42 / 70
本編⑤ 呪いの真相
41 北の森の祠
しおりを挟む
ヴィクターはガラテア王国の王太子である。
生まれてから彼は母の手元から引き離され、乳母に養育されていた。
「あら、王子はとても利発ですね」
すぐに文字書きを覚えると乳母はとても喜び、彼に色んなものを教えた。当時王太子であった父も、母もそのことを聞いて喜び未来の王に相応しくなれるように励むようと言われた。
その時は特別に父母とお茶を一緒にして庭園を散策して嬉しかった。
ヴィクターは懸命に勉強を続け、剣術の指導も早くから受けていた。
成績が振るわなければ母は会いに来てくれない。でもよい成績を修めれば母は会いに来てくれた。
だから歯を食いしばって、遊ぶ時間も割き励んでいた。
「ごらん、ヴィクター。可愛らしいお嬢様たちでしょう」
ご褒美の母との茶会には上流貴族の令嬢が5人招待されていた。自分としては見知らぬ令嬢の相手をするより、母とたわいもない話をして過ごしたかった。
「特にローズマリーはまだ少ないながらも魔力を持っているとか。将来の花姫候補よ。おまけに彼女の祖母は王女様で親戚にあたるの」
「ヴィクター王子にお会いできて幸せです」
確かに自分と似た髪質と瞳を持つ少女であった。
この時もエリザベスがヴィクターに王族の血筋の令嬢と結ばれることを望んでいると知った。
幼いながらも母の内面に気づいていた。彼女は自尊心が強く、高貴な血筋を何よりも尊ぶ。
自分が妃になれて当然と自慢することもあった。
ローズマリーと結ばれれば母は喜ぶ。
そうすればもっと会いに来てくれるかもしれない。ヴィクターはそう感じて、ローズマリーが招かれた茶会には必ず参加するように心がけていた。
そしてヴィクターの望み通り母と過ごす時間が増えていった。
だが、急に母と過ごす機会は途絶えてしまう。母は懐妊し、ヴィクターに会うことができなくなったのだ。
弟が生まれれば一緒に会いに行きましょう。
乳母はそう慰めてくれた。
そして生まれたのがエレンだった。
驚いたことにエレンは生まれてから母の元を引き離されることなく、乳母がいるが母自身も母乳を与えているという。片見放さず可愛がっていると聞きヴィクターは深く悲しんだ。
自分はこんなに頑張っている。勉強も、剣術も、母の望み通りにしているのに何故エレンにはその必要がないのだ。
「ヴィクター王子、ここにいましたか?」
若い侍女が庭で隠れているヴィクターを見つけて微笑みかけて来た。まだ十代の外見だが、妙に大人びた雰囲気が印象的であった。
「さぁ、お勉強の時間ですよ」
「勉強しても、母上の一番はエレンなんだ」
拗ねた言葉に侍女はふふっと笑った。
「それではエレン様が一番にならなければいいのですよ」
その言葉にヴィクターは首を傾げた。
「良いおまじないがあるのです。ヴィクター様に幸運をもたらしてくれる素敵な壺が、北の森の祠に保管されています。それを開けてみれば、きっとヴィクター様が一番になれますよ」
「本当に?」
「はい、だってその壺の中には幸運の女神が眠っているのです。起こしてくれたお礼にヴィクター様を一番にしてくださいます」
北の森に祠があるというのは知らなかった。成人するまでは北の森に入ってはいけないと言われていたから。
「大丈夫です。私が一緒に行って差し上げます」
侍女はそういいヴィクターに手を差し伸べた。ヴィクターは悩みながらも、侍女の手をとる。
そして侍女の言う通り祠の中に入った。
「私はここで待っています。奥の瓶を開けてみてください」
ヴィクターは奥の方へ入り、装飾の施された見事な瓶をみた。
侍女が言っていたのはこれか。
確かに瓶には女神の絵が描かれている。とても綺麗で美しい。触れてみたいと強く欲求してしまう。
無意識に瓶を手にして、蓋を開けた。
開けた瞬間、ぼわっと黒い靄がとっび出した。一部がヴィクターの口の中に入り、残りの大部分が外へと去っていく。
自分は今何をしていたのだろうか。
ヴィクターは瓶のふたをしめ、慌てて祠の外を出た。そこには侍女が待機していた。
「ありがとうございます。明日からヴィクター王子は一番になりますよ」
お礼と予言にヴィクターは怖いと感じた。自分は良くないことをしてしまったのではないかと感じ、宮に戻っても誰にも明かせなかった。
