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本編① 悪女は回帰する
6 回帰前と違う展開
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「ジベール様、失礼します」
ノックはしたのだが、相手の反応を聞くやいなやすぐに扉を開けた。
相手の許可がないと開けないなど礼儀がなっていないと言われても構わない。
花姫を辞める気なのだから評判が落ちようとどうでもよかった。
突然の侍女の入れ替えがどういうことだとジベールに問いただしたかった。そして以前話していた花姫辞退の件も再度話すつもりである。
執務室に入ると、ジベールはおらず代わりに見知らぬ老紳士三人と若い女性がいた。老紳士3人は奥の机と周りを囲んだ簡易式机で書類作業をしていて、若い女性は手前のソファに腰をかけていた。
「えーとこちらはジベール様の執務室ですよね」
「ええ、そうですよ。アリーシャ様」
ジベールの席に腰かけている老人は穏やかに笑った。王宮に入って男性からこのように優しい視線を向かれたことは経験なく落ち着かない。
「あなた方は一体……」
「ほほ、引退した元執事ですよ」
「私は正確には従僕でしたがね」
何故ここに彼らがいるのだ。引退したというのであれば何故後任のものになっている席に座っているのだろう。
「花姫の監督に専念したいから執事の仕事を手伝って欲しいと突然呼び出されてね」
「いや、あれは拉致に近い」
「折角、田舎でのんびり釣りをしていたのに着の身着のまま馬車に放り込まれてしまったわい」
理解が追い付かない。物騒な言葉が出てきたような気がする。
「すでに引退された方々なのに大丈夫なのですか?」
アリーシャの質問に三人は問題なさそうに答えていく。
「陛下からの要望でもあるししょうがないだろう」
「それにしても仕事がこんなにたまっているとはな……この辺りは適当にすればいいのに」
「あいつは真面目すぎるからなぁ。まぁ、仕事を残して引退した私たちにも責任はあるんじゃが」
ほほ、と和やかに笑う老人三人にアリーシャは頭を抱えた。
元々こちら勤務していたとはいえ、引退した部外者が王宮の内部に関わる仕事をさせていいのだろうか。
王自身からの要請なら大丈夫なのだろうか。
そんなことを自分が心配してもどうしようもない。自分の目的は別にあると思い出し本来の執務室の主のことを尋ねた。
「その、ジベール様はいずこに?」
「陛下の元であれこれと話し込んでおった。あれは朝まで戻ってこないだろう」
さすがのアリーシャも国王の元へ殴り込みするほど無謀ではない。今日はジベールへの直訴は観念して戻るとしよう。
「あの、アリーシャ様ですね」
執務室のソファで腰をかけ書類を眺めていた女性が声をかける。丸眼鏡をかけた学者然とした女性である。
「そうですが、私に何か?」
「私は、ジュリア・フローエと申します。この度アリーシャ様の教師となりました」
本当は後日挨拶をする予定であったという。彼女としてはアリーシャの方からやってくるとは思わなかった。
「あの、私にはすでに教師たちがいて、今更新しい教師を持っても」
「彼らはくびになりました」
くび?
