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本編⑥ 影にひそむ女神
54 不可解な欠片
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シオンが行方不明になって2週間が経過したが、いっこうに行方がわからない。
彼の仕事はしばらく引退した父親が行うことになった。
アリーシャはジュノー教会に行き、少しでも情報を探し回った。でも、彼が行きそうな場所は他に思い至らない。
ドロシーにお願いして街中の話や、使用人たちの間で情報が引き出せないかお願いしてみた。
「ごめんなさい。無理させて」
他にも仕事があるのにドロシーの負担を増やしてしまったとアリーシャは思った。ドロシーは首を横に振った。
「大丈夫ですよ。さすがにアリーシャ様だと聞いて回れないでしょうし」
むしろ任せてもらいたいと笑っていた。
「大丈夫? 処刑人の情報を集め回って変に思われたりとかしない?」
「平気ですよ。それとなーく噂話の中に潜り込んで聞きだすのうまいんですよ、私」
むしろアリーシャより適任だとドロシーは豪語した。
「アルバート様も探していますし、そのうち見つかりますよ」
安心させるように声をかけてくれるが不安は募る一方であった。
シオンがいなくなった後、彼の夢を一度だけみた。暗闇の中うずくまって苦しそうにしていた。
シオンに呪いの件の協力を引き受けてもらったせいではないか。
王都内では集められない情報、アルバートでも得られなかった情報は、シオンが集めてくれていた。
アリアの母方の実家についても、彼の親戚の処刑人が家の周辺に赴任していたから調べられたという。
彼が協力してくれると知った時、アリーシャは喜んでしまった。あの時の自分を殴ってしまいたい。
「呪いではなく、もしかしたら昔処刑した人間のご家族が逆恨みしてとか………」
ドロシーはアリーシャを呪いから考えをそらそうとしたが、それも逆効果で不安になる。
「シオンに手を出す人がいるかなぁ………」
部屋を訪れていたエレン王子は、最近王宮内で見つけた呪いの位置を地図に示していた。これを後でアリーシャとアルバートが回収していく予定である。
「シオンは死神………死神に手を出す人間はそうそういないよ。嫌がらせはいるけど、処刑人が致命的な危害を加えられた事件は、過去に一回だけだ。処刑の失敗を何度も繰り返して暴徒化した平民に撲殺されたという事件くらいだよ。最近はないな、うん」
処刑人は見下され忌避される存在であったが、処刑は平民にとって刺激的な見世物ショーとなっていた時期がある。爽快に首を斬られるのを期待していたのに一向にみれないことから腹を立てて、そこから不満が伝番して暴走に繋がった事件である。
「シオンが最後に処刑に失敗したのは1年前の絞首刑だった。それ以降は全部1回で終わらせていて、処刑の腕前は評価されている。死神とあだ名されるようになって、むしろ彼に手を出すことで死に繋がると感じている人が多い」
「そういうのを恐れない人もいるのでは?」
「うーん、最近戦争がなくなったから平民も貴族も臆病なのが増えている感じだけどなぁ」
エレンは社交の場のことを思い出す。貴族と会話して彼らの内面がそのように感じられた。
「アルバート様には、呪いの回収の時にどこまでシオンの捜索ができているか確認してみるわ」
何でもこなせそうな男である。
もうシオンのことを見つけられたのではないかと期待したが、彼に会った時に展開は進んでいないと知らされた。
代わりに別件の新しい情報が得られた。
「2年前、ウェルノヴァ伯爵は修道院や孤児院を出入りしていたようだ」
「それが何か問題があるの?」
貴族のよくある慈善活動ではないか。少し拍子抜けしてしまった。
「13から15歳の少女を探していたそうだ。しかも、顔立ちが整って勉強ができ、魔力を持っている少女をだ」
侍女を募集しているのであれば何故魔力が必要になるのだろうか。