そして翌日、エレンが熱病で倒れたと連絡が入る。
すぐに解熱したが、体中に酷い痣ができて数日経たず全身に広がってしまった。
「いや、あっちへ行って! 化け物」
エリザベス妃はエレンの姿に恐怖を覚え、目に触れないように必死になった。その様子をみてヴィクターは思わず笑いがでた。
皮膚の痛みで泣くエレンの姿をみていると嫌悪感が強くなる。今までよく母を独り占めにしたものだと言いたくなる。
母の愛を求めながらも母に拒まれるエレンに対してヴィクターは冷たい声を浴びさせた。
「化け物」
母に倣い、ヴィクターもエレンをそう呼ぶようになった。
毎晩父母が口論しているのが聞こえた。
ヴィクターはエレンを見かけると、「お前がみんなを不幸にしている。お前などいなくなればいい」と嘲笑った。
誰もがエレン王子を軽んじるようになり、父はエレンを王宮に留まらせるのを諦めた。
エレンは田舎の別荘へと送られて、修道院を転々とし、2年前にジュノー教会へ移り住むことになった。
「今までご心配をおかけしました」
エレン王子は本宮を訪れ、国王と王太子に挨拶をした。彼は本日から本宮で過ごすことになる。
皮膚病の件もあるので、時々ジュノー教会に戻り治療を受ける予定だという。
「構わない。よく帰ってきてくれた」
今後エレン王子は将来の王弟として教育を受ける予定である。ジュノー教会の神父がそれなりの教育をしてくれたから実用的なことを学ばせるつもりである。
「兄上も」
エレンは静かにヴィクターに頭を下げた。礼をとる彼の手がわずかに震えているようにみえる。ヴィクターはそれを見て、静かに自分の頭を下げた。
「幼い日のこと、すまなかった」
それを聞いてエレンはびくりと震え、頭を上げた。慌てて兄をみて、父の方をみる。父もエレンに頭を下げていた。
エレンが面を上げて欲しいと言うまで二人は動く気配がなかった。
生まれてから彼は母の手元から引き離され、乳母に養育されていた。
「あら、王子はとても利発ですね」
すぐに文字書きを覚えると乳母はとても喜び、彼に色んなものを教えた。当時王太子であった父も、母もそのことを聞いて喜び未来の王に相応しくなれるように励むようと言われた。
その時は特別に父母とお茶を一緒にして庭園を散策して嬉しかった。
ヴィクターは懸命に勉強を続け、剣術の指導も早くから受けていた。
成績が振るわなければ母は会いに来てくれない。でもよい成績を修めれば母は会いに来てくれた。
だから歯を食いしばって、遊ぶ時間も割き励んでいた。
「ごらん、ヴィクター。可愛らしいお嬢様たちでしょう」
ご褒美の母との茶会には上流貴族の令嬢が5人招待されていた。自分としては見知らぬ令嬢の相手をするより、母とたわいもない話をして過ごしたかった。
「特にローズマリーはまだ少ないながらも魔力を持っているとか。将来の花姫候補よ。おまけに彼女の祖母は王女様で親戚にあたるの」
「ヴィクター王子にお会いできて幸せです」
確かに自分と似た髪質と瞳を持つ少女であった。
この時もエリザベスがヴィクターに王族の血筋の令嬢と結ばれることを望んでいると知った。
幼いながらも母の内面に気づいていた。彼女は自尊心が強く、高貴な血筋を何よりも尊ぶ。
自分が妃になれて当然と自慢することもあった。
ローズマリーと結ばれれば母は喜ぶ。
そうすればもっと会いに来てくれるかもしれない。ヴィクターはそう感じて、ローズマリーが招かれた茶会には必ず参加するように心がけていた。
そしてヴィクターの望み通り母と過ごす時間が増えていった。
だが、急に母と過ごす機会は途絶えてしまう。母は懐妊し、ヴィクターに会うことができなくなったのだ。
弟が生まれれば一緒に会いに行きましょう。
乳母はそう慰めてくれた。
そして生まれたのがエレンだった。
驚いたことにエレンは生まれてから母の元を引き離されることなく、乳母がいるが母自身も母乳を与えているという。片見放さず可愛がっていると聞きヴィクターは深く悲しんだ。
自分はこんなに頑張っている。勉強も、剣術も、母の望み通りにしているのに何故エレンにはその必要がないのだ。
「ヴィクター王子、ここにいましたか?」
