「お前らは・・・。」

レナードが呆れ半分怒り半分な様子で言う。

「レナード、構わんよ。プロは仕事をキチンとやってくれるなら、普段は問わんよ。」
「はっはぁ、だから伯爵は話せるぜ。」

ブルーノが笑いながらいう。
皆と話している内に海賊船は岸壁に寄ってきた。

「さて、騎士達よ。これから〈フライ〉の魔法で飛び上がって、海賊船に乗り込むぞ。抜剣用意!〈マルチロック〉〈フライ〉。」

私と騎士団のメンバーは浮き上がり私の先導で海賊船に乗り込んだ。

「なんだと、空を飛んでくるだと。野郎共全員殺っちまえ!」

この船の頭らしき男が叫ぶと同時に船上に着地した騎士達は四方に散った。

「レナード、ここを頼むぞ。」
「はっ、閣下は?」
「私は波止場に戻って、港に降りてきた奴を始末する。」
「閣下をお一人には出来ません。私も同行します。」
「そうか、なら行くぞ。〈マルチロック〉〈フライ〉。」

    私とレナードが浮き上がり、岸壁に再びおり立った。乗り込んでいない二隻から、縄梯子を使い海賊が続々と降りてきた。


    「バカかオメエらは。たった二人で俺達全員と殺り合えるとでも思っているのか?」

一人だけ身なりが他よりも良い男が叫ぶ。

「ああ、思っているよ。私はね、負ける事が嫌いでね。〈パラライズ〉。」
「うご、痺れ、て動け、ない。」
「行くぞ!レナード。まごついてると、全て私がいただくぞ。」
「とんでもない。行きます!」

そう言って敵の中に飛び込んでいった。

「〈クイック〉〈シールド〉〈エンチャントウィンド〉。行くぞ!」

    既に、敵中で暴れているレナードを横目に、もう一隻から降りてきた海賊達を次々と斬り倒して行った。
正に、昔テレビで見た時代劇の殺陣の様に片っ端から切っていると、海賊達も怯んで回りを囲むだけで、かかってこなくなる。

(ピロ~ン♪『武技の極み』により、『職業・剣士』のレベルが上がりました。『職業・剣士』のレベルが限界に到達したため、『職業・剣術士』を得ました。)

    「あー!伯爵と団長ズルい。あたし達にも分けてよ。」

    声の方を見ると、ルーナが縄梯子で降りながら言っている。

「おう!早くしないと、皆貰っちゃうぞ。」

彼女にそう言うと、トゥと叫びながら梯子から飛び降りた。着地後そのまま、私を囲んでいる海賊達に突っ込んでいく。
見ると、縄梯子から家の騎士達がゾロゾロ降りてくる。

「おい、上は終わったのか?」
「ああ、終わった。皆あの世だ。」

ブルーノが答えてきた。

「なら、そこの麻痺している奴以外を始末してくれ。早くしないとルーナに持っていかれるぞ。」
「そいつぁ、やばいな。おい、アーサルトとカイリーの二人は着いてこい。」
三人がルーナが暴れている側に走っていく。

    周囲を気にかけながら、麻痺させた男に近づいた。
インベントリィからロープを取り出して後ろ手に縛る。煩そうなので、猿轡を噛ませると暴れようとするが、麻痺の為動けずにいる。武器や金目の物を取り上げてから周囲を見ると粗方片付きつつあった。
最後にアーサルトが倒して海賊は全滅した。

    私は最初に乗り込んだ海賊船に〈フライ〉で再び乗り込むとマップを拡大した。
「〈サーチ・海賊の死体〉。〈マルチロック〉〈ワームホール〉。」
    船着き場から驚きの声が上がったが無視しておく。死体の始末が済んだので、〈フライ〉で岸壁に戻るとす巻きになっている男を中心に騎士達は集まっていた。

    「皆ご苦労様。怪我人はいないかい?レナードに今回のボーナスで各人金貨二枚ずつ出しておくから、飲み代にしてくれ。」

そう言うと歓声が上がり、レナードに金貨三十二枚を渡した。

    許嫁ズは衛兵の側にいたが、ソニアは残念そうに。セイラは頬を膨らませていた。まあ、たまには騎士団にも働いて貰わないとね。

    「ハザル、ちょっと良いかい。」
「何でしょう、閣下。」
「海賊船三隻確保したから、港の端にでも止めておいてくれ。新しくしてから、うちの商会で使うから宜しくね。あと、海賊の頭らしき男をす巻きにしてあるから、牢屋に入れておいて。」
「分かりました。オルソン卿頼みます。」
「承知した。おい、三人着いてこい。」

    オルソンと衛兵三人がす巻き男を逮捕しに行った。
それを見送っているとハザルが呟いた。

「しかし、うちの騎士団はとんでもなく強いのですな。正直驚きましたよ。」
「まあ、鍛えているからな。この程度なら余裕だな。海賊クラスなら一人で十人は相手にしても勝てないとね。」
「えーっ!伯爵様、余り無茶苦茶言わないで下さいね。私達は伯爵様とは違うんですから。」
「酷い言われようだな、ボニー。大丈夫もう少ししたら、皆出来るようにするから。」

笑って答えると、

「もう、今晩はヤケ酒よ。潰れるまで飲んでやる。」
「あー、程々にな(笑)。」

    戦闘開始から一時間も経たない内に全てが終了していた。久々に少し暴れられたので、スッキリしたな。







 
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