思わず間抜けな声を出しそうになりぐとこらえる。
「アリーシャ様の教育費用を横領し、色ごとや博打に使用していたところを押さえたようです」
さすがに王も、執事もかんかんに怒っていたが、騒動にせず穏便に済ませることとした。三人は監獄塔に送られ、裁判の結果を待っている状態である。このまま業務を任せるわけにはいかず解雇を先に決め、横領の罪に対する裁きは裁判官の判断に委ねたという。
アリーシャの教育係が全ていなくなってしまったため、ジベールは急遽フローエ夫人を呼び寄せた。
「あの、私に教えても時間の無駄だと思いますよ」
「どうしてそのように思われるのですか?」
「花姫に相応しくなく成績も4人の花姫の中で最下位である」
フローエ夫人はきらりと眼鏡を光らせた。鋭い目つきで思わずアリーシャは身構えた。
「先ほどアリーシャ様のペーパーテストの内容を確認させていただきました」
そういえばこの数日テストを立て続けにさせられていた。
何故突然と思ったが、アリーシャの家庭教師に問題があったのではないかとジベールは疑っていたのがはじまりだったようである。
横領を突き止めた為、急遽他の花姫の教師に依頼してペーパーテストを作らせたという。
フローエ夫人がやってくるまでの時間稼ぎだったのだろう。
同時に各花姫の成績を視認しやすくする目的もあったようだ。
「アリーシャ様の授業の進行度をみると八割程まだ範囲外だというのによく回答されております。本の丸写しのようなものもありますが、カンニングはなかったと監督者からの発言もあり本当に本の丸暗記をされているようですね」
ペーパーテスト中に見知らぬ監督がじぃっとアリーシャの様子を伺っていて落ち着かなかったのを思い出した。
ほとんど白紙で提出されても仕方なかったというのにアリーシャは全ての回答欄を埋めた。
フローエ夫人の言う通り丸暗記したところは小さな字で思い当たる文章を書きつらねていた。
「まだ学んでいない範囲も独学で学ばれたのですね。その行動力は素晴らしいです」
家庭教師の堕落と怠慢は残念なことであるが、限られた中アリーシャは図書館を出入りして知識を身に着けようとした行動を喜ばしい。フローエ夫人は心から称賛した。
「ですが、私は花姫の中では最も妃から程遠いですし、花姫を辞めたいとこうしてジベール様の元へ訪れました」
「なんとっ、それはいかん。花姫は大事な儀式だ。歴史が始まって以来花姫が辞退する例はない」
「病気でやむなく辞退した例はあるが……五体満足、健康体で辞めたものはおらんのぅ」
奥の方でアリーシャとフローエ夫人の会話に聞き耳立てていた老人は慌てて騒ぎだした。
本当に花姫を辞退するというのは大事なことであるようだ。
「先ほど言った通り、私の教育は時間の無駄でしょう」
他の花姫の向上心の助けをした方がずっと夫人としてはよいのではないか。
「いいえ、無駄かどうかは私が判断いたします」
心配ありませんとフローエ夫人は微笑んだ。
「ジベール様の言う通りアリーシャ様は自信がないようです。ですが大丈夫です。ペーパーテストの根気強さをみるとまだまだ挽回の余地はあります」
「私、とても問題児なのですよ。飲み物を零す粗相だけじゃなく、テーブルをひっくり返したり人にものを投げつけたり」
「正直にお話してくださるのですね」
フローエ夫人は嬉しそうにしていた。自分の非常識さをアピールしていたのに何故この女の好感度があがっていくのだ。
「問題ありません。王太后様は花姫になった時は毎日泣いておられましたし、教材を庭に捨てたり、自分のドレスを破って社交界に出るのを拒否される程の問題をかかえておりましたので」
フローエ夫人の言う話にアリーシャは首を傾げた。
自分のに比べると可愛いものであるが、それでも花姫としてどうなのだろうという行動を現皇太后がしていたことに驚いた。
どうやら当時の王宮にいながら知らなかった者もいるようである。
