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4章 北天狐
7 帝都の毒
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春になる頃、クロードの異母兄リド=ベル大公が視察へ訪れるが、場面はクリスサアム帝国の帝都アンティアに移る。
高級ホテルで夜景を楽しむ少女がいた。アメリーである。
このホテルの持ち主である男の融通で良い部屋に泊り、毎日のように豪遊していた。
明日は誰と遊ぼうかなとテーブルに広がる手紙を眺める。
どれもアメリーの若さと美しさに魅了された貴族や金持ちからの招待状である。
夫のノース子爵が遠方へ異動になり、帝都に残ったアメリーはさらに拍車をかけ遊び惚けていた。
ノース子爵の異動に関しては、政治の仕事において大きなミスを犯し皇帝の怒りを買った為である。
爵位剥奪は免れたものの、職場配置を北の役場へと移される。リド=ベル公国国境付近である。貴族からはその名の通りノース子爵になったのだなと揶揄する者もいて、同情する者もいた。
彼がこのように落ちぶれたのはアメリーに原因があった。
アメリーの散財をまかなうよう身を粉にし働き、疲弊しありえないミスを犯してしまったのである。
本来であればアメリーも一緒についていくべきであろう。そう噂する者もあった。
しかし、アメリーは田舎の暮らしを拒否し帝都に残った。
夫のお金などなくても彼女の為にお金をなげうつ男がたくさんいる。
特に彼女の一番の恋人はカイル第三皇子である。何かあれば、彼がアメリーの為に動いてくれる。
そのうちカイル第三皇子の館へ招かれる予定である。
婚約者がいるというが、カイル皇子は乗り気でなくアメリーを望んでいるという。
そのうちノース子爵とは離婚して、カイル皇子と結婚する約束までしている。
皇子妃、いずれは大公妃である。
色々誤算はあったが、ようやく自分に相応しい地位が得られそうで満足していた。
「あら」
アメリーは招待状ではなさそうな手紙を拾う。
以前、アメリーに北天狐の毛皮のコートをプレゼントすると言っていた伯爵である。
中身を確認するとカイル第三皇子へ自分の罪の軽減をお願いしてほしいというものであった。
北天狐密猟者は大量捕縛され、罰則されている。彼らの雇用者を辿ってみると、例の伯爵であった。
北の賢人と呼ばれ狩りを禁止されている北天狐を密猟し、売買していたことが判明し彼の罪が帝都内でも明らかになった。
他にも禁止されていた密猟にも手を出しており、帝国で禁止されている奴隷売買も行っていることが判明した。
貴族であっても罪は免れない。
よくて永久投獄、悪くて死罪である。
逮捕された伯爵は急いでアメリーに手紙を送ったのがこれである。
「あら、残念ねぇ」
アメリーは興味なさげにぽいっと屑箱の中に手紙を置いた。彼がいなくなったとしてもアメリーには何の痛手もない。
むしろ手つきが厭らしくて最近は嫌悪感を抱いていたのだ。
「さぁて、今度はどのパーティーに出ようかな。あ、宮殿でお茶会ね、いいわね」
男を添わせることはないが、宮殿でのお茶会は憧れである。いずれはあそこで住んでみたいと願うが、願いはかなえられなかった。
ヴィンセント皇太子の妃になった気弱な姉の女官になれればと思ったが、姉は良い返事をくれなかった。それどころか最近のアメリーの行動を嗜める文面を送ってくる。
気弱なくせに生意気なことだと怒ったが、カイル第三皇子が館に招き入れてくれると言ってくれてすぐに機嫌を戻した。
「そうね。明日はこっちの男爵様とご飯食べてお茶会用のドレスを買ってもらいましょう。ああ、楽しいわ」
アメリーは髪を指でいじりすっと撫でた。その時にアメリーの耳飾りが怪しく輝いた。
