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本編④ 回帰前、悪女が去った後
39 メデアの祭祀
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アルバートの話を聞いてシオンはしばらく深く考えた。
突拍子のない話であるが、シオンはそれを否定することなく最後まで聞いていた。
「アリーシャ様はどこまで知っている?」
「自分が処刑される瞬間までだ。呪いの装置になっていたことは教えたが、具体的にどんな状況だったかは教えていない」
それを聞いてシオンは深くため息をついた。その方が良いだろうと思った。
自分の死後の体が、呪いを増幅させるために処刑されたところを何度も演出させられていたというのはあまりに残酷なことだ。
「回帰前の記憶があるのはアルとアリーシャ様……ローラン殿?」
首を傾げながら名をあげるシオンにアルバートは首を横に振った。
確かに回帰魔法に関わったローランであれば回帰前の記憶を持っているかもしれない。
アルバートはメデア村に手紙を送った。回帰したすぐ直後にである。
だが、帰ってきた返事はローランからのものではなかった。
彼の後継者となった巫女からで、ローランは手紙が届く3日前に心臓発作で亡くなったという。
酷い苦しみ方で呪いだったかもしれないと巫女は疑っていた。アルバートの記載されている内容は興味深く時間をおいてから連絡すると書かれていた。
今は彼の葬儀で忙しいとそれ以上のやりとりは行っていない。
はじめに見つけた呪いの方式を箱に詰め、手紙と土産を添え騎士に送り届けたが返事はまだない。
「おそらく回帰魔法の代償だろう。ローランがあの時付け加えた構想、あれでほとんどの負荷が自分へ向くようにしていた」
回帰後、魔法の構想を紙に何度か書き記してようやく気付いた。だから術者自身であったアルバートは無事だった。
事業の問題を部下に任せてアルバートは王都へと戻った。変わらない父親、魔法使いの師に色々話を持ち込んだが自分の話を全く信じてもらえなかった。
多忙で疲れたのだろうと父親に言われて、病院に送られそうだからアルバートはそれ以上の話はしなくなった。
アリーシャも回帰者であると知り、自分も回帰者であることを告白するとアリーシャから胸倉を掴まれて非難された。アルバートが回帰前のどこから話すべきかと悩み口を閉ざしていた時に。
「どうしてっ! 何でこんなことをしたの。こんな王宮に放り込まれた時へ戻して嫌な思いをまたさせて何の嫌がらせなの」
その時かっとなり彼女を押しのけた。その時に彼女の首を掴んだ形になってしまったが、彼女を心配する声よりも自分の苛立ちであった。
「回帰してもお前は自分のことだけしか考えないんだな」
一瞬頭にちらついたのはアリーシャの呪いで命を落としたシオン、自分の全てを犠牲にしたローランの姿だった。
アリーシャは彼らのことを知らない。死んだ後だから知らなくて当然だ。
ただ、嫌がらせという言葉に腹が立った。アリーシャの為にローランは自分の全てを投げ出したのを知っていたから。
アリーシャとのやりとりの話を聞いてシオンは額に手を押し当てた。
予想だが、アルバートはアリーシャに言い分けも謝罪の一言もなかっただろう。
言い過ぎたという自覚はあるだろうが、むしろこのままアリーシャに嫌われてしまおうとか、親しくならないようにしてしまおうとか企んでいるようにも見える。
裁判の経緯もアリーシャに絶対話すなと何度も釘を刺して来た。
寄宿学校にいた時もアルバートはシオンや後輩を庇い、教員からのお叱りを受けたり先輩から恨まれていたのを思い出した。
アルバートはアリーシャに恨まれたままでいようとしている。
それが彼にとってアリーシャから受ける罰だと思っている。
ここでシオンがどういおうとアルバートは変える気がないだろう。
むしろ無理に言うとこの呪いの一見から関わらせようとしなくなるかもしれない。
ここまで色々話された上で線を引かれるのは困る。
そもそも、懺悔室の神父のようにシオンに告白しなければいいのに。
何故かアルバートはぼそっとシオンに自分の言動について吐露してくる。
寄宿学校の時もそうだった。教師に言えばいいのに何故かシオンにしか言わない。シオンが教師に伝えることも許さなかった。
ことあるごとにアルバートはシオンのことを頑固だと言っているが、アルバートの方が頑固だとシオンは思っていた。
「それで、アリーシャ様にはローラン殿のことを話しましたか?」
「呪いのことは言ったが、どう犠牲になったかまでは言っていない」