「そんなことは知らなかった」
「責任者だったお前に知られないように侍女たちが緘口令を敷いたからだろう」
「お前は知っていたのか」
「侍女たちにお前の耳に触れないようにしてくれと泣きつかれたのを今も覚えておる」
先人たちから知らされる思わぬ事実に驚きが隠せずにいる。
「ですので、ご安心ください。アリーシャ様。それに、私は出来の悪い子程燃えますのよ」
ぐっと拳を握り、相変わらず微笑みかけるフローエ夫人は何故か威圧的に感じ眼鏡が輝いてみえた。
ジベール様、何でこんなことになっているの。
アリーシャが求めているのは花姫辞退である。花姫の環境改善ではない。
自分の周りの環境をよくされてもアリーシャは困る。侍女と家庭教師の入れ替えをしても王太子の態度は変わらない。
このままいけば自分はまた花姫毒殺容疑にかけられて処刑されてしまう。
アリーシャは予想外の展開に新しいストレスを抱えることになる。
ノックはしたのだが、相手の反応を聞くやいなやすぐに扉を開けた。
相手の許可がないと開けないなど礼儀がなっていないと言われても構わない。
花姫を辞める気なのだから評判が落ちようとどうでもよかった。
突然の侍女の入れ替えがどういうことだとジベールに問いただしたかった。そして以前話していた花姫辞退の件も再度話すつもりである。
執務室に入ると、ジベールはおらず代わりに見知らぬ老紳士三人と若い女性がいた。老紳士3人は奥の机と周りを囲んだ簡易式机で書類作業をしていて、若い女性は手前のソファに腰をかけていた。
「えーとこちらはジベール様の執務室ですよね」
「ええ、そうですよ。アリーシャ様」
ジベールの席に腰かけている老人は穏やかに笑った。王宮に入って男性からこのように優しい視線を向かれたことは経験なく落ち着かない。
「あなた方は一体……」
「ほほ、引退した元執事ですよ」
「私は正確には従僕でしたがね」
何故ここに彼らがいるのだ。引退したというのであれば何故後任のものになっている席に座っているのだろう。
「花姫の監督に専念したいから執事の仕事を手伝って欲しいと突然呼び出されてね」
「いや、あれは拉致に近い」
「折角、田舎でのんびり釣りをしていたのに着の身着のまま馬車に放り込まれてしまったわい」
理解が追い付かない。物騒な言葉が出てきたような気がする。
「すでに引退された方々なのに大丈夫なのですか?」
アリーシャの質問に三人は問題なさそうに答えていく。
「陛下からの要望でもあるししょうがないだろう」
「それにしても仕事がこんなにたまっているとはな……この辺りは適当にすればいいのに」
「あいつは真面目すぎるからなぁ。まぁ、仕事を残して引退した私たちにも責任はあるんじゃが」
ほほ、と和やかに笑う老人三人にアリーシャは頭を抱えた。
元々こちら勤務していたとはいえ、引退した部外者が王宮の内部に関わる仕事をさせていいのだろうか。
王自身からの要請なら大丈夫なのだろうか。
そんなことを自分が心配してもどうしようもない。自分の目的は別にあると思い出し本来の執務室の主のことを尋ねた。
「その、ジベール様はいずこに?」
「陛下の元であれこれと話し込んでおった。あれは朝まで戻ってこないだろう」
さすがのアリーシャも国王の元へ殴り込みするほど無謀ではない。今日はジベールへの直訴は観念して戻るとしよう。
「あの、アリーシャ様ですね」
執務室のソファで腰をかけ書類を眺めていた女性が声をかける。丸眼鏡をかけた学者然とした女性である。
「そうですが、私に何か?」
「私は、ジュリア・フローエと申します。この度アリーシャ様の教師となりました」
本当は後日挨拶をする予定であったという。彼女としてはアリーシャの方からやってくるとは思わなかった。
「あの、私にはすでに教師たちがいて、今更新しい教師を持っても」
「彼らはくびになりました」
くび?
