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第一章 国家消滅

第11話 現実味

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 私はユウスケ中尉からの言葉を受けて自室に籠った。考えれば彼の言葉がどうしてもしっくり来てしまうからだ。
「私も硬直化してしまったな……」
 常に柔軟な見識の持ち主と言われた私ですら彼の考えには至らなかったことを大変恥じる。

「失礼いたします。少将閣下」
「まだ許可は出していないんだけどね」
 ティーダ少佐が俺の後を着けて入ってきた。口では咎めてはいるが私は嫌な気持ちにはならなかった。むしろ彼が来てくれたことで話し易くなった。
「まあまあ、先ほどユウスケ中尉からの言葉で考えておられるのでしょう?」
「ああ、確かに三個軍という戦力は巨大だが、王都を最終目標とするならば明らかに戦力不足だ。用兵の基本から大きく離れている」
「ですな。それで、ユウスケ中尉は空と言いましたが」
「言っていたね。空か……」
 簡単に空と言っていたが果たしてそんな兵器があるのだろうか。

「爆弾を積んで空を飛べる魔導兵器があると思うかい?」
「有るわけがないでしょう。あれば我らがこれを身に着けて敵陣深くに切り込むことはありません」
 少佐の言う通りだ。この魔導鎧ですら技術の粋を集めて完成させた最新兵器だ。
「しかし、空を飛ぶ兵器が有れば戦争は一気に変わるな……」
「魔法使用者はお役御免ですかな」
「どうかな、むしろ逆じゃないのか。私なら魔導兵器として魔法を放てる構造にするけどね」
「銃口から放出させるというのですか?」
「夢物語だね」
「ですな。であれば大砲もその様に造り替えればよろしいのに」
「確かに、何なら歩兵銃に至るまで造り替えるか」
 話が脱線したが実に面白い。空想の世界ではあるが、このうち一つでも実現すれば我が王国は帝国の侵攻に楔を打つ一撃を見舞えるというものだ。

「だが彼の言葉にはどこか現実味があった。そう思はないか?」
「そうでしたな。外の鳥を眺めていましたが、どこかで見聞きしたような口振でした」
 だからこそ私はこの部屋に来たのだ。なんとなく答えた程度ならあの場に残り、面白おかしく戦略について議論していただろう。
「で、どうされるのですかな?」
「すでに中央参謀部に確認の電報を打った」
 この部屋には通信設備が整っている。まさか私自らが操作するとは思わなかったが、若い頃に色々やっておいて正解だった。
「で、あちらはなんと?」
「技術部がそれらしい兵器の開発を行っているとかいないとか……」
「では現実に存在する可能性も?」
「ああ、どうやらゼロとは言えないのかもしれない」
 王国ではまだ計画段階と言った程度だ。何せ王国は魔導石に頼り、船舶鉄道を動かしている。これから乗るトラックですら同様だ。

「帝国ならどうかな?」
「技術大国ですからな。魔法がない分技術力で戦力を補い我らと戦っています」
「ああ、陸上同士の戦いならある意味拮抗できた。だが空ともなると我らは未知の領域だ……」
 それは帝国も同様だろう。だが、帝国はそれを仕掛けてくるかもしれない……
 私にはどうもそう思えて仕方ないのだ。
「確かに未知の戦力に対し我らは防衛しなければならない。これは予想以上に大変かもしれません」
「そうだね。願わくはそうならないことを祈ろう」
 そう、絶対とは言えないがマイナスのことを考えると戦場の女神が逃げてしまう。私は非現実的と切って捨ててきたが今回ばかりは戦場の女神に祈りたい気持ちになってしまった。





 約五時間魔導列車にゆられ俺たちは城塞都市ヘレルに到達した。
 そこは炭鉱と都市が融合したファンタジー観満載のワクワクする街並みであった。
「す、すごい……」
 至る所に配管が通り、蒸気が噴出している。F〇6に出てくる都市に似ていると言ってもいい。だからこそ俺は余計に興奮が抑えられない。
「中隊各員下車! 荷物は忘れるなよ!」
 ティーダ少佐の言葉に俺たちは笑い声をあげながら答えた。
 ターミナル駅を降りると俺たちは整列ののちトラックが停車する場所まで移動を開始する。その間、人っ子一人見かけることはなかった。