「そのうち話した方がいいです。一応アリーシャ様の縁者のようですし」
アリーシャの父親の後任というから血縁的には無関係である。それでもローランはアリーシャを引き取ることも考えていたようだし、一応アリーシャにも知る権利はあるだろう。
他にも色々知らせた方がいいとシオンは思ったが。
「そうだな。時期をみてローランのことは話そう」
呪いの件に関してシオンもできる限り協力することになった。アルバートと異なり王宮内を出入りすることはできないが、王宮外の情報の整理を手伝ってもらうことになった。
例えば、アリアが何故呪いの知識を持っていたか。花姫は魔力を持つが専門的な魔法学は学ばされておらず、呪いについても詳しく学ぶことはない。それが何故ティティスの呪いというだいそれた代物を扱うまでに至ったか。
こんこんとノックの音がする。入るようにいうと侍女が、客人が参ったことを伝えた。
例の呪いの方式を持ってメデア村に向かわせた騎士が戻ってきたという。メデア村から少女を連れてきて。
「待たせたな! アルバート殿」
どしどしと入ってきた8歳の少女が満面な笑みを浮かべた。亜麻色のふわふわとしたウェーブのかかった髪に、アリーシャと同じ深緑の瞳を持っている。
「どちらさまで」
とても面倒くさい気がしてきたが、どこのどなたか尋ねてみる。
「む、王都の紳士というのはまず名乗ってからレディに名を尋ねるものであろ」
既にアルバートが何者か知っているのにあえて礼儀を求める少女にアルバートは棒読みで名乗った。
「アルバート・クロックベルといい、子爵です」
「私はエヴァ、メデアの巫女である」
えへんと彼女は自信満々に名乗る。アルバートは「は?」と素っ頓狂な声をあげた。
確かメデアの巫女は祭場から動くことができなかったはずでは。
連れて来た騎士をみると騎士は困ったように笑って言った。
「本当です。メデアの祭祀は現在双子の巫女で、この方は妹の方です」
現在姉は祭祀の仕事の為に居残っているという。
「現祭祀官が双子で助かったな。本来であればローラン死後忙しくて王都までくることができなかったから。さぁ、集めたティティスの呪いの残りをみせてもらおう。ばしばし解体しちゃうぞ」
魔力持ちが例の女神の名を呼ぶなど普通はできない。うっかり呪われてしまうかもしれないから。アルバートですら呼ぶのを躊躇っているのだ。
どうやら本物のメデアの巫女のようである。
突拍子のない話であるが、シオンはそれを否定することなく最後まで聞いていた。
「アリーシャ様はどこまで知っている?」
「自分が処刑される瞬間までだ。呪いの装置になっていたことは教えたが、具体的にどんな状況だったかは教えていない」
それを聞いてシオンは深くため息をついた。その方が良いだろうと思った。
自分の死後の体が、呪いを増幅させるために処刑されたところを何度も演出させられていたというのはあまりに残酷なことだ。
「回帰前の記憶があるのはアルとアリーシャ様……ローラン殿?」
首を傾げながら名をあげるシオンにアルバートは首を横に振った。
確かに回帰魔法に関わったローランであれば回帰前の記憶を持っているかもしれない。
アルバートはメデア村に手紙を送った。回帰したすぐ直後にである。
だが、帰ってきた返事はローランからのものではなかった。
彼の後継者となった巫女からで、ローランは手紙が届く3日前に心臓発作で亡くなったという。
酷い苦しみ方で呪いだったかもしれないと巫女は疑っていた。アルバートの記載されている内容は興味深く時間をおいてから連絡すると書かれていた。
今は彼の葬儀で忙しいとそれ以上のやりとりは行っていない。
はじめに見つけた呪いの方式を箱に詰め、手紙と土産を添え騎士に送り届けたが返事はまだない。
「おそらく回帰魔法の代償だろう。ローランがあの時付け加えた構想、あれでほとんどの負荷が自分へ向くようにしていた」
回帰後、魔法の構想を紙に何度か書き記してようやく気付いた。だから術者自身であったアルバートは無事だった。
事業の問題を部下に任せてアルバートは王都へと戻った。変わらない父親、魔法使いの師に色々話を持ち込んだが自分の話を全く信じてもらえなかった。
多忙で疲れたのだろうと父親に言われて、病院に送られそうだからアルバートはそれ以上の話はしなくなった。
アリーシャも回帰者であると知り、自分も回帰者であることを告白するとアリーシャから胸倉を掴まれて非難された。アルバートが回帰前のどこから話すべきかと悩み口を閉ざしていた時に。
「どうしてっ! 何でこんなことをしたの。こんな王宮に放り込まれた時へ戻して嫌な思いをまたさせて何の嫌がらせなの」
