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6章

3 白き雪の姫

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 ヨハンナが示した通り、この先には主人の部屋がある。
 灰塵と化したカタリーナ姫の肉体を収めた棺桶が安置されていた部屋でもあった。

 今はこの部屋にカタリーナ姫が、ニコルがいる。
 ディルクは大きな扉を目の前にごくりと唾を呑みこんだ。

「ディルク」

「ジルケ、ここまでついてきてくれてありがとう。君がいなければ僕はここまで来られなかった」

 心からそう思った。
 戦士でもあり、術者でもあったヨハンナ相手に自分はうまく立ち回れず、無残に敗れていただろう。
 ディルクはジルケの協力に感謝した。

「だけど、ここから先の戦いは君を巻き込みたくない」

 ここで別れ、城門にいるゲルトたちと合流して逃げてほしい。
 そういおうとするとジルケはディルクの後頭をぶん殴った。
 まさかここで殴られるとは思っておらずディルクはきょとんとしてしまう。

「全く、バカだな。私がここまで来たんだ。だったら、最後まで見届けさせてくれよ」

 どんな悲劇が待ち構えようとジルケは逃げたりはしない。
 ディルクがその場で崩れそうになれば背中を蹴ってでも立ち上がらせてやる。

「さっきのヨハンナ戦は同じ黒魔術師だからしゃしゃり出たけど、今度は大人しく観客をするよ。野次を飛ばすし、お前がカタリーナ姫に殺されれば私が彼女を何とかする」

 はっきりという言葉にディルクは苦笑いした。
 ここまでくれば彼女は最後まで付き合ってくれるだろう。
 無駄に一緒に森を探索した仲で、なんとなくわかっていた。

「そうか。そうならないようにがんばるよ」

 ディルクはそう笑い、大きな扉を開いた。

 もう後戻りはできない。
 必ず彼女を止めてみせる。

 扉を開くと荘厳な椅子が奥にあり、そこにこの城の主人は座っていた。
 奥に座す女主人はじっと扉が開くのをみて侵入者を出迎えた。

 銀髪の麗人。

 その言葉の通り美しい少女であった。

 顔かたちはニコルと同じものである。
 確かにニコルも顔だちは整っていたが、目の前の少女は驚くほど白い肌で雪のようであった。
 赤い瞳は深紅の薔薇を想像させてしまう。

 雪の華姫。

 カタリーナ姫はそう呼ばれていたという伝承が残っている。
 その呼称に相応しい容貌であった。
 恐ろしい赤い目はぎらりとディルクを睨むようにみつめている。
 ジルケはその形相に身震いしたが、それすらも美しいと感じてしまった。

「ようこそ、狩人さん。ここまで来られるとは思ってもいなかったから驚いたわ。でも、歓迎してあげる」

 すぐに表情をかえカタリーナ姫は穏やかな笑顔で挨拶をした。
 何か言わなければとディルクは声にしようとする。
 その前にジルケが大声で要求した。

「カタリーナ姫! 今すぐニコルの肉体から出ていけ!!」
「ちょ、ジルケさん」
「言ったろ。野次は飛ばすと」

 ジルケはけろりとした表情で言った。
 彼女の言葉がおかしかったのかカタリーナは気を悪くした様子はなかった。

「あの時教えたつもりだったけど、わかっていないのね。でも、いいわ。何度でも教えてあげる」

 滑稽だといわんばかりにカタリーナは笑い、はっきりと宣言した。

「私がニコルよ。ニコルは私の生まれ変わり。だけど、あなたたち狩人に見つかったら処分されるでしょう。だから、無害な人間にならなければならなかった。また火あぶりの刑に遭ったらたまったものじゃないわ。無害な人の娘の人格……それがニコルよ。私が作った偽物の人格」
「ニコルは今どうしている? 一度形成されたものは簡単には消えないだろう」

 あの人格がただの幻とは思えない。
 彼女は怒り笑い、そしてディルクの為に涙を流した。
 あの時のニコルがカタリーナのみせた一瞬の夢幻とは思いにくい。

「そうね。十数年も肉体を任せたから、ある程度確立はされているわ」

 その言葉を聞き、ふとディルクは希望を持ち出した。
 もしかしたらニコルを呼び戻せるのではないかと。

 そんな期待は持たない方がいいとわかっている。

 それでもディルクはもう一度ニコルに会いたいと感じた。
 彼女を殺すためにここまで来たのに。
 ディルクはここまできておきながら苦し気な表情を浮かべた。
 彼の苦悩を理解し、ジルケはいった。

「ニコルに会いたい。そう思うのがどうして悪いことなのか? ニコルもお前に会いたがっているだろう」

 ジルケはディルクの悩みを解し後押しした。それにカタリーナ姫はやれやれと肩を揺らす。

「無駄よ。あの子は今眠っている。よっぽどショックだったのでしょう。あんなに憎んだ人狼、それが自分だったという事実を知って深く眠りについた。もう起きることはないでしょう」