「なあ、なんで誰もいないんだ?」
「あっ、何言っているんだ。この都市の人間はみな地下に居るんだぞ。上層部に人が居るわけがないじゃないか」
 俺の言葉にマルが答えてくれた。
「そうなの?」
「そうなのって、お前…… そうかお前は辺境出身だったな。此処が魔導石の産出地ってのは分かるよな」
「うん」
「魔導石はこの地にしか存在していない。だから長年掘り進めた結果、地下深くまで掘らないと魔導石が手に入らなくなったんだよ。で、地上に戻るのに時間がかかる。だから人の暮らしそのものを地下にしなければならなくなったんだ」
 そう言われ、俺は漸くこの都市の実態を窺い知ることが出来た。

 移動している最中、都市の中央とも言うべき場所を通り過ぎた時だった。地下に通じる巨大な、いや超巨大な空間が俺の目に飛び込んできたのだ。
「これは……」
「分かったか。これが城塞都市ヘレルだ。大半の人間はこの鉱山で働いている」
 掘るのは人力が主体で、掘った鉱物を含む岩などは魔導列車で地上へと運び出し、そこから精錬される工程となっている。
「すごいな、ホント……」
「ああ、我々は彼らに感謝しないといけない。なにせ彼らが採ってくれるお蔭でこうして戦えるのだからな」
 俺たちはそう話しながらトラックへと向かうのだった。

 その後、休憩と補充を行いトラックに分乗して乗り込むと隊列を為して一路ローテル付近まで移動を開始した。
 だがその道のりは険しいものだった。
「イタっ!」
 そう、道路は単に切り開かれただけで舗装されることもない道だったからだ。至る所に凹凸があり、その反動が今の結果を生み出した。
「ヤベェ、もう無理だ……」
 俺はならなかったが同乗する者の中には車酔いで嘔吐する者が出始めた。
「これから徒歩で移動するっていうのに、前途多難だな……」
「高級参謀は前線のことは知りませんからね。何事も地図を見て決める」
 その言葉を耳にしてなんて馬鹿な、と思わずにはいられなかった……
 そうこうしていると俺たちは目的地に到着したらしい。らしいというのはトラックが急停車したことと、下車の声が聞こえたからだった。
 各トラックから降りる隊員は足元が覚束ない者が何名も含まれていた。

「ユウスケは余裕そうだな」
「んっ、まあね……」
 マルの言葉に俺はそう答えたが、余裕でもない。若干目が回っているのは否めなかった。
「皆集まれ!」
 総勢120がレイムの前に集うと彼の口から思いもよらない言葉が発せられた。
「皆聞いてくれ、本来ならばもっと先までトラックで移動する予定だった。しかし、この先に帝国軍がいる可能性が出てきた」
 その言葉に騒めかずにはいられない。
「少将、その理由を聞かせていただけますか?」
 そう問い掛けたのはティーダだった。
「先ほど現地を知る者から連絡があった。この先に点在する村が襲撃を受けた形跡があると。帝国軍の主力がここまで来るのはおかしい」
 その通りだ。俺たちは彼らにバレない様わざわざ大きく迂回して移動しているのだ。

「なるほど。別動隊の可能性と言う訳ですか」
「そうだ。残念ながらどれだけの規模かすらわからない」
「では作戦は?」
「それは実施する。今回ばかりは中止にはできない…… 残念ながらね」
 国家の粋を集め造られた鎧を反攻の要とする部隊が装着し見事打ち破る。士気高揚にはうってつけのシチュエーションなのだ。失敗は許されない。
「では如何いたします?」
「ここでトラックを捨て徒歩で向かう」
 マジかよ…… 俺が思うと彼方此方で不平不満を口にする者が出始めた。

「仕方がありませんな。中央参謀部には連絡を?」
「入れていないよ。此処は既に連絡できない場所なんだ」
 王国領内では不思議と連絡が一切取れない地域というものが存在する。電話線を通せばいいのだが、このような場所にはそれがない。
「では、これの出番と言う訳ですか」
 ティーダはそう述べると背嚢から一羽の鳥を取り出した。どうやって入っていたんだよ……
「そうだね。今書くからいつでも飛ばせる準備を頼む」
「了解いたしました」
 待つこと五分。鳥は王都目掛けて羽ばたいた。
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