若い侍女が庭で隠れているヴィクターを見つけて微笑みかけて来た。まだ十代の外見だが、妙に大人びた雰囲気が印象的であった。
「さぁ、お勉強の時間ですよ」
「勉強しても、母上の一番はエレンなんだ」
拗ねた言葉に侍女はふふっと笑った。
「それではエレン様が一番にならなければいいのですよ」
その言葉にヴィクターは首を傾げた。
「良いおまじないがあるのです。ヴィクター様に幸運をもたらしてくれる素敵な壺が、北の森の祠に保管されています。それを開けてみれば、きっとヴィクター様が一番になれますよ」
「本当に?」
「はい、だってその壺の中には幸運の女神が眠っているのです。起こしてくれたお礼にヴィクター様を一番にしてくださいます」
北の森に祠があるというのは知らなかった。成人するまでは北の森に入ってはいけないと言われていたから。
「大丈夫です。私が一緒に行って差し上げます」
侍女はそういいヴィクターに手を差し伸べた。ヴィクターは悩みながらも、侍女の手をとる。
そして侍女の言う通り祠の中に入った。
「私はここで待っています。奥の瓶を開けてみてください」
ヴィクターは奥の方へ入り、装飾の施された見事な瓶をみた。
侍女が言っていたのはこれか。
確かに瓶には女神の絵が描かれている。とても綺麗で美しい。触れてみたいと強く欲求してしまう。
無意識に瓶を手にして、蓋を開けた。
開けた瞬間、ぼわっと黒い靄がとっび出した。一部がヴィクターの口の中に入り、残りの大部分が外へと去っていく。
自分は今何をしていたのだろうか。
ヴィクターは瓶のふたをしめ、慌てて祠の外を出た。そこには侍女が待機していた。
「ありがとうございます。明日からヴィクター王子は一番になりますよ」
お礼と予言にヴィクターは怖いと感じた。自分は良くないことをしてしまったのではないかと感じ、宮に戻っても誰にも明かせなかった。
そして翌日、エレンが熱病で倒れたと連絡が入る。
すぐに解熱したが、体中に酷い痣ができて数日経たず全身に広がってしまった。
「いや、あっちへ行って! 化け物」
エリザベス妃はエレンの姿に恐怖を覚え、目に触れないように必死になった。その様子をみてヴィクターは思わず笑いがでた。
皮膚の痛みで泣くエレンの姿をみていると嫌悪感が強くなる。今までよく母を独り占めにしたものだと言いたくなる。
母の愛を求めながらも母に拒まれるエレンに対してヴィクターは冷たい声を浴びさせた。
「化け物」
母に倣い、ヴィクターもエレンをそう呼ぶようになった。
毎晩父母が口論しているのが聞こえた。
ヴィクターはエレンを見かけると、「お前がみんなを不幸にしている。お前などいなくなればいい」と嘲笑った。
誰もがエレン王子を軽んじるようになり、父はエレンを王宮に留まらせるのを諦めた。
エレンは田舎の別荘へと送られて、修道院を転々とし、2年前にジュノー教会へ移り住むことになった。
「今までご心配をおかけしました」
エレン王子は本宮を訪れ、国王と王太子に挨拶をした。彼は本日から本宮で過ごすことになる。
皮膚病の件もあるので、時々ジュノー教会に戻り治療を受ける予定だという。
「構わない。よく帰ってきてくれた」
今後エレン王子は将来の王弟として教育を受ける予定である。ジュノー教会の神父がそれなりの教育をしてくれたから実用的なことを学ばせるつもりである。
「兄上も」
エレンは静かにヴィクターに頭を下げた。礼をとる彼の手がわずかに震えているようにみえる。ヴィクターはそれを見て、静かに自分の頭を下げた。
「幼い日のこと、すまなかった」
それを聞いてエレンはびくりと震え、頭を上げた。慌てて兄をみて、父の方をみる。父もエレンに頭を下げていた。
エレンが面を上げて欲しいと言うまで二人は動く気配がなかった。
0
お気に入りに追加
1,012
あなたにおすすめの小説
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
【おまけ】その悪女は笑わない
ariya
ファンタジー
本編(https://www.alphapolis.co.jp/novel/532153457/67595958)とは別のおまけです。