思わず間抜けな声を出しそうになりぐとこらえる。
「アリーシャ様の教育費用を横領し、色ごとや博打に使用していたところを押さえたようです」
さすがに王も、執事もかんかんに怒っていたが、騒動にせず穏便に済ませることとした。三人は監獄塔に送られ、裁判の結果を待っている状態である。このまま業務を任せるわけにはいかず解雇を先に決め、横領の罪に対する裁きは裁判官の判断に委ねたという。
アリーシャの教育係が全ていなくなってしまったため、ジベールは急遽フローエ夫人を呼び寄せた。
「あの、私に教えても時間の無駄だと思いますよ」
「どうしてそのように思われるのですか?」
「花姫に相応しくなく成績も4人の花姫の中で最下位である」
フローエ夫人はきらりと眼鏡を光らせた。鋭い目つきで思わずアリーシャは身構えた。
「先ほどアリーシャ様のペーパーテストの内容を確認させていただきました」
そういえばこの数日テストを立て続けにさせられていた。
何故突然と思ったが、アリーシャの家庭教師に問題があったのではないかとジベールは疑っていたのがはじまりだったようである。
横領を突き止めた為、急遽他の花姫の教師に依頼してペーパーテストを作らせたという。
フローエ夫人がやってくるまでの時間稼ぎだったのだろう。
同時に各花姫の成績を視認しやすくする目的もあったようだ。
「アリーシャ様の授業の進行度をみると八割程まだ範囲外だというのによく回答されております。本の丸写しのようなものもありますが、カンニングはなかったと監督者からの発言もあり本当に本の丸暗記をされているようですね」
ペーパーテスト中に見知らぬ監督がじぃっとアリーシャの様子を伺っていて落ち着かなかったのを思い出した。
ほとんど白紙で提出されても仕方なかったというのにアリーシャは全ての回答欄を埋めた。
フローエ夫人の言う通り丸暗記したところは小さな字で思い当たる文章を書きつらねていた。
「まだ学んでいない範囲も独学で学ばれたのですね。その行動力は素晴らしいです」
家庭教師の堕落と怠慢は残念なことであるが、限られた中アリーシャは図書館を出入りして知識を身に着けようとした行動を喜ばしい。フローエ夫人は心から称賛した。
「ですが、私は花姫の中では最も妃から程遠いですし、花姫を辞めたいとこうしてジベール様の元へ訪れました」
「なんとっ、それはいかん。花姫は大事な儀式だ。歴史が始まって以来花姫が辞退する例はない」
「病気でやむなく辞退した例はあるが……五体満足、健康体で辞めたものはおらんのぅ」
奥の方でアリーシャとフローエ夫人の会話に聞き耳立てていた老人は慌てて騒ぎだした。
本当に花姫を辞退するというのは大事なことであるようだ。
「先ほど言った通り、私の教育は時間の無駄でしょう」
他の花姫の向上心の助けをした方がずっと夫人としてはよいのではないか。
「いいえ、無駄かどうかは私が判断いたします」
心配ありませんとフローエ夫人は微笑んだ。
「ジベール様の言う通りアリーシャ様は自信がないようです。ですが大丈夫です。ペーパーテストの根気強さをみるとまだまだ挽回の余地はあります」
「私、とても問題児なのですよ。飲み物を零す粗相だけじゃなく、テーブルをひっくり返したり人にものを投げつけたり」
「正直にお話してくださるのですね」
フローエ夫人は嬉しそうにしていた。自分の非常識さをアピールしていたのに何故この女の好感度があがっていくのだ。
「問題ありません。王太后様は花姫になった時は毎日泣いておられましたし、教材を庭に捨てたり、自分のドレスを破って社交界に出るのを拒否される程の問題をかかえておりましたので」
フローエ夫人の言う話にアリーシャは首を傾げた。
自分のに比べると可愛いものであるが、それでも花姫としてどうなのだろうという行動を現皇太后がしていたことに驚いた。
どうやら当時の王宮にいながら知らなかった者もいるようである。
「そんなことは知らなかった」
「責任者だったお前に知られないように侍女たちが緘口令を敷いたからだろう」
「お前は知っていたのか」
「侍女たちにお前の耳に触れないようにしてくれと泣きつかれたのを今も覚えておる」
先人たちから知らされる思わぬ事実に驚きが隠せずにいる。
「ですので、ご安心ください。アリーシャ様。それに、私は出来の悪い子程燃えますのよ」
ぐっと拳を握り、相変わらず微笑みかけるフローエ夫人は何故か威圧的に感じ眼鏡が輝いてみえた。
ジベール様、何でこんなことになっているの。
アリーシャが求めているのは花姫辞退である。花姫の環境改善ではない。
自分の周りの環境をよくされてもアリーシャは困る。侍女と家庭教師の入れ替えをしても王太子の態度は変わらない。
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