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第 五章 王都と陰謀と武闘大会

第 78話 帝国の侵攻と色々バレる元オッサン。

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    建国祭は、つつがなく終わった。結局、武闘会の優勝は男子はあのレナードという騎士風の男で、女子はシーラというあの助祭だった。なんで知っているかというと、今俺の後ろに二人とも並んで馬上の人となっているからだ。

    何故こうなったかというと、昨日のことだが、侯爵が国軍二万を率いて王都を出発するために、練兵場へ向かうのに同行すると、練兵場で王様と一緒に二人が待っていた。志願兵かなと思ったが、神官シーラが俺を見るといきなり片膝を付き拝み始めるし、レナードも片膝付いて騎士の礼をとるのだ。

    いやー、オジサンこんな事されるとは思ってもいなかったので、慌てて二人を立たせて事情を聞いたよ。

    騎士風はレナード・ウィンドフィールドで助祭はシーラ・ウィンドフィールドと名乗り、兄妹だそうな。父親の代まては、法衣男爵家であったが、父親は無能で家を潰してしまったらしい。で、シーラは王都の正神教の教会本部で助祭をしていた所、建国祭の十日ほど前に主神アマテルの神託が降りてきたそうだ。

「ワシがこの世界に送りだした黒髪のオオガミという少年に力を貸してあげなさい。その為には武闘会に出て力を示しなさい。ワシからお主にはその為に幾ばくかの力を授けよう。」

というお告げかあったそうで、冒険者をしている兄のレナードに話すと、兄も同じ夢を見たといって、神様から力を授かったと言った。

    最初、彼は半信半疑だったが、職業がナイトだったのがホワイトナイト等と初めて聞く職業に変わっていたり、使えなかった魔法が幾つも使えたりできるようになったと頭の中でアナウンスがあり信じる事にしたらしい。そこに僧侶の妹の話しで確信したらしい。妹も同じだったと。神託は真であると。

    兄妹は、始めその『オオガミ』という人物は、武闘会に参加していて会場で会えると思っていたが、参加者に『オオガミ』の名前は無くて困ってしまったと。
    試合が始まるとどこかから、強い視線を感じたのでその人かと思い探すことにした。参加者の人に聞き込みしていったらセイラから俺の事を聞き出して、今日会いに来たそうだ。

    (あーうん、間違いなく俺の事だろう。だが、こんな大勢の前で話してほしくはなかったかな。だって、王様も侯爵もひざまづこうとするのを、慌てて止める羽目になったから。)

    「オオガミ君は使徒様なのかい?」
「オオガミよ、お主使徒であったのか?」

と、同時に聞き始めてくるし。

    (ここまでバレると、今さら違いますなんて嘘を言っても遅いだろうな。)

    四人を練兵場の隅に引っ張り回りを確認してから、確かにアマテルおじいさんによってこの世界に生まれ変わった者だが、特に勇者でもなければ、英雄でもない。この世界での生を全うしている、ただの冒険者であると。なので王様と侯爵には前と同じ様にお願いして、兄妹には『使徒』の従者ではなく冒険者パーティーの仲間としてなら同行を許すということになった。そして取り敢えず、今は従軍して南下している俺の後ろに並んで馬上の人となっているわけだ。

    神様のじいちゃん、こんな大事な事はメールで知らせてくれよな。

    明日にはクロイセン帝国でも軍が出立するだろう。目的地はマップで確認すればわかるので、明日の野営地で状況を確認して情報を集めないとな。

    まずは王都南の国境へ向かうが、途中にある南部の要衝マール伯爵が治める領都のマールにいったん向かう。そこで軍を休めながら敵が侵攻してきた境に向かうこととなった。
明日の夕方にはマールに着くそうだ。

    翌日の昼にスキルを使って情報をあつめる。

    「〈マップ表示・オン〉。」
    縮尺を調節してウェザリア王国の南部国境とクロイセン帝国の帝都近郊までを表示させる。
兄妹の二人は俺が何をしているのかと興味津々で俺の事を見ていた。

「〈サーチ・クロイセン帝国軍〉。」
「鑑定・この赤い光点。」
(鑑定結果・クロイセン帝国軍ウェザリア侵攻部隊だよ。部隊指揮官はザラ・メイル将軍で兵数は三万だね。頭は悪いが勇猛な人だよ。目的地はリムルンド辺境伯爵領の国境の町リーラだね。早く助けに行ってね。)
(おう、任せておけ。)

「よし、情報は取れた。侯爵に報告だ。」

二人には見えなかった様で、不思議な顔をしていた。報告に向かう俺に遅れまいと、ついてきた。

    侯爵のいる天幕にいる。

「侯爵、帝国軍について、判ったことがあります。指揮官はザラ将軍で、兵数は三万。リムルンド辺境伯爵領の国境の町リーラに向かって行軍しています。」
「なに、それは真かい?」
「はい、間違いなく。」
「よし、ならリムルンド辺境伯爵に早馬を出して連絡せよ。ラルフよ、帝国軍がリーラを目指しているとな。リーラか。最短距離を目指しているのか。」

    副官のラルフさんが指示を出しにいった。

「相変わらず、情報集めが速いね。それも使徒の力かい?」
「まあ、今さらなんで隠しませんが、そんな所です。ところで、敵の将軍は力押しのタイプなのですがご存知ですか?」
「ザラ将軍の事かい?知っているよ。確か実戦部隊を率いる将軍でかなり勇猛だと噂されている男だ。それがどうしたか?」
「勇猛とは言いますが、まともにそれと戦うのではなく事前に策を仕掛けましょう?」
「策をかい?で、どんな策を仕掛けるかい?」
「味方の兵力は、辺境伯の領兵と合わしても、せいぜい二万三千から二万五千といったところでしょう。敵三万に対して不利な状況です。」
「そうだね、陛下の率いる後続の一万が来ないと、不利な状況だね。」
「はい、そこで敵の兵糧を狙います。途中の町や村で油を買い求めて、夜に敵陣地に忍び込み兵糧を焼き払います。この利点は、敵の侵攻を遅らせ見方の到着まで時間稼ぎが出来ることと、敵の士気を落として、戦闘時に有利に戦えることです。潜入工作には俺がいきます。侯爵、ご決断を。」
「策を行うのは、良いだろう。だが君が行く必要はないだろう?」
「いえ、俺が行った方が、かえって安全で確実です。」
「どうしてだい?」
「侯爵も覚えておられるでしょう。俺が貴族派の証拠を集めてきたことを。」
「ああ、成程。それと同じようにして潜入するわけかい?」
「はい、なので俺一人の方が見つからずに動けますから。」
「判った。ただし、絶対無理はしないこと。約束だよ、オオガミ君。」
「はい、承知しました。」

    侯爵の了承を取り付けて、早速工作に出掛けようとした時、シーラ達が同行すると言ってきた。何度か宥めたが、どうしてもと言うので、現地では、俺の命令は守ることを条件に許可した。

    さぁて、大きなキャンプファイアといきますかね。


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