「もしかしなくても花姫の条件?」
アリーシャはエレン王子が指定した場所から呪いの回収を終わらせた。
それを受け取りながらアルバートはこくりと頷いた。
「でも、必要ないじゃないの。ウェルノヴァ伯爵家にはコレット様という実際花姫に選ばれた直系の令嬢がいて………」
何だか引っかかる。
「ちなみにウェルノヴァ伯爵令嬢は療養の為に伯爵邸からでることがなかった。確か、2年前のことだ………このままじゃ花姫になれないと慌てて伯爵は慌てて手ごろな少女を探していたようだ」
しかし、一族内にめぼしい少女はおらず、修道院、孤児院で探すことになった。
「俺は仕事が忙しくて噂は適当に流していたから重要性は今まで感じなかった。は伯爵家の直系令嬢のコレット嬢が花姫になった時、病気は無事治癒して、花姫の選定に間に合ったので徒労だったのだなと噂されていた」
アルバートを話してて何度も違和感を覚えた。
貴族の間でもたまに替え玉を作ろうとする動きがあるんだな、でもコレットは病気がよくなったから必要なかったんだな。
そう思うのに何故かしっくりとこない。
以前シオンとの会話を思い出す。
「それはあなただけじゃありません。現に………あ、いえ」
彼が失踪する前に言った何かを隠すような内容。アリーシャは自分が直系の令嬢じゃないからというと言った言葉への反応だった。
「コレット様は………直系の令嬢じゃなかったとすると?」
アルバートが言うことと照らし合わせると伯爵家の家門に魔力を持つ手ごろな令嬢はいなかったのだ。となるとどこかから用意した出自不明の娘となる。
コレットはアリーシャと同じ用意された花姫。
なのに彼女はクリスと一緒になりアリーシャに嫌みを言い続けた。確かに嫌みを除けば礼儀作法は行き届いている完璧な令嬢だ。だが、彼女は自分の出自をずっと隠し続け、アリーシャを泥姫と嘲笑っていた。
それは自分の身の上を考えて、不安でアリーシャを目立たせて自分は違うという行為だったとも考えられる。
違う。
ふと見せる彼女のぞっとする冷たい声をアリーシャは思い出した。
あの女は誰?
彼の仕事はしばらく引退した父親が行うことになった。
アリーシャはジュノー教会に行き、少しでも情報を探し回った。でも、彼が行きそうな場所は他に思い至らない。
ドロシーにお願いして街中の話や、使用人たちの間で情報が引き出せないかお願いしてみた。
「ごめんなさい。無理させて」
他にも仕事があるのにドロシーの負担を増やしてしまったとアリーシャは思った。ドロシーは首を横に振った。
「大丈夫ですよ。さすがにアリーシャ様だと聞いて回れないでしょうし」
むしろ任せてもらいたいと笑っていた。
「大丈夫? 処刑人の情報を集め回って変に思われたりとかしない?」
「平気ですよ。それとなーく噂話の中に潜り込んで聞きだすのうまいんですよ、私」
むしろアリーシャより適任だとドロシーは豪語した。
「アルバート様も探していますし、そのうち見つかりますよ」
安心させるように声をかけてくれるが不安は募る一方であった。
シオンがいなくなった後、彼の夢を一度だけみた。暗闇の中うずくまって苦しそうにしていた。
シオンに呪いの件の協力を引き受けてもらったせいではないか。
王都内では集められない情報、アルバートでも得られなかった情報は、シオンが集めてくれていた。
アリアの母方の実家についても、彼の親戚の処刑人が家の周辺に赴任していたから調べられたという。
彼が協力してくれると知った時、アリーシャは喜んでしまった。あの時の自分を殴ってしまいたい。
「呪いではなく、もしかしたら昔処刑した人間のご家族が逆恨みしてとか………」
ドロシーはアリーシャを呪いから考えをそらそうとしたが、それも逆効果で不安になる。
「シオンに手を出す人がいるかなぁ………」
部屋を訪れていたエレン王子は、最近王宮内で見つけた呪いの位置を地図に示していた。これを後でアリーシャとアルバートが回収していく予定である。