 しかし、カタリーナとしては何の問題もなかった。元々自分の肉体だったのだ。仮初の人格などもう必要はない。

「お前の望みは何だ?」
「決まっているでしょう。復讐よ。私を裏切ったクルス村に対して……私にひどい仕打ちをしたこの国に。そうね、いっそメリス国を人狼の国にしたら最高かしら。この国に人なんて必要ないわ」
「僕たちの国を化け物の国にする気か!」
「化け物? あなたに私の何がわかるのよ!」

 カタリーナは心から辟易した表情でディルクを睨みつけた。

「人に理解してもらう為、自分の居場所を作るために私は必死で努力した。人々が望むまま薬を作ってきたわ。彼らが私を怯えているのは知っていたわ。でも、いつかはわかってくれると信じていた。耐えてきた。知ってる? メリル国を覆い尽くした死病・黒皮病の特効薬を発明したのは私なのよ」

 ハンスが解読した日記の中にその文面があったのをすでに知っている。

「それを開発し、彼、昔のクルス村の人に精製法を教えた。世間では薬は私ではなく彼が作ったと言われていたけどそれでもよかった。あれで多くの人が救われるならと。でもね」

 カタリーナはどんどん怒りの表情へ変わっていった。
 今までの畏れも、手柄の横取りも、怒る気はなかった。
 しかし、それからのことは許せなかった。

「あいつらは私を売った。魔女裁判にかけた。そして薬はクルス村の村長の祖先が開発したものだとされた。あなたにわかるかしら? 今まで尽くした人に裏切られた気持ちは。裏切ったのは人よ!」

 ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない。

 まるで呪いのように彼女の口からその言葉が発せられる。

「黒皮病よりも恐ろしい病をばらまいてやろうかしら! それとも人狼の下っ端眷属にでもしてやろうかしら。この国に人なんていらない。人がいるから私たち人狼は人からの弾圧に苦しまなければならない」

「やめろ!」

 それ以上の言葉を、村の少女の姿で語られるのに耐えられなかった。

「ニコル。聞こえているか? 聞こえているなら返事をしろ」

 きっとこの言葉は聞こえている。
 そう信じディルクは声をかけつづける。
 それをおかしい、滑稽とカタリーナは笑った。

「あはは、あなたっておかしいわね? ニコルは私よ。あれはお前たちの目を欺く為に作った偽物。役目を終えた偽物はもうどこにもいない! いるとすればこの私の最奥の中、そのうちニコルは消滅していくわ」
「っ……」

 消える。それがディルクには何ともいえない焦燥にかられた。
 いや、このまま消えてしまった方が彼女にはいいのかもしれない。

 カタリーナ姫は自分の体で恐ろしいことをしようとするのだ。
 それに彼女は耐えられないだろう。
 それでも、ディルクは彼女に声をかけた。

「ニコル、僕は知っている。君がこんなことを望まないということを。だから僕は君を止める。その為に君を犠牲にするかもしれない。だけど、君を一人にはしないから。絶対に」

 そういいディルクは両手に短剣を持った。地面を蹴り、目の前の少女の方へと向かった。
 できればニコルを救いたい。彼女を助けたい。殺したくない。
 だが、ここで躊躇すれば地獄が待ち受けている。

 彼女の手で地獄を作り出す前に自分は彼女を殺さなければならない。
 迷いをふりきり、ディルクはカタリーナへ襲い掛かった。

 彼女の右手が振り上げられた。
 その動作ひとつで風がきられ、強い衝撃となってディルクを襲った。
 そしてそれは突風のみではなかった。一閃がディルクの右半分の顔を抉る。

「ぐぅ」

 体制を崩しその場に崩れたディルクは震えながらも立ち上がった。
 ぼたぼたと顔から血が零れる。
 視界が狭くなるのを感じた。右目も抉られていたのだ。

「あはは、赤ずきんの名に相応しい姿ね」

 カタリーナはおかしげに笑った。
 その行為に躊躇いなどなかった。

 カタリーナは今の一閃は遊戯のひとつのような感じであった。
 それで彼が死のうとカタリーナは何とも思わなかった。

「その綺麗な銀髪は素敵だけど、あなたが私の敵ならしょうがないわよね」

 カタリーナは自分に言い聞かせ、ディルクの方へ近づいた。
 こつこつと靴の音があたりに響いた。

 ディルクは後ずされ、何とか立ち上がり右手の短剣を前に出す。
 剣先がカタリーナに向けられた。

「カリスも殺されたし、あなたを殺さないと可哀想だわ」

 うんうんと頷く動作をし、カタリーナは右腕で空を薙いだ。
 それにより再度一閃が作られた。
 逃げようにも早すぎて難しい。
 ディルクは双剣で防ごうとしたがそれでも衝撃の方が強く倒れてしまった。
 今度は腹が抉られた。