その時かっとなり彼女を押しのけた。その時に彼女の首を掴んだ形になってしまったが、彼女を心配する声よりも自分の苛立ちであった。
「回帰してもお前は自分のことだけしか考えないんだな」
一瞬頭にちらついたのはアリーシャの呪いで命を落としたシオン、自分の全てを犠牲にしたローランの姿だった。
アリーシャは彼らのことを知らない。死んだ後だから知らなくて当然だ。
ただ、嫌がらせという言葉に腹が立った。アリーシャの為にローランは自分の全てを投げ出したのを知っていたから。
アリーシャとのやりとりの話を聞いてシオンは額に手を押し当てた。
予想だが、アルバートはアリーシャに言い分けも謝罪の一言もなかっただろう。
言い過ぎたという自覚はあるだろうが、むしろこのままアリーシャに嫌われてしまおうとか、親しくならないようにしてしまおうとか企んでいるようにも見える。
裁判の経緯もアリーシャに絶対話すなと何度も釘を刺して来た。
寄宿学校にいた時もアルバートはシオンや後輩を庇い、教員からのお叱りを受けたり先輩から恨まれていたのを思い出した。
アルバートはアリーシャに恨まれたままでいようとしている。
それが彼にとってアリーシャから受ける罰だと思っている。
ここでシオンがどういおうとアルバートは変える気がないだろう。
むしろ無理に言うとこの呪いの一見から関わらせようとしなくなるかもしれない。
ここまで色々話された上で線を引かれるのは困る。
そもそも、懺悔室の神父のようにシオンに告白しなければいいのに。
何故かアルバートはぼそっとシオンに自分の言動について吐露してくる。
寄宿学校の時もそうだった。教師に言えばいいのに何故かシオンにしか言わない。シオンが教師に伝えることも許さなかった。
ことあるごとにアルバートはシオンのことを頑固だと言っているが、アルバートの方が頑固だとシオンは思っていた。
「それで、アリーシャ様にはローラン殿のことを話しましたか?」
「呪いのことは言ったが、どう犠牲になったかまでは言っていない」
「そのうち話した方がいいです。一応アリーシャ様の縁者のようですし」
アリーシャの父親の後任というから血縁的には無関係である。それでもローランはアリーシャを引き取ることも考えていたようだし、一応アリーシャにも知る権利はあるだろう。
他にも色々知らせた方がいいとシオンは思ったが。
「そうだな。時期をみてローランのことは話そう」
呪いの件に関してシオンもできる限り協力することになった。アルバートと異なり王宮内を出入りすることはできないが、王宮外の情報の整理を手伝ってもらうことになった。
例えば、アリアが何故呪いの知識を持っていたか。花姫は魔力を持つが専門的な魔法学は学ばされておらず、呪いについても詳しく学ぶことはない。それが何故ティティスの呪いというだいそれた代物を扱うまでに至ったか。
こんこんとノックの音がする。入るようにいうと侍女が、客人が参ったことを伝えた。
例の呪いの方式を持ってメデア村に向かわせた騎士が戻ってきたという。メデア村から少女を連れてきて。
「待たせたな! アルバート殿」
どしどしと入ってきた8歳の少女が満面な笑みを浮かべた。亜麻色のふわふわとしたウェーブのかかった髪に、アリーシャと同じ深緑の瞳を持っている。
「どちらさまで」
とても面倒くさい気がしてきたが、どこのどなたか尋ねてみる。
「む、王都の紳士というのはまず名乗ってからレディに名を尋ねるものであろ」
既にアルバートが何者か知っているのにあえて礼儀を求める少女にアルバートは棒読みで名乗った。
「アルバート・クロックベルといい、子爵です」
「私はエヴァ、メデアの巫女である」
えへんと彼女は自信満々に名乗る。アルバートは「は?」と素っ頓狂な声をあげた。
確かメデアの巫女は祭場から動くことができなかったはずでは。
連れて来た騎士をみると騎士は困ったように笑って言った。
「本当です。メデアの祭祀は現在双子の巫女で、この方は妹の方です」
現在姉は祭祀の仕事の為に居残っているという。
「現祭祀官が双子で助かったな。本来であればローラン死後忙しくて王都までくることができなかったから。さぁ、集めたティティスの呪いの残りをみせてもらおう。ばしばし解体しちゃうぞ」
魔力持ちが例の女神の名を呼ぶなど普通はできない。うっかり呪われてしまうかもしれないから。アルバートですら呼ぶのを躊躇っているのだ。
どうやら本物のメデアの巫女のようである。
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