「シオンは死神………死神に手を出す人間はそうそういないよ。嫌がらせはいるけど、処刑人が致命的な危害を加えられた事件は、過去に一回だけだ。処刑の失敗を何度も繰り返して暴徒化した平民に撲殺されたという事件くらいだよ。最近はないな、うん」
処刑人は見下され忌避される存在であったが、処刑は平民にとって刺激的な見世物ショーとなっていた時期がある。爽快に首を斬られるのを期待していたのに一向にみれないことから腹を立てて、そこから不満が伝番して暴走に繋がった事件である。
「シオンが最後に処刑に失敗したのは1年前の絞首刑だった。それ以降は全部1回で終わらせていて、処刑の腕前は評価されている。死神とあだ名されるようになって、むしろ彼に手を出すことで死に繋がると感じている人が多い」
「そういうのを恐れない人もいるのでは?」
「うーん、最近戦争がなくなったから平民も貴族も臆病なのが増えている感じだけどなぁ」
エレンは社交の場のことを思い出す。貴族と会話して彼らの内面がそのように感じられた。
「アルバート様には、呪いの回収の時にどこまでシオンの捜索ができているか確認してみるわ」
何でもこなせそうな男である。
もうシオンのことを見つけられたのではないかと期待したが、彼に会った時に展開は進んでいないと知らされた。
代わりに別件の新しい情報が得られた。
「2年前、ウェルノヴァ伯爵は修道院や孤児院を出入りしていたようだ」
「それが何か問題があるの?」
貴族のよくある慈善活動ではないか。少し拍子抜けしてしまった。
「13から15歳の少女を探していたそうだ。しかも、顔立ちが整って勉強ができ、魔力を持っている少女をだ」
侍女を募集しているのであれば何故魔力が必要になるのだろうか。
「もしかしなくても花姫の条件?」
アリーシャはエレン王子が指定した場所から呪いの回収を終わらせた。
それを受け取りながらアルバートはこくりと頷いた。
「でも、必要ないじゃないの。ウェルノヴァ伯爵家にはコレット様という実際花姫に選ばれた直系の令嬢がいて………」
何だか引っかかる。
「ちなみにウェルノヴァ伯爵令嬢は療養の為に伯爵邸からでることがなかった。確か、2年前のことだ………このままじゃ花姫になれないと慌てて伯爵は慌てて手ごろな少女を探していたようだ」
しかし、一族内にめぼしい少女はおらず、修道院、孤児院で探すことになった。
「俺は仕事が忙しくて噂は適当に流していたから重要性は今まで感じなかった。は伯爵家の直系令嬢のコレット嬢が花姫になった時、病気は無事治癒して、花姫の選定に間に合ったので徒労だったのだなと噂されていた」
アルバートを話してて何度も違和感を覚えた。
貴族の間でもたまに替え玉を作ろうとする動きがあるんだな、でもコレットは病気がよくなったから必要なかったんだな。
そう思うのに何故かしっくりとこない。
以前シオンとの会話を思い出す。
「それはあなただけじゃありません。現に………あ、いえ」
彼が失踪する前に言った何かを隠すような内容。アリーシャは自分が直系の令嬢じゃないからというと言った言葉への反応だった。
「コレット様は………直系の令嬢じゃなかったとすると?」
アルバートが言うことと照らし合わせると伯爵家の家門に魔力を持つ手ごろな令嬢はいなかったのだ。となるとどこかから用意した出自不明の娘となる。
コレットはアリーシャと同じ用意された花姫。
なのに彼女はクリスと一緒になりアリーシャに嫌みを言い続けた。確かに嫌みを除けば礼儀作法は行き届いている完璧な令嬢だ。だが、彼女は自分の出自をずっと隠し続け、アリーシャを泥姫と嘲笑っていた。
それは自分の身の上を考えて、不安でアリーシャを目立たせて自分は違うという行為だったとも考えられる。
違う。
ふと見せる彼女のぞっとする冷たい声をアリーシャは思い出した。
あの女は誰?
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