赤いルビーの蝶々を象ったデザインのものである。
灯りの中できらりと輝くが、一瞬だけじわっと黒い影のようなものが現れて薄れて消えていった。
高級ホテルで夜景を楽しむ少女がいた。アメリーである。
このホテルの持ち主である男の融通で良い部屋に泊り、毎日のように豪遊していた。
明日は誰と遊ぼうかなとテーブルに広がる手紙を眺める。
どれもアメリーの若さと美しさに魅了された貴族や金持ちからの招待状である。
夫のノース子爵が遠方へ異動になり、帝都に残ったアメリーはさらに拍車をかけ遊び惚けていた。
ノース子爵の異動に関しては、政治の仕事において大きなミスを犯し皇帝の怒りを買った為である。
爵位剥奪は免れたものの、職場配置を北の役場へと移される。リド=ベル公国国境付近である。貴族からはその名の通りノース子爵になったのだなと揶揄する者もいて、同情する者もいた。
彼がこのように落ちぶれたのはアメリーに原因があった。
アメリーの散財をまかなうよう身を粉にし働き、疲弊しありえないミスを犯してしまったのである。
本来であればアメリーも一緒についていくべきであろう。そう噂する者もあった。
しかし、アメリーは田舎の暮らしを拒否し帝都に残った。
夫のお金などなくても彼女の為にお金をなげうつ男がたくさんいる。
特に彼女の一番の恋人はカイル第三皇子である。何かあれば、彼がアメリーの為に動いてくれる。
そのうちカイル第三皇子の館へ招かれる予定である。
婚約者がいるというが、カイル皇子は乗り気でなくアメリーを望んでいるという。
そのうちノース子爵とは離婚して、カイル皇子と結婚する約束までしている。
皇子妃、いずれは大公妃である。
色々誤算はあったが、ようやく自分に相応しい地位が得られそうで満足していた。
「あら」
アメリーは招待状ではなさそうな手紙を拾う。
以前、アメリーに北天狐の毛皮のコートをプレゼントすると言っていた伯爵である。
中身を確認するとカイル第三皇子へ自分の罪の軽減をお願いしてほしいというものであった。
北天狐密猟者は大量捕縛され、罰則されている。彼らの雇用者を辿ってみると、例の伯爵であった。
北の賢人と呼ばれ狩りを禁止されている北天狐を密猟し、売買していたことが判明し彼の罪が帝都内でも明らかになった。
他にも禁止されていた密猟にも手を出しており、帝国で禁止されている奴隷売買も行っていることが判明した。
貴族であっても罪は免れない。
よくて永久投獄、悪くて死罪である。
逮捕された伯爵は急いでアメリーに手紙を送ったのがこれである。
「あら、残念ねぇ」
アメリーは興味なさげにぽいっと屑箱の中に手紙を置いた。彼がいなくなったとしてもアメリーには何の痛手もない。
むしろ手つきが厭らしくて最近は嫌悪感を抱いていたのだ。
「さぁて、今度はどのパーティーに出ようかな。あ、宮殿でお茶会ね、いいわね」
男を添わせることはないが、宮殿でのお茶会は憧れである。いずれはあそこで住んでみたいと願うが、願いはかなえられなかった。
ヴィンセント皇太子の妃になった気弱な姉の女官になれればと思ったが、姉は良い返事をくれなかった。それどころか最近のアメリーの行動を嗜める文面を送ってくる。
気弱なくせに生意気なことだと怒ったが、カイル第三皇子が館に招き入れてくれると言ってくれてすぐに機嫌を戻した。
「そうね。明日はこっちの男爵様とご飯食べてお茶会用のドレスを買ってもらいましょう。ああ、楽しいわ」
アメリーは髪を指でいじりすっと撫でた。その時にアメリーの耳飾りが怪しく輝いた。
赤いルビーの蝶々を象ったデザインのものである。
灯りの中できらりと輝くが、一瞬だけじわっと黒い影のようなものが現れて薄れて消えていった。
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