「ああ、また綺麗な赤になったわね。赤ずきん」

 カタリーナはうっとりとディルクを眺めた。
 倒れたディルクの右足を自分の左足で踏みつける。ヒールの部分で抉られるようにされディルクは呻いた。

「これで最期。ずいぶんあっけなかったわ」

 少し物足りないというようにカタリーナは狩人を見下ろした。

「ディルク!!」

 もう見られないと観客を買って出たジルケは黒魔術でカタリーナを襲った。
 しかし、それは彼女の腕の振り上げによって起きる一閃で相殺された。

「あなたは邪魔ね」

 そうカタリーナは呟き、地面を蹴りジルケの方へ飛んだ。
 駆け寄るではなく飛んでやってくる少女にジルケは驚いた。
 人とは違う動きに動揺し、急いで呪文を唱えるがそれよりも人狼の姫の方が早かった。
 目の前で腹を抉られジルケは血を吐きその場に倒れた。

「うーん、いまいちな味ね」

 右手についた血をぺろりと舐めカタリーナは感想を述べた。
 そして再度ディルクの方へ近づいた。
 ディルクが目をあけると銀髪の少女の姿がみられる。
 銀髪、赤目の姿であるがその姿はニコルと同じものであった。
 ここまできてその姿から少女の跡を探そうとする自分を愚かに感じた。

「ニコル」

 そう呟き、ディルクは右手で短剣を握り剣先を上へ向けた。
 うまく狙いが定まらないが、カタリーナへ再度刃先を向ける。
 滑稽だとカタリーナは笑った。

「随分あっけなかったわね」

 介錯をしようとカタリーナはディルクに近づいた。
 あおむけに倒した彼の上に馬乗りして、剣の先を彼の首元へと定める。

「さようなら」

 同時に剣が降ろされようとしたが、ぎりぎりのところで止められた。

 ダメ!!

 少女の叫び声が聞こえ、カタリーナはぴくんと震えた。
 カタリーナは急に剣を他所へと頬り投げた。
 何が起きたのかディルクはすぐには理解できなかった。
 懐かしい声が、雰囲気が耳元に届けられる。

「ディルクに手を出さないで」

 泣きそうな小さな少女の言葉がカタリーナの口からもれる。
 瞬時に、カタリーナは忌々し気に呟いた。

「消えなさい。偽物」

 お前の役目はとっくに終わった。

 カタリーナは眉をひそめて呟いた。
 それでも少女は引かず表へでる。

「ディルク。ごめんなさい。私、元から人狼だった。あなたを騙すつもりはなかったのに」

 カタリーナの口からでる言葉にディルクは優しく声をかけた。

「知っているよ。ニコル。君はそんな器用な子じゃないもんね」

 ディルクはカタリーナの、少女の髪を撫でた。

「全てが終わったら帰ろう。あ、クルス村に戻りづらいなら僕と旅をしよう。君が安らかに暮らせる場所を一緒に捜そう」

 今からカタリーナを殺さねばと思いながらも、ディルクはニコルに優しい言葉をかけた。
 既にニコルは人ではなくなっている。カリスに操られていたとはいえ、多くの人を殺し、人狼にしていった。
 もうクルス村で彼女は生きていけない。
 それでもディルクはニコルに生きて欲しいと願った。
 敵わぬ願いであったとしても。

「どこがいい。君が、一緒ならどこでもいいよ」

 それを聞きながらカタリーナは笑った。

「馬鹿ね。もうどこにもあの子はいないのに。本当に哀れ。あの世でゆっくりあの子の幻想と戯れていなさい」

 カタリーナは仕方ないとディルクの手に持っていた短剣を奪った。
 今からこの短剣でどこを抉りだそうか。
 心の臓が一番てっとり早い。

 狙いを定めカタリーナはディルクの心臓に向け短剣を振り下ろした。
 ディルクは死を覚悟した。

 しかし、しばらくしても痛みはこなかった。

 自分はもう倒されたのだろうか。

 ディルクが目を開けるとカタリーナ姫の顔が目の前にあった。
 彼女の左胸に短剣が刺さっているのがみえる。
 そこからぽたぽたと血が零れ落ちた。

「どうして……」

 理解できないとディルクは目を見開いた。唇が震えた。
 カタリーナは優しく微笑み、ディルクの手を握り自分の胸元にある短剣へ触れさせた。

「私も。あなたが一緒なら私はどこでもいい」

 目の前の少女は人狼の姫であるがニコルでもあった。
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