本編とは関係ないもの、本編に関与するけどおまけ的なものをこちらに投稿します。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
勇者一行パーティから追放された治癒魔法師の物語
夢空莉羽
ファンタジー
【序章完結!第一章完結!第二章連載中!!】
リーナ・ルミエールは(自称)勇者一行のパーティーに所属していたが、治癒魔法しか使えないため、お前より使える(自称)聖女がいると言われ追放される。不満を持っていたリーナはすぐに受け入れるが、魔法の杖と冒険者ギルドカード以外は置いてけと言われてしまう。めんどくささから言うことを聞き、杖とカード以外を地面に置き、素早く去る。これからの行動を悩んだ末、まったり旅をすることに決める。
門を出た途端、魔物に襲われるが通りすがりの冒険者に助けられる。ただ、その冒険者がリーナを庇って腕に怪我をしてしまい、焦ったリーナは全力で治癒魔法を使う。その治癒能力の高さに驚いた冒険者――リオネルはリーナに、パーティーを組まないかと誘う。一人では何もできないリーナはその誘いに乗る。
※閑話には重要なことがあったりするので読むのをおすすめします。
※設定メモもありますが、メモなので、あんまり内容は書かれていません(九月七日追記)
※ファンタジー大賞にエントリーしています
※不定期投稿です
【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む
むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」
ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。
「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」
その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。
初めての作品です。
どうぞよろしくお願いします。
本編12話、番外編3話、全15話で完結します。
カクヨムにも投稿しています。
結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました
山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」
確かに私達の結婚は政略結婚。
2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。
ならば私も好きにさせて貰おう!!
大聖女と言われ転生しましたが、大きな仕事もせずに第二王子に愛されています。
遥
ファンタジー
本編完結済み・番外編を綴っています。
二十歳で事故死をした杏。
事故の原因はとんでもない事でした。
彼女は神から大聖女の魂を貰い転生をします。
七歳の少女に転生した杏はジュリアンナとなり妖精と友達になります。
目覚めた日にやって来た神に転生の理由を聞き驚くジュリアンナ。今いる聖女の器がが余りにも小さいので陰から助けろって事ですか。
そして妖精だと思っていた友達が実は○○だったり。大聖女の聖獣だったフォルヴァもある理由によってジュリアンナの元に返されます。
成人を翌年に迎える十五才で社交界にデビューをしたジュリアンナ。
アデライト王国の第二王子バージルとの出会いも強烈でついていけません。
救世主とて転生したにもかからず国にかかわる大事も起きない。
大聖女の力を持て余しておりますが、時々起こる事件に関与しながら転生先でゆるーく楽しく暮らすジュリアンナ。
グイグイ迫ることが出来ないバージルが徐々にジュリアンナとの距離を縮めていくのを見守る側近のダニエル。
バージルに溺愛されてこそばゆいながらも心が惹かれていくジュリアンナ。
時々大聖女のお仕事とラブコメ?の物語。
※小説家になろうでも投稿した作品を加筆修正しながらこちらに投稿させて頂きます。特にバージル目線を多く入れました。
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる